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メイド服はステータスだ!

タツキとサイコパスの人格同士の会話の場面がたくさんあります。

”〜〜〜” ←で囲まれた部分がどちらかの人格のセリフです。

実況者のセリフもあるので読みにくいかもしれないです。

 サイド:タツキ

 

 『…………あれ?』

 俺は目を覚ます。俺はベンチの上に寝かされている。あたりに並べられた大量のロッカーから、俺がいる場所がどこかの更衣室だということはなんとなく解る。 

 俺は確かサイコパスに体を乗っ取られて……ダメだ記憶が曖昧になってる。

 ”起きたなタツキ。手筈は整えておいた。お前のその恰好似合ってるぜ”

 サイコパスの声だ。

 ジーンズを穿き、黒いロングTシャツの上に白いウエスタンシャツを着ている。いつも通りのコーディネートだ。だが拳銃が入ったホルスターが両腰に装備されていた。

 なんだよこのごつい武装は? 

 ”両腰にあるホルスターの拳銃はコルトガバメントだ。旧式の銃だが連射が簡単にできるように威力共にカスタムしてある。目には強化コンタクトレンズ、服は和也に頼んで防弾繊維で作ってもらった特級品だ。安心しろお前も相手も防弾繊維でできた服を着てるから遠慮なく銃をぶっ放していいぞ。ナイフで刺されようがライフルの弾が当たろうが傷一つつかねぇよ。痛いけど”

 装備の詳細を求めてんじゃねーんだよ。なんで俺がこんな武装してるのか聞きたいんだ。そしてここは何処だ?

 ”ここはピースメーカー隊員の実戦訓練場。組織内ランキングを決める大会の会場で、この部屋は男子更衣室だよ。この大会に出るためにお前はここにいるんだ”

 大会に出る? ピースメーカー隊に入ったつもりはない。参加資格がないのになんで。

 ”1日体験入隊だよ”

 山内ってやつから来たあの手紙か?

 ”そうだよ。あいつと連絡とって大会の日と体験入隊の日を合わせて参加させてもらったのさ。ロッカーの中を見てみろ。番号は205だ”

 勝手にやってくれるぜ。

 俺は言われた通りに205番のロッカーを開ける。中には刀が一本と大きなリュックが一つ、そして仮面が一枚入っている。

 ”リュックの中には「ウージー」って名前の銃が二つと着替えが入ってる。あと俺たちの着替えだ”

 着替え? なんで着替えなんか必要なんだ。 

 ”刀の名前は龍一文字。妖刀らしい”

 こんなもん何処で手に入れてきたんだよ。

 ”出処は言えない。貰ってきたんだよ”

 ……気が乗らないな。戦う理由なんて無いし、こんな大会に出ても一回戦敗退は目に見えてる。

 ”何言ってんだよ。お前は自分の力を小さく見すぎている。それに安心しろ。お前が出るのは決勝戦だから”

 今幻聴が……気のせいか「決勝戦」って聞こえたんだけど。

 ”幻聴じゃねぇよ。大会はトーナメント方式なんだけど何故か「特別シード」って枠に俺たちが入っててな”

 幻聴であって欲しかった。

 ”まあそう言うなよ。それに気になることもあるしな”

 気になること? 

 ”お前には……関係あるが関係無い。それより仮面はもう着けておけよ”

 なんだそれ? 迷言だな。

 仮面を装着したのと同時に誰かが部屋に入ってくる。案内係の人だ。

 『デッドドラゴンさん、そろそろ出番です。闘技場までお願いします』

 『場所解んないから案内してください』

 俺は案内人の後をついていく。

 デットドラゴン? しかもこの仮面……。

 ”リングネーム的なものがあったほうがいいだろ? 仮面は顔が見られるとマズイかなっと思って用意した”

 もう好きにして……。

 会場に近づいてきたのか段々と観戦席から響いてくる人々の声が大きくなってくる。

 ゲートをくぐると大きなブーイングが俺の鼓膜を貫く。観戦席を見渡すと <デッドドラゴン=生贄> と書かれた不吉な旗を振っている観客もいる。 

 ”あいつ後でとっ捕まえて生贄にしてろうぜ”

 気にすんなよただの暇人だろ?

