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事件の顛末

「手をあげろ!」


男の少し上ずったような怒鳴り声が響くと同時に、パァンっと乾いた鋭い音が耳をつんざく。発砲音だ。


郵便局にいた客も職員も、何が起こったか理解できないまま、発砲音に驚いて、頭を抱えて固まってしまう。


郵便局に強盗が入ったのはの三時。そんなに客はいないが、けっしてゼロではない。お年寄り、買い物袋を下げた主婦、セーラー服の中学生もいる。


二人の強盗たちはいわゆる目出し帽をかぶり、両手に手袋、服装もなんの変てつもない地味なもの。要は特徴をつかまれにくいように選んだのだろう。

ひとりがピストルを持っていて、それを窓口の女性職員に突きつけて、黒の大きなナイロンバッグをカウンターに叩きつけるようにして置いた。


「金をこれに詰めろ」

「き、き、き、金庫…に、いか、いか、いか、ないと」


職員の女性はがたがた震える唇でなんとか応対する。


「よし、おまえ一緒にいってこいよ」


ピストルを持った男が、もう一人に言った。すると言われた男はポケットから折り畳み式のバタフライナイフを出し、女性職員に突きつけた。


「いいか、どいつもこいつも妙な真似するんじゃねえぞ。ちょっとでも動いたら…」


ピストル男が、すぐ近くにいた幼児の腕を引っ張り羽交い締めにする。


「このガキ、殺すぞ」


子供は大きな目を真ん丸に見開いて固まっている。悲鳴をあげるでもなく、助けを求めるわけでもない。

きゃあっ!と、店内にいる女性の誰かが、それをみて悲鳴を上げた。どうやら、幼児の母親のようだ。わめきながら強盗に詰め寄ったが、逆に強盗に突き飛ばされて倒れてしまった。そのとき頭でも打ったのか、倒れたまま動かない。


「き、君たち、落ち着きたまえ。そんな年端もいかない子をつかまえて、あ、足手まといになるだけだよ。わ、私をつれていきたまえ」


郵便局の偉そうなひとが、人質の交換を申し出た。


「アホか。このちびなら、抱えて行けるからな。こっちにゃ、好都合なんだよ」

「そんな!」

「五月蝿え!ブッ殺されてえのか!」


がぁん!と天井に向かって発砲する。とたんに「きゃああ!」と、室内に悲鳴がこだまする。


「ねえ」


そのとき、小さな子供の声がした。

見ると、小学生くらいの男の子だ。


「そんな小さな子つれてったら、泣いて大変だって。俺が代わるよ」

「あん?」


強盗はその子を見た。

緊張した表情の、小学3・4年生くらいの男の子。体はそんなに大きくなく、ぎゅっと小さな拳を握りしめている。

きっと、クラスでも四角四面に真面目なクラス委員たいぷだろう、と強盗は思った。


「いいだろう、ボウズ。ずっと抱えてるよりは、自分で走れたほうが楽だよな。おい、そこのおまえ」


強盗はさっき自分が人質になる、と申し出た局員を呼んだ。


「こいつ、抱いてろ」


そういって最初に人質にしようとした幼児を局員に渡す。と同時に小学生の男の子の腕をとった。


「おい、ボウズ、変な真似するんじゃねえぞ」


強盗に凄まれて、男の子はそっと頷いた。




そんな問答をやってるうちに、ナイフの男が、バッグ一杯に紙幣を詰め込んで戻ってきた。



「いいかてめえら、俺たちが出ていってから10分は動くな。」


そういい残して、男の子をつれて郵便局から出ていった。

外には白のバンが停めてあり、男の子を後部座席に押し込め、一人はやはり後部座席に、もう一人が運転席に乗り込んで、ドラマのカーチェイスばりのタイヤ音を響かせて恐ろしいスピードで走り去った。




郵便局員の通報で、すぐに警察の非常線が張られ、町は警察車両が走り回ってものものしい気配が流れる。


<犯人は男二人、白のバンに乗って南の方角へ逃走中。拳銃を所持しているから注意しろ!なお、小学生くらいの男の子を人質にとっている模様>


警察無線が耳に痛いようなノイズを鳴らしながら流れる。運転している男はそれを傍受しながらにやりと笑った。


「警察無線盗聴しとけば、どっちに非常線が張られてるかわかるから逃げるのなんて簡単なんだよ」

「へえ~!おじさんたち、すっげえの持ってんだな!」

「おう、すげえだろ・・・って、黙ってろ、このガキ!」


人質にされている男の子をドスの効いた声で脅しながら、犯人たちは警察が手配しているのとは逆の方向へ車を走らせていた。人質に顔を見られるわけに行かないが、フルフェイスのマスクを被って運転しているのは目立つので今はサングラスと口元を隠すマスクだけになっている。「それでも十分怪しい」とは思っていないようだ。


