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不幸の先で

 俺は目を覚ます。

 俺は確か……神田川に飛び込もうとしたんだ。そのとき何かが体に当たった様な、大きな衝撃を感じた後、そのまま転落したんだ。

 照明の光がとてもまぶしく感じ、手で目を覆いながら起き上がる。

 自分の体を見ると、下半身には灰色の地味なズボンをはかされていて、上半身は胸の辺りを包帯で巻かれていた。横に立っている棒の上のフックには薬液が入った点滴パックが二つ下げられていて、そこから伸びる管が腕に刺さっている点滴針に繋がれている。

 周りを見渡す。部屋の大きな特徴としては3つある。まず、床や壁は白一色ということ。その所為で照明の光が反射して何処を見てもまぶしく感じる。2つ目は窓が一つも無いこと。最後は、カーテンが無いことだ。窓の無い純白の病室も悪くないが、せめて人目を遮れるような物くらい用意してほしい。見られたくない事ををしている時に、いきなり入ってきた奴に見られてしまう。

 ベットの脇にある箪笥たんすの上には水色の花瓶があって、生けられている花からいい香りが漂っている。これのおかげなのか、だいぶ落ち着いていられる。

 部屋の様子と俺の体の状態から、この場所が病院だということは間違いないかもしれない。

 枕元にはナースを呼び出すためのボタン、ナースコールらしき物がある。とりあえずボタンを押す。

 ……ボタンを押して5分くらいが経った。

 ナースが『失礼します』と言って、医療用具が入っているワゴンを押しながら入ってきた。ピンク色のナース服を着たスタイルの良い女性は天使のようだ。萌えるぜ。

 『こんにちは、担当の佐橋です。御気分はどうですか』

 『霊安室で生き返った気分ですよ』

 『三途の川は見れましたか』

 『泳いでいました。溺れて目が覚めたらこの部屋のベットの上です』

 冗談の通じる天使ナースが担当で良かったぜ。

 『教えてほしいんです。俺はどうしてここに?』

 『あなたは銃で撃たれたんです』

 そう言うと佐橋さんは、箪笥から布に包まれた何かを取り出し、俺の目の前に置いて包みを広げる。

 『これが服の左胸のポッケに入っていたおかげであなたは助かったんです』

 物の正体は、俺が秋葉原のチンピラから奪ったバタフライナイフだった。本当に銃弾が当たったのだろう、刃がフレームごと歪んで使い物にならなくなっている。

 『弾の発射地点が少し遠かったのもあって体に当たっていません。肋骨にヒビがはいっていましたが、もう完治しています』

 『そうですか』

 佐橋さんは『包帯を変えましょう』と、俺の包帯を取り始める。入院患者だから仕方ないと言っても、やっぱり少し恥ずかしい。

 『俺……どれくらい寝てました』

 『今日を合わせて3日です』

 『誰が俺をここに運んでくれたんですか』

 『その方、あと一時間ほどでお見えになるそうですよ』

 1時間か……何してようかな。

 『それよりも体に痛みはありますか?』

 『痛み……いや特には無いですが』

 『最新の鎮痛剤の効果は72時間以上……と』

 佐橋さんがボードに何か書き出した。

 『鎮痛剤が切れるとどうなるんですか』

 『あなたの治療に使った薬の副作用なんだけど、全身に動けないくらいの激痛が走るわ』

 なるほどね。その激痛を感じないようにするための鎮痛剤か。

 『佐橋さん、お願いがあるんですが』

 『何でしょうか』

 『視線を遮れるような物ってあります』

 『何に使うか当ててみましょうか』

 『分かります?』と、俺は答えを求める。

 『オナニーしている時に誰かが入ってきたら気まずい……からですか』

 『だいたい当たっているけど、余計な単語が混じっているな』

 俺は軽く笑いながら突っ込みを入れる。ある種・・・の人間からは「天使」と形容される、初対面のナースの口から淫語が出てくるなんて誰が想像できるか。

 『フフッ、ごめんなさい。冗談が過ぎましたね。……すぐに待ってきます』

 佐橋さんは部屋を出て行った。また俺の部屋が静まり返る。

 良い年になっても、こう言う状況はやっぱり寂しく感じる。両親と弟は旅行に行った先の事故で死んだから、俺には肉親はいない。祖父母は生きているが、本当に30年も経っているのなら、もう他界しているだろう。だとしたら、これから来る奴は誰なのだろうか。