 サイコパスのブラックジョークをあしらいながら試合場の上に登り、一応観客に向けて右拳で挨拶をする。

 『レイン!! レイン!!』

 いきなり、俺の時とは桁違いの声援が会場中に響く。凄まじい大歓声だ。耳を塞いでも鼓膜が痛くなる。

 刀を持った青い髪の女がこちらに向かって静かに歩いてくる。

 女がゆっくりと試合上に上がる。レインって名前か。瞳が青くて綺麗だな。歳は俺と変わらないくらいかな?

 ”お前実年齢47だろ歳かけ離れてるよね?”

 なんだろ的確なツッコミなのにイラっときた。

 『…………』 

 レインが無言で、俺をすごい目つきで睨んでくる。完全に獲物を狩る目だ。

 なんか食べられそうなんだけど。

 ”お前のメンズスープを飲ませてやれ。1週間熟成させたスープはあいつの脳を溶かして廃人にすることだろうプハハハ〜〜!”

 でねぇから。あといい加減下ネタやめろ。

 『あなたが1日体験入隊で大会に参加したデッドドラゴンさん……でしたね』 

 『本当は出るつもりなかったんだけどね。気を悪くさせちゃったかな? 君たちは真剣にやってるわけだし』

 『いいえ、むしろ楽しみです。この大会に参加する人たちってみんな弱くて。あなたの前に戦った人は……ええっと……確か名前が「ア」から始まる人だったのですが』

 『アスカのことか?』

 『そうです! 私、自分より弱い人の名前を覚えるの苦手なんです。前回の大会では15秒で倒しましたが今回は10秒もかかりませんでした。雑魚を相手にしていると退屈で仕方ないのです。あなたみたいな人が飛び入りで参加していただけるとこちらとしては良い退屈しのぎになります』

 サイコパス……。

 ”なんだ?”

 戦う理由ができた。手を貸してもらうぜ。

 ”何言ってんだよ? この大会に参加したのは俺だぜ。言われなくたって手をかす”

 『……嫌味言われるかと思っていたら身内の悪口言われるなんてな。まだちょっとの間だけど、俺の家にいる以上アスカは俺の家族だ。馬鹿にしたやつはゆるさねぇぜ』

 『……あなたは何秒持ってくれるのかしら』

 『お前を倒すまで……かな?』

 『愚かな。翼をもがれ飛べなくなった龍はもはやトカゲ。まだ飛べる気でいるあなたは狂った恐竜のようです』

 『勝てる気でいる俺はイカれてるってか? じゃあどっちがイカれてるか証明して……やるよ!!』

 俺はリュックを放り投げ、右手で銃をすばやく構えトリガーを引く。勝負が始まる。

 

 サイド:アスカ

 

 医務室のベットの上で私は目を覚ます。

 『また負けた……』

 『目が覚めたようだな』

 ベッドを仕切るカーテンが開き、ピースメーカー隊医療班班長こと柳涼介やなぎりょうすけ(以下、リョウスケ)が入って来る。

 『気分はどうだ?』

 『あまりいい気分じゃないです』

 『…………あまり気にするな。あいつは、レインは別格なんだ。それに体調を崩していたにもかかわらずランキング5位だったお前が3位になったんだ。それだけでもすごいことだ』

 タツキがサイコパスに体を乗っ取られて今日の大会までの約1週間はストレス地獄だった。サイコパスは何をするにもくだらないジョークをマシンガントークが寝るとき以外止まらない。夜中にどこかに行こうとしたところを止めようとすれば当身で気絶させられる。任務放棄してもいいかしら?

