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【リュール&エルダ:外伝】伯爵令嬢、恋に悶えつつハント

幼い頃に婚約を白紙撤回されたことで私は恋愛不信とまでは言わずとも、恋愛に都合の良い甘い夢を見る事はなくなってしまっていた。


そんな私だけれど、ウェルニックさんは『良い人だなぁ』から始まって『もっとお話したい』『もっと知りたい』ってドンドン意識が彼へと傾いて行くのが止められなくて。



「これが恋というものかしら?」



尋ねた相手から返事は無いけれど、仕方ない。だって、相手は言葉を解さない魔物だもの。それに、もう死んでるし。



「リーナ様~、血抜き終わりそーですかぁ?」


「まだかかると思うわよ。なぁに、お腹が空いたのかしら?」


「正解でーす。ご飯にしゃーしょ」



貴族令嬢が魔物ハンターなんてやってるのがバレたら凄く面倒だから、登録はちゃんと本名だけど通名を使ってるの。


ギルドの職員さんも『無難ですね』ってOKしてくれてるから、登録名簿に特記した上で他の書類も全て通名で扱ってくれてるから助かるわ。それでも面倒を避ける為に、鬘を被ってるし、卒業してからは国外での活動をメインにしている徹底ぶりよ。エッヘン。


基本的にハントは単独行動なんだけど、依頼されればランクが低い子達の見学もたまに受け付けてるの。たまにね。



「さっきさー、恋なのかしらとか何とか言ってたけど、魔物の死体に聞くとか流石リーナ様っすねー」


「あなたに聞くより遥かにマシですもの」


「あ、まさか俺に恋しちゃってる系っすか?ヤベェ、ミラクルロマンスの始まりにトキメ…かないですごめんなさい、その棍棒はしまってください、もう言わないです」



南の国の人って陽気で良いけど、ちよーっと異性交遊についての価値観が私とは違うのよね。


この子の前に同行したのが、年上のお姉さん(でも未婚)だったから相談したら、赤面必須のアドバイスであまり参考にならなかったのよねぇ…。婚前交渉とか、無理ですわ…。



「でもさぁ、リーナ様って隠してるけどホントはお貴族様っしょ?ボケッとしてたら好きでもない相手と政略結婚させられちゃうんじゃね?」



お父様に限ってそんな事はないと思うし、我が家より格上のお貴族様に見初められることも無いと思うのよね。たまに夜会やお茶会に出るけれど、ギリギリの数を最低限の時間だけ出るスタンスだもの。


それに、こう見えて私はかなり優秀な成績で飛び級して学園を卒業してるもの。女で学の有るご令嬢って絶賛不人気なのですわ。オマケに国内では私は外遊で更にお勉強している事にしてるもの、余計に婚活市場での価値は下がってるわ。




でも、ウェルニックさんは褒めてくださるの。




学ぶ事も、こうして魔物ハンターとして大活躍することも。お世辞じゃなくて、本心から褒めてくださるの。


初めて会った時も、お薬の話をいっぱいしてくださったし、私が話すとニコニコしながら聞いてくださったの。


お父様とお兄様以外で男の人とお話ししてあんなに楽しかったのは、学園のおじいちゃま先生とウェルニックさんだけ。


あんまりにも楽しかったから、ウェルニックさんがお帰りになった後でお父様にウェルニックさんの事をあれこれ聞いてしまったわ。


はしたないって言われてしまうかと思ったけれど、お父様は上機嫌で色々と教えてくださったの。お父様にしてはかなり珍しく、ウェルニックさんを手放しで褒めるから驚いてしまったわ。



考え事に没頭していたら、血の臭いで魔物が寄って来ていたみたい。残念ながら私には魔力はちっとも無いから、近くに来れば気配で分かるけれど魔力での探知や感知は不可能。


今日の同行者は感知が出来るみたいで、青い顔で『リーナ様来てる!しかも二匹だよヤベェ』ですって。



「せっかくですもの、一匹ぐらいは倒してご覧なさいな。あら、ちょうどよく一匹は無毒な子じゃない♪私はもう一匹の厄介な子を引き受けますわ」



厄介な子に小石を投げて、私を狙わせる。真っ赤な目に怒りが浮かぶし、剥き出しだ巨大な牙の間からは涎。あれ、触ると爛れますの。おまけに、あの子の血液は猛毒なのよねぇ。


突進してきた魔物を、勢い良く蹴り上げると魔物が変な悲鳴を上げながら宙を舞う。んもう、涎が飛んだせいでお気に入りのブーツが汚れちゃったわ。



地面にドサッと落ちた所を、愛用の棍棒でボコボコと叩く。弱ってきたかなー?という所で首の骨をゴキッとやったらオシマイ。



「リーナ様、危ない!」


「んもう、何をぼさーっとしてましたの?」



背後ににじりよって来ていた魔物を、振り向き様に蹴る。この子は巨体だから宙を舞う事は無いけれど。よろめいた所にもう一蹴り。硬い鱗のある子だから、打撃も剣もあまり効かないのよねぇ。鱗には、ね。


わざと近寄れば大きなお口を開けて噛みつこうとするから、そのお口に棍棒をゴリッと突っ込んで足で奥まで押し込んであげる。吐き出そうとするから、隙間から短剣で口の中側から切り裂く。ちょきちょきっとな~♪


この子は心臓っぽい物が喉にあるっていう、変わった子。ちょきちょきザクッとやればはいオシマイ。



「おぇ。…リーナ様、よく平気っすね」



ちょっと臭いのぐらい、我慢できなきゃ立派な魔物ハンターになれないわよぅ?