 グゥゥ〜……

 考えていたら腹が減ってきた。近くコンビニに行って何か買ってくるか。

 ベットの脇にある箪笥の上に置いてある服に着替える。白いウエスタンシャツを羽織って病室を出た。

 

 俺は愚痴をこぼしながら、病院とコンビニの間にある公園を歩いている。

 『何だって俺がこんなもんを……』

 治療に使われた薬の副作用の関係で、予備の鎮痛剤を渡されてるから活動には支障はない。だが、何故か許可する条件として帽子を冠れと医者に言われてしまい、他人の帽子を冠っている。俺が秋葉原で拾った女の子の帽子を。

 非常に変な気持ちだ。他人の落とした帽子を冠るなんて気が進まない。しかも持ち主は女の子だし。

 帽子を指でクルクルと弄んで青空を見上げる。

 何も変わっていない、ただの空だ。30年の時が過ぎたなんて信じられねぇ。これじゃあ眠れる森の美女ならぬ、寝過ごした町の野蛮人ヤンキーだ。笑えない。

 ガシャン!

 大きな音がした。視線を移すと、そこにはヘルメットを冠った小学生くらいの女の子が、自転車と一緒に倒れている。とりあえず、心配だから声でもかけるか。

 俺は女の子の所に駆け寄る。

 『大丈夫かい』

 女の子は一瞬俺の顔を見るとすぐにうつむいてしまった。

 『…………』

 何も喋らない。もしかして、何処か打っちゃって、痛過ぎて声も出せないのか。

 『お嬢ちゃん』

 『……う、ううああぁぁぁん』

 なになに? 突然泣き出しやがった。いや、やっぱり子供だから転んだら泣くか。でも小学生になったら転んだ程度じゃ泣かないよな。人それぞれか。

 『誰か助けて〜〜!!』

 『えぇっ!』

 『さらわれちゃムグ!』

 しまった。つい反射的に女の子の口を押さえてしまった。とにかく、警察官なんかに見られたら俺が連れ去られてしまう様なこの状況をなんとかしないと。

 俺は女の子の涙を拭いて、背中をさすって落ち着かせる。

 『まってまって、俺は人さらいなんかじゃないよ!』

 『嘘ね。 だって、帽子冠ってるし……よく見たら顔が怖い! どっからどう見ても不審者!』

 少しふけ顔だから怖く見えても仕方ないかもしれないが、流石に泣かれてズバッと言われたら傷つく。しかし、帽子冠って顔が怖いと不審者って何処の情報だよ。 

 俺は心の傷を表に出さないように、微笑みを浮かべる。

 『ふ〜ん。それって誰から聴いたの?』

 『……学校の授業で先生が言ってた。そのときビデオも見た』

 やっぱり学校情報か。しかも、間違っていると言い切れないから強く否定できない。たちが悪いな。

 『そうか、先生の言う事を聴いているのか。偉いなお嬢ちゃん。でも、俺はただの通りすがりの高校生だ』

 俺は女の子の自転車を持ち上げて運び、ベンチに女の子と座る。

 癖でポケットに手を突っ込むと、中に小さな何か入っている。取り出すと、それは飴玉あめだまだった。多分、佐橋さんがこっそり入れてくれたのだろう。

 『食べな。毒は入っていない』

 飴玉を差し出すと、女の子は『ありがとう』と言って受け取ってくれた。

 少し警戒心が解けてきたな。

 『自転車乗るの苦手かい?』

 『このまえ自転車買ってもらったの』

 『なるほどね、練習してたのか。お父さんお母さんは一緒じゃないのかい』

 『今日振替で学校お休みなの。でも、お父さんもお母さんもお仕事で出かけてるから』

 この子を見ていると、幼かった頃を思い出す。

 そういえば、俺も補助輪を取った最初は全く乗れなくて、転んでは擦り傷を作っていたっけな。美容師である俺の両親の休みは火曜日だったから、練習する時はいつも一人だった。

