#2 三大候補。
「おはようございます、鎮芽さん!」
「お、おうっ、おはよう……」
会社に着くやいなや、受付嬢の女子(二十代中盤)ににこやかに挨拶されてビビる。まだ全然慣れない。いや、これからも慣れる気がしない。
これ以上ここで挨拶されて、情けない姿を晒さないためにエレベーターへと急いで、運よく一人で乗ることができた。安息の場を得たようだ。
「ふふっ、なんか初ですね鎮芽さん」
「……う、うっせ! って、お前本当に見えないんだな……」
「言ったじゃないですか、信じてなかったんですか? もう、パートナーみたいなものあんですから信頼関係は大事にしていきましょうよ」
と、言うのは俺以外の人間にはその存在を見ることが出来ないという花子さん。胡散臭いにもほどがあるわ、初っ端の登場からして。というかなんだかんだ普通に受け入れることが出来ている自分にちょっとの恐怖を覚える。俺は何者なんだ。これも神様効果か?
「そういえばさっきの方は駄目だったんですか? べっぴんさんだったじゃないですか」
「朝から誘わせる気か!? い、いやぁ……確かに可愛いけど朝から誘うのは気が引ける」
「そうですかね? 朝から誘っておいた方が予定立てやすいと思いますけど。あと心の準備――ってまあ、じっくり吟味するのも大事ですね。ところでこの人を誘うぞ! っていう方はいるんですか?」
「いや全くいない」
「えっ、そんなんで大丈夫なんですか?」
「そんなんって……」
元々、俺は今日女の子と遊ぶと決めていたわけではない。今朝決めたばかりだ。それなのに今聞かれたって答えられるわけはない。……とは言え。
「数人のぼんやりとした候補はいるっちゃいる。因みにさっきの子も入っている」
「おおっ、まだ女の子と遊ぶって決めて時間大して経っていないのによく……。本当は決めてたんじゃないですか? 今日遊ぶこと」
お前もそう思ってたのかよ! じゃあ聞くなよ! これじゃまるで本当、お前の言う通りみたいじゃないか。助平キャラは嫌だ。
「ってさっきの方も入ってたんですね――と、あ、着きましたよ、五階」
「ん、ああそうだな」
あっと言う間に着いた印象だ。エレベーターの扉が開いてからワンテンポ置いて俺は出てさあオフィスへと思ったが、不意に尿意が沸いてきたので先に用を足すことにした。
「あ、トイレですか? 私もついて行きます」
「おい」
「別に気にしませんし、エレベーターの中での話の続きをしましょうよ」
「お前は気にしなくても俺は気・に・す・る・の!」
「あらら。って言ってもオフィス入ったら話すの厳しくないですか?」
「あっ……ぐっ……分かった。止むを得ないな」
見た目小学校高学年の少女と共に男子トイレへ。どんな絵だ。
トイレに入って誰かがいたら話すのは厳しいと思っていたが、これまた運よく人はおらず、話す環境が整っていた。
俺は便器に近付いて、以下略。その状態のまま少女と話す。
「それで、さっきの候補というのは具体的にはどんな方なんですか? 出来れば見た目とかも教えてほしいです。私も観察したいので」
「あぁ、分かった。……っていうかやっぱりなんとなく用を足しにくいな。お前がいるというよりも、単に用足している時に人がいると」
これきっと万人共通。後ろに人が待っていたら絶対に出が悪い。
という訳で今日の候補、公開の時間であり、俺のセンスが試される時間だ。
まずは一人目、先程の案内嬢、中村さん。会社の玄関を任されているだけあって、容姿は良い。清楚な雰囲気漂う美人系女子だ。黒髪ロングヘアーに、女子にしては高めの背丈、背筋はぴんと伸びており、「高嶺の花」と男子社員は口を揃える。つまりそんな彼女がさっき元気よく挨拶をしてきたのは、本当に驚いた。動揺の理由の一つだ。
これを話したところ、花子は「ふむぅ」と口に手を当てて、
「あぁ、やっぱり高嶺の花的な人だったんですか。見た目、そんな感じでしたもんね」
適当に相槌を打ってから便器を離れて、手を洗いながら二人目について話すとしよう。
二人目は床野さんという、標準的なみてくれに、標準的な体型と、こうして文にして表すと彼女の魅力が潰れてしまっているように見えるが、別にその辺は彼女の魅力では――いや、魅力の内だろう。普通は魅力なのだ。普通であるからこそ、その中身が光って見える。
彼女はすこぶる性格が良い。八月以前、俺と会社で話していた唯一の女子なのだ(親密度はそこまで高くないが)。とても絡みやすく、遊び相手としてはうってつけだろう。
そして最後、三人目は館山さん。この人は、正直言って八月以前までは俺のことを散々悪く言っていた連中の内の一人であり、嫌いでしょうがないのだが――それが無くなった今、彼女は俺にとって一番仲良くなりたい女子だ。何せ容姿が物凄く良い。若さもある。
高校新卒の十九歳、まだまだあどけなさが見え隠れしている。すこぶるレベルの高いみてくれの内、大きく見開いた瞳が特徴的で、体系はなんというか、中学生みたいな感じ――一頃で言ってしまえばロリっぽい。ぶっちゃけ十九歳には見えないのだ。
「なるほど。高嶺の花に、友達に、ロリですか。どこのギャルゲーですか」
「いや、確かに綺麗に三分割されてるけどよ」
「高嶺の花に手を出すのか、友達に手を出すのか、ロリに手を出すのか……見ものですね!」
「手を出すの前提なんだ! そういえば友達に手を出すってなんかすげぇ嫌な文章だよな! 個人的にロリよりも嫌だ!」
手を出すつもりは今日は特にない。ただただ遊ぶ感じで十分だ。個人的に遊ぶのハードルですら高いからな。この前の童貞卒業劇は、あっちから誘ってきた感じだから……。
「あ、そういえばこの前の、童貞卒業された方は?」
「今日は休みだったはずだ。同じ新卒の館山さんがいるし」
「なるほど。新卒ハンター鎮芽ですか。沈め」
「お前、俺に誘えとかもっと良い思いしろみたいなこと促すけど、なんでか罵倒するよな! おかしいなぁっ!」
「ほらほら、いい加減誰か来ちゃいますからオフィス行きましょうよ。私はその間、その情報を元に下調べしてます」
「おう、頼んだぞ」
「あ、下調べっても盗撮とかの依頼はお断りですけど」
「頼む気なんか毛頭ねぇよ!」
そんな訳で俺はトイレから出てオフィスへ。にこやかな挨拶が各方向から飛ばされる。
「……さって、どうしようかねぇ……」
ビビる余地もなく、俺の頭の中はなんだかんだで女の子と遊ぶということに支配されていた。
いざ選定の時間である。