 『……ずっと気になってたんですけど、この特別シードのデッドドラゴンって誰なんですか?』

 『聞くところによると入隊したばかりの新人だって話だけど、トーナメントを無傷で勝ち抜いた化け物と直接対決するんだ。それなりの実力はあると判断されているってことだろ? そろそろ時間だな』

 リョウスケがカーテンを全て開けて、医務室の廊下側の壁に設置されているモニターの電源を入れる。

 「選手入場! まずは、今日入った新人のくせに本来レイン選手が入るはずだった特別シード枠に無理やり入り込んだ大馬鹿野郎。インタビューでは参加の動機について「面白そうだったから山内に頼んだ」とふざけて答え、その後はくだらないジョークのオンパレード。更衣室では試合直前までお昼寝タイム! 素顔や経歴一切不明。どこまでもふざけた男の名はデッドドラゴン!」

 デッドドラゴンについての実況者のコメントがモニターから流れる。マイナスイメージが強いのかブーイングも聞こえる。

 「続いては今大会優勝の最有力候補。刀を持っているがいつも素手で1分以内に相手を倒すその姿はまさに化け物! 音切おとぎりレインの入場だ〜!」

 『リョウスケさん、私を観客席に連れて行ってください』

 何だか嫌な予感がする。

 『生で見たくなったか?』

 『気になることがあって』

 リョウスケは車椅子を引っ張り出して私を座らせてくれる。廊下に出て突き当たりにある、観客席に直接行けるエレベータに私たちは乗り込む。

 『君はデッドドラゴンの正体が解るのかい?』

 『わかりません』

 確信はない。だがいつも着ている服とは違うがコーディネートが、ロングTシャツにウエスタンシャツ、そしてどんな状況でも動きにくいジーンズとタツキの特徴と一致する。実況の言っていたこともサイコパスとなったタツキに一致するところがある。

 大会までの1週間、学校を早退した理由を尋ねたらーー

 「オ○ニーしたくなっちゃって」

 と下ネタで答えられた。

 エレベーターが闘技場につく。

 試合上ではデッドドラゴンとレインが向かい合っている。何か話しているように見える。試合は始まっていないようだ。

 

 パァン!

 

 試合開始を告げるゴングが鳴らないうちに、デッドドラゴンがいきなり銃をレインに向けて発砲する。


 サイド:タツキ

 

 先制攻撃で銃を撃ったが躱されてしまう。やっぱり射撃は苦手だ。

 レインがダッシュで素早く背後に右側から回りこんで俺の後頭部を狙ってチョップを繰り出してくる。俺は銃を持ったまま両腕でガードする。体重がのった重い打撃。直撃してたらヤバかった。

 『あら、いつもはこれだけで倒せるのに……』

 『チートかテメェ!』

 いつもはってアスカも他の奴らもこれだけで倒したのか? どんだけ弱いん……違うな。アスカは十分強い。町のチンピラやちょっと鍛えた格闘家程度なら一方的に倒せるくらいだろう。それはこの大会に参加している奴なら誰でもそうだろうが、そいつらを秒殺とかどんだけ強キャラ設定なんだ! 勝てるのか俺?

 俺は銃をホルスターにしまって素手で応戦する。構える、狙いをつける、引き金を引くという三つの動作を必要とする銃よりもそのまま殴る方がやっぱり手っ取り早いぜ。

 『中二病パワー全開だぜ!』

 『病気なのにこの大会に参加したの? なら手心を加えるのもやぶさかじゃないわ。結果は決まっているけど』

 『俺は一味違うぜ!』

 中学生時代にボクシング、空手、ムエタイなどの道場に乗り込んで覚えた動きや、時にはゲームのキャラが使っている技を繰り出すが当たらない。見よう見まねの俺の攻撃は紙一重で躱されて反撃される。

 『武道の心得はないようですね。無駄な動きが目立ちますよ』

 『不良にそんなもんがあってたまるかよ!』

 なんとか反撃を躱すがいつまでも躱し続けられない。

 レインの鋭い右ストレートが俺の頬をかすめる。

 動きを変えるか。まずは中二病パワー発動時に使えるスタイルのひとつ、交錯する奇術クロストリックスタイルだ。

 俺は距離を置いてからつま先でステップを踏み、右肩をレインの方に向けて構える。左腕を顔の前に、右腕をくの字に曲げた状態で下ろして左右に振る。

 『ボクシングのヒットマンスタイルですか?』

 『違うね。この構えがヒットマンスタイルだかなんだかは知らないが、俺はクロストリックスタイルって呼んでる』

 『重度の中二病ですか……』

 『中二病パワーは俺が変わりたいと願った一心で手に入れた力なんだ。別のものまで・・・・・・生まれたけど…………あんまり舐めてると痛い目を見るぜ!』

 レインの攻撃が飛んでくる。攻撃後の隙が少なくて威力の高い、人の急所を確実に狙ってくる理想的な攻めに俺は躱すことしかできなくなる。だが、一瞬の隙を見逃さないよう集中してレインの動きを見極めて、次に繰り出してくるであろう攻撃を予測する。

