1PIECE
『ドルルル・・・・・』
何もない岩山、舗装されてない道を大きな音を出し『それ』は駆け上がって行く。
途中幾度か小石が『それ』の頭上に降り注いで来たが、『それ』は何も気にせずただひたすらに上を目指していた。
『それ』、いや『それに乗っている彼』からは、より大きな『何か』を弾き返そうとする『まがまがしい』気迫のようなものさえ感じられる。
暫くして『それ』は豪快なエンジン音を止めた、大型のバイクいや後方にタイヤが二つあるから『バギー』と呼べば良いのか・・・とても常人では乗りこなす事は困難だと思われる乗り物から『彼』は降り、ジャケットを脱いだ・・・・。
その『怪物とも言える乗り物』を調教するかのごとく乗りこなすに相応しく、『彼』の身体は胸板が厚く、骨太で肩幅は広く、タンクトップから伸びた腕は肌の焼け具合とその太さから『木の幹』を想像させた。
彼は少し歩を進め先にある下りの道があるのを確認すると、更に下界を見下ろす。
彼の目線は周りを山で囲まれ、鬱蒼とした森の中心に注がれており、そこには多くの建物が並んでいた・・・・。
「ゴル!!」背中から誰かの声が聞こえた、彼が振り返るとそこには、彼の『バギー』しかなく誰もいない・・・・
しかし彼の目線はバキーにいや正確に言うとバギーの荷台に注がれていた。
そこには、荷物を保護する為のシートがかけられていたが、そこがモゾモゾと動くと、隙間から何かがはい出て来た。
それは20センチはあろうかと言う大きな『蛙』であった。
蛙は彼を見つめると口を開け「ここで間違いなさそうだな、ゴル・・・」彼に話しかけた・・・・。
蛙が口をきいているにもかかわらず、彼は極普通な顔をしている。
「ええ・・・・ドクター・・・・」
ゴルはボケットに手を入れると小さな箱を取り出し、留め金を外し開けた。
箱の中からは音が聞こえる、どうやらオルゴールのようである、美しい曲を奏でていたがどこか哀しそうにさえ聞こえた・・・・・。
町は賑やかであった。
時代がかったレトロな雰囲気であったが、どこも活気で溢れ、人の楽しそうな声が聞こえた。
また、このような田舎には少ないと思われる『衛星放送』受信アンテナもどこの家の屋根にも見られた。
もし、TV番組でこの街が紹介されたとしても、ここが辺境の地にあるとはとても想像は出来ないであろう。
その賑わった街中を『ゴル』は歩いていた、時々彼のジャケットから『ゲコッ』と鳴き声が聞こえる、ジャケットの胸ポケットには『ドクター』が入っている。
ゴルは街中を見渡しある事に気が付いた、商店やカフェ、どこへ行っても同じ作業衣を着た男達を見掛けるのである。
彼があたりを見渡していると、突然ゴルの前を影が飛び出した、その影は次々と彼の前を左から右へと『ワー』と歓声を挙げて駆け抜けて行った。
「待ってよ〜〜」影の一団に遅れて一人の少女がトコトコとゴルの前を通り過ぎて行く。
どうやら、この少女は先程の影の一団つまり『子供の群れ』においてきぼりを食ったのだろう・・・。
多分少女はこの街の子供の集まりの中では年下で『オミソ』なのだと思われる。
遅れる少女を尻目に先に行っていた集団の中から少年が一人戻って来たかと思うと、彼女の手を引き走り出した。
ゴルの足は自然と少年達の方向へと向いていた、何を思い出したのだろうか・・・その顔は口元から笑みが零れていた。
集まっているのは子供達だけではなかった。
あちこちの通りから大人達も出て来て皆一つの方向へと足を向けている。
その足の先には黒い人だかりが出来ており、皆騒ぎ立てながら何かを見ていた様子であった。
先程の少年と少女がその中を入ろうとするが押し阻まれて入れずにいた。