 女の子と自分の似たような境遇に、俺はなにかを感じる。ここで会ったのも、何かの縁か。

 『よかったら、一緒に練習するかい』

 『すぐに乗れるようになる?』

 『もちろんさ、お嬢ちゃん』

 『……さっきから気になってるんだけどお嬢ちゃんっ呼ぶの止めて。言ってなかったけど私もう小学校3年生なの。お嬢さんなんて子供扱いされるのは嫌なの』

 小学3年なんてまだまだ子供じゃないかとは、あえて言わない。

 『それは失礼した。それじゃあ、なんて呼べば良い?』

 『女の子に名前を尋ねる時は自分から名乗るのものよ』

 『ははっ、こいつは一本とられた。俺は竜己だ』

 『私は城山彩香しろやまあやか、友達からはアーヤって呼ばれてるわ』

 アーヤってあだ名は子供っぽいと感じないのか? しかも、なんか俺おっさん臭くなってないか、喋り方とか雰囲気とか。

 とにもかくにも、俺とアーヤの自転車の特訓が始まり、1時間くらいでアーヤは自転車を乗りこなせるようになる。

 どんな風に教えたかって? ただ単純に、『ハンドルをまっすぐに持って全力でペダルを踏んでみろ』て言っただけさ。しかも、その勢いのまま、自在に曲がれるようにもなった。

 アーヤがはしゃぎながらこちらに向かってくる。

 『みてみて! もうこんなに乗れるようになったよ!』

 『すごいじゃないか。 お父さんお母さん、きっと驚くぞ?』

 『本当にありがとう! お兄ちゃん!』

 グゥゥ〜……

 突然、俺とアーヤの腹が大きな音を立てた。公園に設置されている時計は、12時ちょい過ぎを指している。

 そういえば、小腹が減って近くのコンビニに行く途中だった。

 『お腹減った……』

 『乗れるようになったお祝いだ。何が食べたい?』

 『んーと……フカヒレ弁当!』

 『フカヒレ!? ……まあいいや、あったら買ってくるよ。ちょっと待ってな』

 無いと思うがな。

 何か忘れているような気がするが、まあいいか。

   

 コンビニについた俺は自分の食べたい物を選んでいる。アーヤのフカヒレ弁当を入れた買い物かごを片手に。最初に頼まれた時は「そんなのあるのか?」と思ったけど本当にあった。すげぇな未来。

 俺は卵サンドとカツレツサンド、そして二人分のドリンクを買い物かごに放り込んでレジに向かう。

 こうした変化の無い日常生活を送っていると、とても30年の時が経っているとは考えられない。不思議なのは30年経っているのに俺の体に何の変化も無い事だ。鏡で自分の姿を見たが、何処からどう見ても高校生の姿だ。しかも高校一年生までの記憶がある。

 ドン!

 色々と考えながら歩いていたら誰かとぶつかってしまった。気を取られていたため、俺はその場に尻餅を突いてしまう。

 『失礼しました』

 俺は落ちた帽子を拾いながら立ち上がり、ぶつかった人の方を向く。ポニーテールの女の子が何故か銃を構えている。

 『両手を頭の後ろで組みなさい、灘裕也!』

 とにかく言われた通りに手を組む。

 『あなたを連行する!』

 『なに、俺を虐めにきた人? 何処かで会った気がするんだけど』

 『あなたが持っている帽子が私のだって言えば解るかしら』

 『……秋葉原でぶつかった女の子か! ごめんな、事情があってこの帽子使っちまった。クリーニングに出してから返したいから、よかったらもう少し貸してくれない?』

 バァン!!