 『どうしたの? 早く攻めてきなさい!』

 『なんか言葉遣い少しずつ変わってきてない? 君って勝負事になると性格変わる?』 

 レインが左のハイキックを繰り出す。ガードしてその後の攻撃を予測する。次はパンチ系の攻撃が来るか……。

 『はぁ!』

 レインがハイキックの勢いを利用して飛び上がる。しまった、踵落としだ! やっぱり素人が相手の動きを読むとか無理があったか。ガードが間に合わない……ヤられる!

 俺の脳天にレインの踵落としが炸裂する。重い衝撃が頭から背骨を通って足先に伝わる。


 「ここでレインの踵落としがデッドドラゴンの脳天を直撃! デッドドラゴン、ピクリとも動かない! しかしどんな相手も秒単位で倒してきた化け物相手に1分以上戦ったことを考えるとスゴイことだ」

 実況の興奮した声がスピーカーで会場中に響き、見ている観客は逆に静かになっている。

 

 『完全に捉えた。あなたはもう動けない』

 …………あれ? 確かにレインの踵落としが当たった。当たった所は確かに痛い。だが四肢に力が入る。動ける! 

 『審判! 試合終了の合図を!』

 おいおい何審判に試合を止めるように進言してんだ?

 『続行だバカ女!』

 俺は思いっきり踏み込んで右拳を振り下ろす。

 『何!?』

 不意をついたはずなのにバックステップで躱された。やっぱりこの女は強い。が、この攻撃は布石。

 ジーンズのベルトに右手をかけ引っ張って外す。外したベルトを鞭のようにして薙ぎはらう。うまくレインの顔を捉えられた。ベルトがレインの頬に当たって乾いた音がする。

 『…………!?』

 レインが驚きながら当たったところに手を当てる。

 『無駄な動きに当たっちまったな……レイン!?』

 

 「…………こっ、ここでデッドドラゴンまさかの反撃! 撃ち下ろしの右チョッピングライトからズボンのベルトを鞭にしての二段攻撃。軽い攻撃といっても公の場でレインが攻撃を食らったのは今大会が初めてでしょう! 会場中が湧き上がる! いくつもの罠を仕掛けての変幻自在な攻撃。これがクロストリックスタイルの所以なのか?』

 

 五月蝿いなこれくらいのことで大騒ぎしてんじゃねぇよ。

 『ふふっ……なんで腰の刀や銃を使わなかったの? 勝負はついていたかもしれないのに』

 なんだ急に雰囲気が変わった。それだけじゃない。瞳の色も青から赤に変わっている。

 『お前が刀を使ってないのに俺が使うわけにはいかないだろ?』 

 『舐められたものね……でも油断したのも事実。決めたわーー』 

 アスカが刀に手をかけて居合の構えをとる。

 『あなたの戦術を全て封じてなぶりものにしてあげる』

 『居合が好きなのか? 奇遇だな俺もなんだ』

 俺は両手で銃を構える。

 『面白い人ね。居合が好きだって言ってるのに銃を使うなんて』

 とりあえず使えるものは使ってやる。当たらない前提でぶっ放してやる。

 ”銃の狙い方を教えてやるよ”

 なんだサイコパス? 簡単に頼むぜ。

 ”相手に狙いをつけるなら銃口を突きつけるように、そして一気に引き金を引く!”

 オーライ!

 俺はサイコパスの言ったとうりに狙い直して引き金を連続で引く。

 ”バン! バンバン! バンバンバン!”