見学目的の同行だから気にしなくても良いのに、この子ったら悄げてしまったわ。フォローは依頼に含まれてないけれど、ここまで凹んでる子を放置するほど私も冷血ではなくてよ。




ギルドを出て、そのままお宿でまったり。そろそろ帰国して社交シーズンに備えなくちゃ。ウェルニックさんのお薬のお陰で露出部位に傷も傷跡もないお肌だけど……。


「日焼けはどうにもならないのよねぇ…。ウェルニックさんはやっぱり白いお肌の子の方がお好みなのかしら?」


むむむ、と日焼け気味で小麦色の二の腕を撫でる。長袖に手袋必須、移動中はなるべく日傘。でも、焼けるのよね。



帰国の為に出国間際、この前の悄げ子がお見送りに来てくれたの。律儀な子ねぇ、とほんわか気分でにっこり。



「リーナ様、俺やっぱり魔物ハンターは諦めらんないや。だから、次にリーナ様が来るまでにはもっと修行しとく!俺、魔物を蹴って倒すとか高度過ぎるし常識的には無理な事だしさ、一人でハントとか人間には出来ない真似だし。でもちゃんとマトモなバディ見つけたし、頑張るっす!」



さり気なく私の事、否定してない?気のせいかしら??



「んで、迷惑かけたしなんか励ましてくれたような罵倒されまくったような気がするから、これ、御礼っす」


「あら可愛い髪飾りね!ありがと~」


「それつけてさ、好きな人に会ってみなよ。南の人じゃないと意味は分かんないけどさ、男から貰ったって言って嫉妬されたら脈有りじゃね?嫉妬されなかったら、俺がリーナ様貰ってやるし!!じゃあな!!」



あらあら、真っ赤なお顔で走って行ってしまったわ。うふふ。さり気なーく、プロポーズされてしまった気がしなくもないのだけど?あの子、まだ12歳よね?オマセさんねぇ。



帰国手続き中、あの子に貰った髪飾りを見せて意味を聞いたら『婚約者がいます』っていう意味なんですって。ドン引きで教えてくださったけれど、南の方は他国との縁組みはタブーなのかしら?




帰国したら、ウェルニックさんが遊びに来ていらしたの。


毎度毎度、私の帰国に合わせたかのようにウェルニックさんが遊びに来ていらっしゃる気がするのだけど?でも毎度毎度お父様が独占してらっしゃらから、私に会いに来てくださってるわけじゃないのよね。…お父様に嫉妬してしまうわ。



メイドにお願いして、超特急でお着替え。ウェルニックさんに会うのに、この髪飾り…。うう。着けて行くのは、ちょっと無理だけれど…ええぃ、ならば手に持てばヨシよ!



「お帰りなさい、イフリーナ嬢。お怪我はありませんか?…おや、それ…………婚約、したのですか」



いつも通りの穏やかな笑顔が、私の手の髪飾りを見て固まったの。ご存知なのね、博識ぶりにビックリですわ!



「いいえ、これをくれたのはあちらの子供ですの。ウェルニックさんがこれの意味をご存知なので驚きましたわ。お父様はこれの意味、ご存知?」


「いや、知らん。ごく普通の髪飾りのよにしか見えぬが、ウェルや、これが婚約とどう関係あるのだい?」



ちょ!お父様ズルいわ、いつの間に愛称でウェルニックさんを呼ぶ仲になっておられますの!?



「南国の王族の方の求婚方法だと書物で知っているだけで、詳しくは存じませんが。図案通りの髪飾りなので、驚きましたよ…ですが、受け取って髪に飾る事で受け入れたと見做すのだと記憶しております。イフリーナ嬢、それを受け取った時に髪に飾りましたか?」


「いいえ。…ところで、王族・・と仰いまして?私、あの子に不敬罪で首をチョンとやられるかもな扱いをしたのですけれど。これを受け取る前後の会話もアレでしたし……それに、あの子って王族には見えなかったし…」



ホッとしたご様子で、いつもの穏やかなお顔のウェルニックさんがお話してくださったのだけれど。



あの子、多分ホントに王族みたいだわ。ヒィですわ…。


お父様の顔色も私の顔色も同じぐらい真っ青ですわ…。しばらくあちらの国へハントに行くのは止めておきましょ…。

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