 いきなり発砲してきやがった! 弾が俺の頬をかすめたのを感じる。 

 『そんなに怒らなくてもいいじゃない』

 『喋るな!』

 まったく、俺には女運が無いらしい。思い返してみれば女と関わって嫌な思いをしなかった経験が無い。

 秋葉原でこの女とぶつかり気紛れで帽子を届けようとしても見つからず、やっと返せると思ったら銃を向けられているこの現状。本当に嫌になる。女運だけじゃなく、いろんな意味で運が無い。

 『おーい、店員さん?』

 俺はレジの物陰に隠れている店員に話しかける。喋るなと女には言われているが、連行すると言っていることから、こちらから何か仕掛けないかぎりまた銃を撃ってくる事は無いだろう。

 『こいつら何者か解ります?』って言っても解る分けないよな。

 『ピ……ピースキーパーです』 

 解んのかい。コンビニ店員が知っていると言う事は警察みたいな一般的な存在なのか。にしても民間人に銃を向けて平和の守り手ピースキーパーとはよく言ったもんだ。

 『おい女! 灘裕也だかなんだか知らないが、人違いで銃を向けられちゃ困るぜ』

 『……身分を証明できる物はあるか?』

 『学生証があったんだけどな、生憎コーヒーこぼして捨てちまった』

 30年も前の学生証なんか捨ててしかりだろ。

 『なら一緒に来てもらう。あと10分で応援が到着する』

 『じゃあ……いくつか質問に答えてくれ。お前は誰だ?』

 『ピースメーカー隊所属、南雲アスカ』

 意外とすんなり答えてくれた。

 『俺は竜己だ。次の質問、ピースメーカー隊って何だ。日本には軍隊は無いはずだぜ』

 『……凶悪犯罪やテロ対策のために編成された日本政府公認の武装組織だ』

 ご丁寧な説明ありがと。日本政府公認? 自衛隊みたいなもんか。

 『最後の質問。俺ってテロリストに見える?』

 『テロリストの分際で!』

 『そうかい!』

 俺はアスカに向かって帽子を投げつける。帽子が銃に覆い被さった隙に、俺はダッシュで一気に間合いを詰めながら相手の懐に潜り込む。銃口を向け直してくるが、撃たれるより先に掌低打ちで銃を弾き飛ばす。そして、顔面に向かって裏拳を放つがバックステップで避けられる。

 『やるじゃないか』

 『抵抗するつもりか』

 『銃を向けられたんだ。正当防衛で何とかなるだろ? 10分しか無いんだ、一気に決めさせてもらうぜ!』

 再び攻撃を繰り出すが、流石に特別な訓練を受けているようだ。避けて反撃してくる。こちらもそれをガードしながらパンチやキックを繰り出すが、押されているのか壁に追いつめられている。

 こいつ強いな。

 アスカが左フックを繰り出してくる。だが、ややモーションが大きい。右腕でガードを固める。ガードしたら左のショートアッパーをかちこんでやる!

 『甘いな!』

 アスカは左フックの勢いを利用して体勢を地面スレスレの高さまで低くする。

 『くそっ、フェイクか!』

 下半身に向かって体当たりを仕掛けてくるが、とっさに飛び上がって何とかかわし、雑誌売り場まで離れる。不意に18禁の雑誌が目に入る。軽く目をそらす。

 低い体勢で下半身に体当たり。太極拳とかの中国拳法の類か。家の近くの広場で朝早く年寄りとかが、健康維持とかでやってるのを見た事がある。

 『お前のその技……太極拳か』

 『あの七寸靠ななすんこうを躱す……お前にも武道の心得が?』

 『単純にケンカ慣れしているだけだ』

 一般人で、しかも元ヤンキーの俺にそんな心得がある分けない。 

 『やっぱり戦闘のプロはひと味違うな。……女相手に本気になるのもアレだけどしょうがない、やるか!』

 仕方ない。中二病パワー発動だ!