 サイコパスが、俺が引き金を引くのと同じタイミングで効果音を口に出す。

 『甘いわ……』

 

 「レインが刀でデッドドラゴンが放った銃弾を全て切り落とす! 切り落とされた銃弾が場外に散らばり、観客席を守る防弾ガラスに当たる!」 

  

 クッソ化け物め! 弾を切るとか反則だろ!?

 弾切れを起こしたのかカチカチと両方の銃から音がする。その隙を突かれ、レインに信じられないスピードで距離を詰められる。

 『斬る!』

 バックステップでレインの居合斬りを躱す。レインの刀が俺の仮面をかすめる。

 『まだまだ…………なっ!!』

 レインが追撃してこない。俺の顔を見て固まっている。どうしたんだ俺の顔を見つめて。この隙にリロードしないと……顔?

 足に何かがぶつかる感触がする。銃の弾倉とポケットの中に入れておいた予備弾倉を入れ替えながら足もとを見る。着けていたはずの仮面が真っ二つになって転がっている。…………やべ俺と灘裕也の顔、めちゃくちゃそっくりだったの忘れてた。

 

 「デッドドラゴンの正体が割れたぁ! 悪の科学者の部下にして日本を脅かすテロ組織レッドドラゴンの頭目、灘裕也がなぜここに!!? …………ここで山内指令からの情報が届きました。彼の本名はタツキ。灘裕也と瓜二つの容姿を持つ某高校の学生とのことです! みなさんご安心ください彼はテロリストではありません! …………いや本当にそっくりだな」

 

 『一応言っておくけど俺は灘裕也じゃないから』

 『少々驚いたけど、そんなことはどうでもいい!』

 レインが再び刀で斬りかかってくる。俺は片方の銃で受け止めてもう片方の銃で牽制しようとするが、レインの連続攻撃で銃が打てない。

 『ここまで近づけば銃よりも刃物の方が有利よ』

 『銃弾切り落とすお前に距離とか関係あんのかよ!?』

 俺は銃をトンファーのように持ち替えてレインの刀をさばく。一回一回、攻撃を受け止めるたびに銃身が切り刻まれていく。

 俺は距離を取るためにバックステップするが、読まれていたのか一気に距離を詰められる。

 『はぁ!』

 レインの縦一閃の攻撃を、銃をすばやく通常の持ち方に変えながら受け止める。銃身が綺麗に斬られてしまう。

 『しまった!』

 『まだ!』

 レインは刀を逆手に持ち替え、がら空きとなった俺のボディを刀の柄で突く。まともに食らい、俺は数メートルほど吹き飛ばされる。

 『ゲフッ……くあぁぁ〜』

 なんて強力な突きだ。鳩尾にまともに入ってしまった。呼吸がうまくできない。

 『普通の人が受けたら間違いなく死んでしまうくらいの強さでやったはずなのに……やっぱりタフね。そうじゃないと遊び甲斐がないわ』

 攻撃の時、わざわざ刀を、持ち替えた理由はそれか? ずいぶん余裕じゃないか。後悔させてやる!

 俺のリュックをレインが拾い上げて放り投げてくる。

 『中に入っているものも使え。もっと遊ばせろ』

 『後悔すんなよ?』

 出番だぜ。

 ”待ちわびたぜ”

 『来い、サイコパァァァスッ!』

 

 よし、人格が入れ替わったぜ。まずは準備からだ。

 『ごめんねレインちゃん。ちょっと待ってね楽しませてあげるから』

 ”準備? どういうことだよサイコパス”

 乙女には色々と準備があるんだよタ・ツ・キ。

 ”気持ちわりーなおい!”

 俺は口笛を吹きながら服を脱いで、リュックに入れておいた服とウージーを取り出す。

 ”おいサイコパス! お前なんて服を用意してんだ!?”

 うるせぇな「もう好きにして」って試合前に言ってたじゃねぇか。

 ”それとこれとは……って着るんじゃねぇ!”

 『目の色が変わった……やっぱりあなたも』

 ”目の色変わったってカラーコンタクトでもつけたのか? やっぱりってどういうこと?”

