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籠女

籠女

作者: 緒方 真

私たちにはカゴメが憑いている。

カゴメのことを知っているのは、私とお婆ちゃんの二人だけ。

そのお婆ちゃんも、先週に痰を詰まらせてしまって、あれの存在を知っているのは私だけになった。


私があれをはじめて見たのは、幼稚園生のときだ。

二階の寝室で寝ていると、ふと視線を感じてその方向を見遣る。

すると、ふすまがわずかに開いていて、そこから何かがこちらをじっと窺っているのが見えた。

もちろん中はぎっしりと荷物が詰まっていて誰かがそこにいれるスペースなどなく、外の街灯や月灯りも射し込んでいない真っ暗な部屋でなぜ誰かがこちらを窺っているのかが分かったのかという、定番な体験だ。

当時、私はまだ怖い話という概念を理解しておらず、ただ"不思議な出来事"としてそれを記憶に刻んだ。

そして小学五年生の林間学校で「ああ、あれは怖い話の類に入るのか」と思い、メンバーにその不思議な出来事を語った。

その帰り道、バスでふと視線を感じてそれを辿ると、前の座席の間から誰かがこちらを覗いているのが見えた。

その席に座っている二人は前を向いて席に深々と座っており、トランプゲームをしているようで揺れに四苦八苦しながらも楽しんでいるようだった。

誰かが間にいるような雰囲気ではない。

相変わらず目はじっとこちらを窺っていたが、不思議と恐怖は感じなかった。


それ以降も、私の"不思議な体験談"を語ると、その誰かがすきまからじっとこちらを窺う目が現れた。

そんな奇妙な体験談に私は恐怖も不快感も覚えることはなく、大学生になったとき、ようやくお婆ちゃんに告白したのだった。

お婆ちゃんは怖がる様子も興味を抱く素振りも見せず、ただ「あなたもカゴメを見るのね」とふすまを見遣った。

そこでカゴメがじっとこちらを見詰めていた。

そのとき初めて長いまつ毛が動くのを見て、私は初めてカゴメに恐怖を抱いた。


お婆ちゃんが痰を詰まらせたとき座っていた電動車椅子を二階のふすまにしまったとき、椅子から紙が一枚はらりと落ちた。

遺品はすべて整理していて、椅子にはなにも残っていないはずだと思ったのだけど、と不思議に思いながら紙を拾うと、そこには"籠女"と書かれていた。

ああやっぱり女だったんだと、なにかがストンと落ちた感じだった。

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