 『何をごちゃごちゃと言っている?』 

 『お前が戦闘のプロなら、俺は火事場の天才だ! ひと味違う戦い方を見せてやんぜ』  

 指先で挑発すると、突進してきた。

 挑発の効果があったのか、さっきより攻撃のモーションがやや大きい。俺は繰り出されるアスカの攻撃をバックステップやサイドステップを駆使して、踊るように躱す。

 『あ、当たらない!?』

 『何で当たらないか教えてやる。型にはまりすぎなんだよ……マシンじゃねぇんだ、動きが遅いのさ!』

 躱していくと次第に不思議な現象が起こる。アスカの動きがゆっくりとしたものに見えてくる。

 ……よく見える! 動きが見えるから、紙一重で避けられる!

 当たらない事から焦っているのかアスカの顔から冷静さが感じ取れなくなってきた。

 時計を横目で一瞬見る。あと5分くらいでこいつの味方が来ちまう。畳み掛けるなら、冷静さを欠いている今しかない。

 俺の顎を狙ったアスカの掌低打ちがせまる。これを紙一重で躱し、右の手刀を振るう。

 『ぐぅっ……』

 アスカの首筋を見事に捕らえた。追撃として鳩尾の辺りに肘鉄を入れ、背中での体当たりを浴びせて吹き飛ばす。

 『逆転だぜ!』 ……と俺は格好づける。

 『うぅ、よくも……!』

 うめき声を漏らしながらアスカが立ち上がってくる。やっぱりこんな技じゃ勝負は決らないか。こうなったら、ちょっとした賭けに出るしかない。

 『買い物の邪魔をしやがって。怒りの一撃をぶつけてやるぜ!』

 一気に近づき右拳のフルスイングを繰り出す。だが、赤子の腕をひねるように、簡単にガードされてしまう。

 『これで終わり……』

 アスカはつぶやく。

 バン!

 俺の左脇腹にアスカの震脚を交えたボディーブローが炸裂し、乾いた音が店内に響き渡る。俺の体が前のめりに崩れかける。

 『ぐえぇぇ、……なんていうリアクションが欲しかったりして(笑)』

 『そ、そんな!』

 『つ〜かま〜えた!』

 倒れるふりをして、右手でアスカの襟首を掴む。

 『震脚がある技はいいねぇ。攻撃のタイミングまる分かり笑笑』

 『こ、この、離せぇ!』

 『終わりだ!』

 俺のお返しのボディーブローがきまった! 俺の手を振りほどこうと暴れていたアスカがこの一撃で大人しくなる。

 『くっはあぁ!』 

 両腕がだらんと下がった。嗚咽を漏らし、口の横から涎を垂らしながら、俺の体に寄り掛かるような状態になる。不覚にもこの状態のアスカに興奮してしまった。いろんな意味で。

 だが、俺の攻撃はまだ終わっていない!

 『これが俺の……白い怒りホワイトフレイムだー!』 

 痛めつけた腹をアッパーの要領で貫く必殺技。

 まともに受けたアスカは空中を舞い、冷たい床に鈍い音を立てて倒れる。

 『もう立てねぇだろ……』

  中学生の頃、他校のヤンキーを何人もこの技・・・で倒してきた。ちなみに、ホワイトフレイムのホワイトは、この技を初めて使った時に白いウエスタンシャツを着ていた事が由来だ。 

 レジに向かうと、少し奥で店員が頭を抱えて伏せていた。

 俺は1000円札を2枚出して、会計をお願いする。

 『店壊しちまって悪かったな。ついでに……この子達も付けといてくれ』

 服の下から少し厚めの18禁週刊誌を取り出した。戦いの中盤、俺は本棚の方に飛び退いたとき使えると思って目に入った18禁週刊誌を腹の辺りに仕込んでおいたんだ。

 表紙に描かれた2次元の美女の顔は、アスカのパンチを受けて無惨に歪んでいた。俺の身代わりになってくれてありがとう。お礼に夜のオカズにするぜ。

 『釣りはこの店の修繕費にあててくれ。足りない分はそこに倒れているピースメーカーに頼んでくれ』

 買ったものが入った袋を受け取ろうとした。

 『お客さん、後ろ!』

 店員の声に反応して後ろを向くと、動けないはずのアスカが突進してきていた。

 『あぁぁぁ!!』

 アスカが叫びながら、跳び蹴りを繰り出してくる。

 こんなもん簡単に……しまった!