 俺たちと同類・・・・・・ってことさ。さあ、フリルがついた可愛いピンクのメイド服にお着替え完了! おまけに猫耳カチューシャもありますハ〜ト。

 ”もうどうにでもなれ”

 『お待たS◯Xレインちゃん! 神様に仕える聖なる猫耳メイドことサイコパスが〜君を永遠の眠りにつかせるために降臨したよ〜震えて眠れ〜!』

 

 「おーとタツキが試合中にも関わらず着替え始める。フリフリのメイド服にコスチュームチェンジ。しかも猫耳の飾りを頭に装着! 二次元に生きる人間を狙った新手のテロか! やべーってこれ。マジで夢に出てきそう」 

  

 俺は腰に刀を装備し直して両手でウージーを構える。

 「サイコ様準備ができました。すでにこの場内の音響システムの一部をジャック、お好きな曲を流せます!」

 ”リュックから声が? しかもその声はフェイか? サイコ様っていつそんな関係になったの?”

 『よくやったフェイ! 俺が作曲した<サイコパスのテーマ>だ! ミュージックスタート!』

 「了解!」

 ”今度スマホのシステムにバグがあるって和也に報告しようかな”

 スピーカーから大音量で音楽が流れ始める。こういうバトルの時にはハードロックが一番だぜ。

 『さあまずは鉛玉をプレゼントだ! ウヒャヒャヒャヒャヒャ〜!!』

 レインに向けてウージーを連射するが、やはり全て刀で弾かれる。

 『同じことを!』

 『同じことを! ……くははっ今のカッコよかったもう一回真似していい?』

 俺は連射を中断してモノマネをする。もちろん挑発が狙いだ。

 『ふざけるな!』 

 あれ、なんかレインが思いっきり刀を振ったぞ…………危ねぇ!

 俺は右に飛び退く。スカートの左先端が刃物で切ったようにスッパリと裂けている。危ねぇもう少しで直撃するとこだった。防弾繊維で作ったメイド服を斬るほどの斬撃を飛ばせるとか、まじバケモンだ。楽しくなってきた。

 俺は右のウージーを捨て、代わりに刀を抜く。

 『かかってこいよ楽しませてちょうだい』 

 『こっちのセリフよ!』

 また神速のダッシュか。あれ……目に見える速度のダッシュを神速っていうのか?

 ”いいから真面目にやれ!”

 なんだよやれることはやってんだろ。レインの攻撃全部刀で防いでんじゃねーか。証拠見せてやるよ。

 俺はアスカの横一閃を、銃を股間に当て、スウェーで躱しながらーー

 『射◯攻撃!』

 銃のトリガーを引く。

 『ドピュドピュッ!……イッテェ!』

 クッソ反動が股間に響いた。

 ”バカかテメェは!”

 でも結果オーライだ。ちゃんとあいつ(レイン)には当たったんだから。腹に当たったのか、後退して腹部を押さえている。

 ”「結果オーライ」とか股間押さえながら言うことじゃないから”

 『こんな……こんなことがあってたまるかぁぁ!』

 なんだレインが発狂してるぞ。◯射に抵抗があるのか? それとも僕のパンツが見たいのかなぁ?

 ”最後のおかしくね? なんで俺の下着の話になってんの?”

 よ〜しそれじゃあ会場のみんなにサービスだ。今日のために穿いてきたイチゴパンツお披露目だ〜♪ 

 俺はスカートを手でバサバサと大きく動かして会場中にさらす。

 ”トラウマ確定だな。レインお気の毒”

 『なんでお前が……片目だけの・・・・・お前がなぜ』

 ”なんかレインが意味わかんないことを言ってますが”

 『出来損ないのお前が……なぜ私を超えられるぅ!?』

 レインが斬撃を三連続で飛ばしてくる。俺はバレリーナのようにーー

 『もうそれ反則、でも躱しちゃう、僕さま最強!』

 踊りながら躱す。

 ”あまり調子に乗ってるとーー”

 レインが放った最後の斬撃をジャンプで回避し着地したところを狙われる。レインの鋭い刀が俺のわき腹に突き刺さる。試合上の端まで吹っ飛ばされる。

 『ぐへぇ着地狙うとか反則ぅ〜アォ!』

 ”言わんこっちゃない”

 防弾繊維のおかげで致命傷にならずに済んだな。タツキ!