「だって、退屈なんだもん。話するくらいいいじゃん」

「度胸の据わったガキだな」

「ねーねー、そのお金何に使うの?ギャンブル?借金?あ、それともマンガとかでよくある『重病の娘の治療費』とかさあ!えっと、あとは」

「「だから黙ってろ!」」

「ちぇ~」


男の子は口をとんがらせて黙ってしまったが、5分と耐えられなかったようで、すぐにまた話し始める。


「でさあ、さっきの質問だけど、そのお金」

「やかましいって言ってんだろ!」


そんなやりとりを何度か繰り返している内に男の子はだんだん飽きてきてしまったようだ。


「おじさんたち、俺そろそろ帰りたい」

「はあ?なに言ってんだおめえ。おめえは人質なんだから、帰れるわけないだろ」

「だってさあ、腹へってきたし、家の人が心配するし、それにさ、おじさんたちだってこのまま逃げ切れるわけないじゃん」

「やかましいって言ってんだ!今すぐ喋るのやめねえと、その舌ぁこのナイフで切っちまうぞ!」

「あ、無抵抗の子どもに手を上げる気?そしたら、俺がなにやっても正当防衛だよね?」

「はあ?・・・っっ」


後部座席で男の子をナイフで脅していた男は、それきりなにも言わなくなった。急に静かになったことに気がついた運転席の男は、ルームミラーで後部座席をちらりと確認すると、にこにこ笑って座っている男の子と、その隣で悶絶している男が見えた。


「な・・・?!」


ルームミラーの中で目を見開いている男の後ろから、人質だったはずの男の子がすいっと近づくのが見えて、男は本能的によけようと身体をよじった。


「ほら、そこ左に曲がって」


男の子が言うと、運転手の男が操作していないのに勝手にハンドルが左に切れて、ビルの前の駐車場に車が突っ込んでいく。


「う、うわああああ!」


悲鳴を上げた男の背後から、人質の男の子の姿がふっとかき消え、次の瞬間車は駐車場のフェンスに耳障りな音をあげて激突した。


「なんだなんだ」


物音に気がついた人たちが建物の中から次々に駆け出してくる。彼らは一様に同じ制服を着ている。

警察の制服を。

そう、車が突っ込んだのは、警察署の駐車場だったのだ。





「たっだいま~!」

「お帰りなさいませ、一平様。少し遅かったですね」

「ごめんなさ~い、駿河さん。おなかすいちゃった」

「すぐご飯ができますよ」


元気に家に駆け込んできた一平は背負っていたリュックを自室へ片付けるとすぐに食堂に降りてきた。

食堂の大きなテーブルには既にテーブルセッティングができていて、料理も何品か並んでいる。

そして、


「お帰り一平」

「あ!蘇芳、おかえり!今日は早かったんだ」

「ああ、最後に行った先が近所だったから直帰してきた」

「やった!」


一平はうれしそうに席に着いた。いつも忙しい蘇芳とは、なかなか夕食を一緒に摂ることができないので

一平は学校であったことをいろいろとまくし立てている。

そのとき、テレビのニュースが地域ニュースを伝え始めた。


『今日夕方、S区の郵便局に二人組の強盗が入り、現金2千万円を奪い逃走しました。犯人は小学生くらいの男の子を人質に車で逃走しましたが、その後車の運転を誤り警察署の駐車場に衝突、そのまま逮捕されました。逮捕時、車内には人質になったという男の子の姿はなく、犯人が途中で車から降ろして逃走したのではないかと思われますが、犯人のひとりは『車の中で急に消えた』と話しており、精神鑑定も視野に・・・』


蘇芳はそのニュースを見ていたが、ふと一平を振り返った。


「ふうん。車内から忽然と消えた、と」

「へえ~、俺しらない」

「誰もおまえのことだとは言ってないけどな?なんでそう思ったんだ?」

「う」

「一平、郵便局に暑中見舞いのはがき買いに行くっていってたよな?」

「・・・」



その後、蘇芳に蕩々と説教を食らった元人質の男の子(いっぺい)は、夕食が冷めていくのをうらめしそうに眺めながら腹の虫が啼くのをせつなく聞いていたそうな。

久しぶりにHermit書きました・・・人質が誰だったか、とか、タイトル見ればだいたい想像ついちゃいますね。

くだらない話ですみません・・・

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