 肝心な所で鎮痛剤の効果が切れてしまう。急な痛みで反応が遅れ避けられない。

 ガードに切り替えるが間に合わず、まともに食らい吹き飛ばされてしまう。

 起き上がろうとするが痛みで立てない。 何とか壁に寄り掛かるが、目の前では銃を拾ったアスカが、銃口を向けて仁王立ちしている。

 『私は……負けない!』

 『あれホワイトフレイムを食らって動ける奴はお前が初めてだ』

 本当によく動けるなこいつ。

 『家族のかたき!』

 『家族ねぇ。俺の知った事じゃない』

 『なに?!』

 『悪いが俺が寝ている間……いや、他人の生き死にをいちいち考えている暇は生憎持ち合わせていなくてね』

 『テロや人を殺すのに戸惑いは無いと?』

 『そう言う事じゃねぇ。記憶がないだけさ』

 『殺した人間の数なんて覚えていないと、関係ない人間をいくら殺しても構わないと!?』

 『1ヶ月間、ニュースで人が死んだと報道されてその合計人数を数えた事あるか? 俺は数えた事が無い、何でか解るか? 正解は……興味が無いからさ』

 『凶悪犯だからな。一、二発撃って痛めつけても問題にはならないだろう』

 ヤバいな、挑発しすぎたか。理性が飛んじまっているみたいだ。

 引き金にかかったアスカの指に力が入る。俺は撃たれるのを覚悟した、その瞬間ーー

 『ダメー!!』

 ーー子供の叫び声が店に響いた。俺もアスカも声のした方を向く。

 出入り口にはアーヤが立っていた。そしてアーヤは走り、アスカの銃を持った手にしがみつく。

 『いやぁ! にげて、お兄ちゃん!』

 『アーヤ!!』

 『この、離せぇ!』

 アスカがアーヤを強引に振りほどく。その勢いでアーヤは転んでしまう。 

 『てめぇ、ぐぅぅ!』

 アーヤの所に駆け寄ろうとするが、痛みで体が言う事を聞いてくれない。

 アスカが再び銃を構えるが、アーヤは銃口が俺に向けられるよりも早く、俺をかばうようにアスカの前に立ち塞がる。

 『そこを退きなさい』

 『イヤ!』

 『アーヤ、危ない! 早く逃げろ!』

 『イヤぁ!!』

 『何故ソイツを、テロリストをかばう!?』

 『お兄ちゃんわるい人なんかじゃないよ!』

 『アーヤ、駄目だ。そんな事言っても通じる相手じゃない』

 『お兄ちゃん、あたしに自転車の乗り方教えてくれたもん。すぐに乗れるように教えてくれたもん!』

 アーヤの足下に水滴が落ちる。泣いているのか。

 『この子にかすり傷一つ付けてみろ。銃弾100発身に受けてもお前を殺してやる!』

 必死にアスカを威嚇するが、効果はあまりないようだ。顔色一つ変化ない。

 『なら……そのまま動くな』

 アスカの冷たい言葉に反応したのか、アーヤが俺に抱きついてくる。アーヤの涙が、俺の服を濡らす。

 『泣くなアーヤ……大丈夫だ』

 俺が蹴り飛ばされたとき、ぶつかった棚から缶ジュースが落ちたのだろう。手元にそれが転がっている。最後の足搔きだ。これを投げつけて、アーヤだけでも逃がさないと。

 俺はアスカの指先の動きに集中する。絶妙なタイミングで投げつけるため、痛みをこらえて最後の力を右腕に込める。

 そのときーー

 『ここで速報が入りました。数年前のスカイツリー倒壊を引き起こしたテログループ、レッドドラゴンが先ほど犯行を示唆する動画を某動画サイトにて生放送しました』

 店のレジカウンターの後ろに設置されているテレビモニターから速報が流れ出した。

 ……なんだ、アスカがじっとテレビの方を見ている。銃まで下に降ろしてしまう。