 ”なんだよ?”

 お前少し引っ込んでおけ。

 ”何勝手なこと言ってん……だ…………”

 

 タツキの人格を心の奥底に封じ込める。これで俺が言うこと聞くことがタツキの人格に知れることはないだろう。

 さてちょっと怒っちゃうよ? 俺は刀を一旦鞘に収めて居合切りの構えをとる。

 『なんのつもり?』 

 『ショーの始まりだ。刮目しな』

 俺はレインに向けて思いっきり居合切りをする。俺とレインの距離はだいたい20メートル弱。刃はもちろん空を切る。だが刀の先から何かが出るような気がして思いっきり刀を振ったんだ。

 『……何をしてるの?』

 『お前の真似。なんか力んだら俺も斬撃飛ばせるような気がして……』

 『ふざけるな!!』

 よし完全に俺のペースだ。叩き潰してやる。

 『地獄のような苦しみを耐えて習得した技を簡単に真似されてたまるもんですか!』

 レインがまた斬撃を飛ばす。

 『でも斬っちゃうことはできちゃったりして〜スライスライスライス、オゥイェー!』

 俺は刀で斬撃を防ぎながら突進する。

 『化け物め!』

 『今日の夕飯は〜や〜き肉か〜?』

 

 刀での長い攻防が続く。

 タイミングが悪いことに、ふざけて◯精攻撃なんてしたからか股間に妙な感覚が残っている。どうしよう僕様の息子ちゃんが急に大きくなって変なポディションに!? 気になって力が入らない!

 『ちょ、ちょっとタンマ! 僕ちゃまの息子ちゃんが〜◯んポジ直させてちょ〜』

 俺の刀が弾かれて、上空に打ち上げられる。

 『ヤベッ!』

 『戦いを侮辱したお前を無事で返すわけにはいかない! くらいなさい、音切流秘剣の奥義、龍斬り!』

 『ウアァァ!!』

 くそが防弾繊維を切り裂きやがった。右からの袈裟斬りから逆袈裟斬りで繊維の同じところを斬りつけてやがった。傷はギリギリ致命傷になってないようだが、長引かせるわけにはいかなくなっちまったぜ。

 メイド服が赤く染まる。

 『……く、くくっ』

 『何がおかしいの?』

 『奥義って必殺技ってことだろ? くらった奴は戦闘不能になるんじゃないのかなって』

 『出来損ないにこんな技を使うとは思ってませんでした。私もまだまだですね』

 『ああ確かに……まだまだ…………だな』

 俺は痛みに耐えながら立ち上がる。

 ”…………おいサイコパス大丈夫か!?”

 そろそろ活動限界ってところかな。タツキの人格が出てきた。

 悪りぃタツキちょっと斬られちまった。胴体のあたりバッサリと。

 ”ちょっとどころじゃなくね?”

 交代する前に俺が奴に一撃加える。そのあとはお前の得意分野でなんとかしてくれ。

 『出来損ないが、なぜまだ立ち上がる!』

 『このまま死んだふりして試合を終わらせるのも悪くねぇけどさ……今夜テレビで放送される好きな映画を気持ちよく見たいじゃん。だから負けるわけにはいかんのよさ!』

 『なら徹底的にやるまでよ。この大会では、相手が死んでも罪に問われることはない。殺してあげる』

 『なら俺も最終形態だ!』 

 俺は血まみれのメイド服を脱ぎ捨ててパンツ一枚になる。

 『これが俺の最終形態、食い込みイチゴパンツだ〜! ププッピッドゥ〜写真撮影お好きにどうぞ〜♪』

 ”この場に精神科医がいるならば、この姿を見てしまった人たちの心のケアを頼みたい”

 刀を拾ってる暇はねぇな。素手で行くぜ!

 『もう一度! 奥義……くはぁ!』

 レインがわき腹を押さえる。◯精攻撃が当たったところか? どうやら奥義の体にかかる負担と重なって痛み出したようだな。今しかねぇ!