どうやら先に着いた少年達の一団はそれが見える位置に付いたのであろう、彼等の歓声だと思われる声が時折聞こえる。
少年と少女は困った顔をして立ちすくんでいた、ゴルは二人の前に進み腰をかがめて同じ高さの目線になり両腕で二人の頭を撫で、二人の身体を持ち上げて両肩に座らせた。
二人の目は爛々と輝いていたゴルはまた何かを思い出した様に口元の両端を緩めていた・・・・。
人だかりの向こうには檻がありその周りを先程から街で見掛けている『作業衣』の男達が見物人を制していた。
ゴルは目を凝らして檻の中を見た。
そこには黒い毛皮に覆われた大きな『塊』がピクリとも動かず、いや呼吸しているのであろうか、『それ』の肩と思われる部分がゆっくり上下に動いている。
多分、薬で眠らされているのであろう。「しかし・・・・」ゴルは考えた、何しろ、その『獣』は彼が子供の頃動物園や図鑑でみたモノにどれにも属さない、始めてみる『生物』であった。
「頑丈な檻からすると、獰猛な物には違いないだろう・・・だけど犬や猫の仲間ではないな・・・大きさからして熊か?いや熊にしては足や体毛が長い・・・・となるとゴリラやオランウータンに近いものか・・・・?」
そこまで考えてゴルは『苦笑』した・・・。
「今まで、常識から外れた物はたくさんみてきたんだ・・・それに『この場所』では何があっても不思議じゃない・・・・」
そう考えた時、「はい!コンテナが入るから、あけてくださーい!」と声が聞こえたかと思うと、目の前の人だかりが横へと移動した。
あの『獣』を運ぶものであろうトレーラーに積まれたコンテナがゆっくりとバックで入って来る。
「おい!何本打った!」
「1時間前に1本だ」
「少し急いだ方がいいな・・・」
「もう1本打つか?」
「いや、ギリギリに打てばいいだろう、余り無駄には出来ない!」
そのような会話をしながら、作業衣の男達は馴れた手つきで檻をコンテナへ積み込む作業を始める!
作業が終わるとトレーラーは土煙をあげ、去って行った・・・・。
見物人達はそれを見送ると徐々に離れて行き街はまた先程と同じ状態へと戻った・・・。
残されたのはゴルと2人の子供そして彼等の仲間であろう数名の子供達であった・・・・。
「さて・・・・。」肩に乗せた子供を降ろしながらゴルは考えていた。
彼はこの街に入ってきた時から『視線』を感じていた。
明らかによそ者に対して警戒している、住人達の視線である・・・・。
ゴルはどの場所から彼等が見ているのか確認はとれていた・・・・。
「しかし・・・・」それ以外の視線を彼は感じていた、それはどの場所からは判らないが自分に向けられているのは確かであった・・・・。
ゴルはふと気付くと彼の足元には子供達が集まっていた、中には彼の腕にしがみつく者さえいた。
彼は子供達の中に『サッカーボール』を持っている者を見つけだすと、それを手に取りリフティングを始めた、ボールは彼の脚や肩、頭を一定のリズムで跳ね踊っている様であった。
先程まで『獣の檻』があった場所に目をやるとそこには大きな木が立っており、ゴルはその木の幹を目掛けてボールを蹴り上げた。
幹にぶつかったボールは大きく上部へカーブを描き、彼の元へと帰ってきた。
子供達は歓声をあげ彼の元へ集まってくる・・・・。
ゴルはジャケットを脱ぐとボールをぶつけた木の枝にかけた。
「頼みます、ドクター」彼は一声かけると子供達の元へと駆けて行った。
ジャケットの胸ポケットから出て来たドクターは木の枝と枝とを跳び上がり木のてっぺんまで行くと身体を振るわせた、彼の背中が大きく突起状に盛り上がると、それはまるで『蝙蝠』の翼のようになり、その状態のまま跳び上がるとその翼を羽ばたかせて夕闇の中へと消えて行った・・・・。