 『俺はレッドドラゴンの頭目、名は……なんて誰でも知っているか。前回は最悪の結果になったが次こそはこの国の皆様に真実を伝えよう……』

 テレビで問題となっている映像が流れているのだろう。レッドドラゴンの頭目が言っている内容が聞こえるが、ほとんど棒読みでヤル気が感じられない。

 数分して速報が終わったのか、アスカは視線を再びこちらに向けてくる。

 『あなた……いったい何者』

 『ただの一般人……子供に好かれる高校生さ』

 『……ごめんなさい』

 アスカはそれだけ言って、帽子を拾う。

 ちょうどアスカの要請を受けた他のピースメーカー隊員が店に入って来る。

 『アスカさん、緊急会議です。早く車に……なんで灘裕也が!?』

 『似ているけど違う。映像が流れた時、こいつは私と一緒にいた。銃を降ろせ!』

 隊員が俺の存在に気がつき銃を構えるが、アスカの言葉ですぐに銃を仕舞ってくれた。

 アスカはその隊員に連れられ、車に乗り込み何処かに行ってしまう。

 最低な女だな。人違いで一般人をボコボコにしておいて、『ごめんなさい』とたった一言で片付けて行っちまいやがった。

 俺はポケットから鎮痛剤を取り出す。持っていた缶ジュースを開け、鎮痛剤を飲み込む。

 『アーヤ、もう大丈夫だ』

 『うわぁぁん! こわかったよ〜!』

 アーヤが声を上げて泣き出し、再び強く抱きついてきた。

 勇気のある子だ。まだ9歳の女の子が俺なんかを守るために、銃をもった人の前に立つなんて。大きな借りができたな。

 『無茶しやがって……でも助かったよ、ありがとな』

 鎮痛剤の効果が出てきたのか、全身の痛みが引いてくる。ちょっと痛いが、もう活動に支障はない。

 涙でぐしゃぐしゃになったアーヤの顔を袖で拭い立ち上がる。

 『さあ、昼飯にしよう』

 俺は店員から会計を済ませた弁当と飲み物が入った袋を受け取り、アーヤと手をつないで店を出る。

 アーヤが無邪気な笑顔を俺に向けてくる。

 俺にはとてもまぶしく感じる。

 

        ●


 竜己との戦いが終わり、アスカと隊員を乗せた車の中での時間。

 ピースメーカー隊の車のなかには、アスカと運転手他隊員2名が乗っている。

 アスカは両手で腹を押さえぐったりとしている。

 『アスカさん大丈夫ですか?』

 隊員が心配そうに呼びかけたがアスカの反応が薄い。女隊員がアスカを両腕をどかしながら座席に寝かせ、服をめくる。

 『これは……運転手! 行き先を変更、至急近くの病院に向かって!』 

 紫色に染まったアスカの腹を見た隊員が大声で叫んだ。

 『どうして、こんなひどい痣……銃弾も弾く特殊繊維で作られたアンダーシャツを着ているのに』

 『う、うぅ……』

 アスカの目が細く開く。

 『アスカさん! どうしたんですか! 私たちがあのコンビニに向かうまでに何が!?』

 『たっ……ただのパンチを、受けただけ……』

 『ただのパンチでこんなのって……』

 女隊員が簡易的な診察を始める。

 『……うあぁぁ〜! あぁ……』

 腹の辺りを押された瞬間、アスカは血を吐き散らし、大きな悲鳴を上げ意識を失ってしまった。

 『内臓破裂の可能性が高い、急いで!』

 あまりの急な出来事に、運転手は慌てながら車の進路を最寄りの病院に向ける。

初めてバトルの展開を書きました。やっぱり難しいですw

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