 ”散々俺を出来損ない呼ばわりしてくれたんだ。ぶちかましてやれ!”

 俺はレインに接近してーー

 『しまった!』

 『これでどうだぁあ!』

 首筋に手刀、腹部に肘打ち、顔面に右裏拳のコンビネーションを入れてから髪の毛をつかんで手前に引き寄せる。

 『まだ終わると思うなよ!?』

 思いっきり腹部に膝を連続で入れて、うずくまってがら空きになったレインの顔面を、空中に浮いているサッカーボールを蹴り飛ばす要領で蹴り上げる。

 レインの吐いた血が飛び散って俺の顔にかかる。

 俺は最初に脱ぎ捨てた服を着て刀を拾う。やっぱりジーンズとウエスタンシャツは動きやすいな。

 ”代わるぜ。今後おふざけは控えるんだな”

 ……無茶させちまったな。

 人格が入れ替わる。

 

 『イッテェ〜! くそサイコパスめ調子にのるからこんな傷負うんだよ』

 まずいな、もうそんなに動けねぇ。先の連撃で決まってくれればいいが。

 『ま、まだだ……』

 レインが立ち上がる。

 本当にバケモンだな。あれだけ攻撃受けてまだやる気か? 次が最後の攻撃になるだろう。それが決まれば俺の勝ち。決まらなかったら…………まあ、なるようになるか。

 『出来損ないに…………私が……負ける? ありえない、あってはいけない!!』

 すごい執念だ。オーラのようなものを感じる。

 俺は両手を後頭部で組む。チャンスは一瞬。

 『なんのつもり?』

 『俺の負けだ……これ以上動けそうにない。だから最後はお前の奥義で止めを刺して欲しくてな』

 『ここであなたを殺さなければ私に未来はない。私が……出来損ないになってしまう!』 

 レインが走って近づいてくる。どこにこんな力が残っているのか分からない。それくらいの速さで接近してくる。

 斬りかかってくる絶妙なタイミングを計る。一歩また一歩とレインが近づいてくるたびに恐怖という名の悪魔が俺の心を、勇気を凍らせようとしてくる。

 怖い、怖いがこんなところで殺されてたまるか。俺がいなくなったら誰がアーヤを守る? 誰がアスカに料理を教える? まだ見てない面白いことが、この世界にはたくさんあるのに、死んでたまるか!

 勝負は本当に一瞬。残った力の全てをこの一撃に込める!

 『龍斬り!』

 レインが刀を振り上げる。

 『この瞬間を待っていたんだ!』

 

 「何が起こったんだ? タツキが一瞬でレインの横を通り過ぎる。両手には刀が握られている。どこから出したんだ!?』 

 

 これが俺の得意分野であり必殺技。だまし討ちだ。背中に、服の下に刀を隠してホールドアップのポーズで刀の柄を後頭部のあたりで握っていたんだ。

 『一刀両断!!』

 俺は後ろを振り返って、片膝をついた状態で刀を鞘に収める。「カチン」と刀が収まりきる音がしたのと同時に、レインの体からは鮮血が吹き出し、人形のように力無く崩れ落ちる。

 レインの返り血で白かった俺のウエスタンシャツが真紅に染まっていく。

 この作戦の極め手は二つある。この刀、龍一文字の切れ味とサイコパスの挑発だ。俺にはレインのような、防弾繊維を切り裂く達人級の実力はない。だがこの刀は、強固な防御力を誇る防弾繊維を一刀のもとに、たやすく一刀両断してしまった。

 そしてサイコパスの挑発。俺の安い考えなんて簡単に見破られていただろうが、サイコパスの挑発でレインが冷静な判断ができなくなってなかったら、殺られていたのは俺の方だった。

 

 試合終了のゴングが鳴るが、会場は静まり返っている。実況の声も、観客の呼吸も何も聞こえない。代わりに感じるのは、会場中からの俺への視線だけ。

 残ったのは完全な沈黙と視線。これだけだった。 

 そして、俺の眼の前は真っ暗になる。  

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