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相対性狸論

作者: たぬき

昔々、地球の動物達が地上と月の間を自由に行き来していた時代、月に一匹のタヌキがおった。

月に来てまだ日の浅いタヌキじゃったが、可愛らしくそれでいて頼りがいのあるタヌキは、

他の動物達から「タヌさん、タヌさん」と言われ、大層慕われておったそうな。


じゃが、それを面白く思わない動物もおったのじゃ。

それは月の動物達の中でも一番の古参者、ウサギじゃった。

ウサギはウサギで、その愛くるしさと尻尾のモフモフ度から他の動物達の人気者。

タヌキが来るまでは「ウサちゃん、ウサちゃん」と言われ、皆から大層可愛がられておった。

それが、タヌキがやってきた途端、人気はあっという間に奪われ、先祖代々続いてきた餅屋も傾く始末。

このままでは、寂しさで死んでしまうところまでウサギは追いやられておったそうな。


なんとかして、タヌキから人気を取り戻せないだろうか?


ウサギはずっとそんなことを考えておったのじゃ。



そんなある日、ウサギの耳に、地上のウサギがカメと50m走をして負けたという噂が聞こえてきおった。

なんでも、ハンデとして、カメのスタート位置を25mの地点にしたところ、

いつまで経っても追いつけなくなってしまったという話じゃった。


地上のウサギはカメの5倍の速さで走ることができるので、

誰もがカメの負けを確信していたそうじゃが、


地上のウサギが25m走るとカメは5m先に進んでいる。

地上のウサギが5m走るとカメは1m先に進んでいる。

地上のウサギが1m走るとカメは20cm先に進んでいる。

地上のウサギが20cm走るとカメは4cm先に進んでいる。

地上のウサギが4cm走るとカメは8mm先に進んでいる。

地上のウサギが8mm走るとカメは1.6mm先に進んでいる。。。。。


差は縮まっているはずなのに、いつもカメが一歩先に行ってしまう。


こんがらがった地上のウサギは眠くなってしまい、気がついたら勝負に負けていたそうな。


月のウサギもその話を聞いているうちに眠くなってきたわけじゃが、


速さが売りのウサギ族。このままではウサギ族の沽券に関わる。

なんとか汚名を返上することはできないだろうか?


そしてそのとき、ふと名案が浮かんだんじゃ。



次の日ウサギはタヌキの家を訪れ、こう言ったのじゃ。

「タヌさん、タヌさん。僕と競争をしないかい?」

「競争ってなんの競争だい?」

「月の舟を使った、地上との間を往復する競争さ!」


ウサギの考えはこうじゃった。

タヌキと競争をしてそれに勝つことで、

ウサギ族の誇りと月での人気を取り戻す。

可愛いだけじゃないウサギの姿がそこにはあったのじゃ。


(タヌさん乗ってくれ。でないと僕は!)


ところが、ウサギの熱い決意に気づかないちょっぴり鈍感なタヌキはあっさりと

「それは面白そうだね。ぜひやろうよ。」

と答え、競争を行うことが決定したのじゃった。



そして競争当日。大勢の動物達の見守る中、ルール説明が行われたそうな。


地上と月との行き来きに使用する個人用船舶"月の舟"を使用して、

月から地上へ向かい、厳島神社の鳥居を抜けて月へ帰ってくる。


ウサギの熱い決意から考えると、若干拍子抜けなルールじゃったが、

シンプルなルールであればあるほど、お互いの技量の差が勝負の決め手になる。

幼い頃から月の舟の扱いに慣れ親しんでいたウサギに有利なルールじゃった。


もちろん、爽やかなスポーツマンであるタヌキも事前に承諾済みじゃったが、

月の動物達の大半はウサギの勝ちを予想したのじゃった。



勝負は大方の予想通り、スタートで出遅れたタヌキがウサギを追う形となったそうな。

障害物も殆ど無い地上への道。その差を覆すのは誰もが難しいと感じておった。

「差がなかなか縮まらない。まるでお互いの時が止まっているみたいだ。」

ウサギを月の舟を追いながら、タヌキは少し焦っておった。

そして、その焦りから、ある考えが浮かんだのじゃった。


「ウサちゃんの舟と僕の舟の差はさっきからほとんど変わっていない。

 つまり、僕から見てウサちゃんの舟は止まっているのもの同じだ。

 ウサちゃんの舟から僕の舟を見ても同じことだろう。

 では、月の仲間達から見たらどうだろう?

 きっと僕達の舟は月からどんどん離れていっているように見えるに違いない。

 じゃあ、僕達の舟が動いていると判断するには誰を観測者とすればいいのだろうか?

 観測者によって事象が変わるなら、舟が動いているか止まっているかということは、

 誰も決めることができないんじゃないか?」


相対性狸論が生まれた瞬間じゃった。


じゃが、タヌキは余計なことを考えていたせいで、今が勝負の途中であることを忘れておった。

目の前に突如現れた流れ星を避ける時間がタヌキには残されていなかったそうな。


ドンッ!舟内に響く鈍い衝撃音と共にタヌキは地上に墜ちていったのじゃった。

この時の様子を地上から見ていた、歌人・柿本人麻呂は歌を詠んでおる。


 "天の海に 雲の波立ち 月の舟 星の林に 漕ぎ隠る見ゆ"



墜落現場は製錬所の近くじゃった。

修理のための材料調達の利便性にひと安心したタヌキじゃったが、

人の声がしたため、急いで近くの竹やぶに走っていったそうな。

「見つかった時のことを考えて、小さな女の子の姿に化けて竹の中に隠れよう。」

こうして、タヌキは手のひらに乗る程の小さな女の子の化け、身を潜めたのじゃった。


・・・この後結局見つかってしまったタヌキを巡って一悶着があるわけじゃが、

けれどもこれは別の物語、いつかまた、別のときに話すことにしようかの。

初投稿です。

ごめんなさい。調子にのりましたm(_ _)m


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