第九話:想い
予は……予は間違っていた……。
──なぜ…そのように…言われるのです…?
予は…お前を…守れなかった。
──それでも…私は…幸せで…ございました…
予は…取り返しのつかないことを…
──あなた…どうか……………
沙欄?……沙欄!!!!
──要主!!王妃から下がってくださいませ!!!!赤弧!!すぐに赤竜様にお戻り願って!!!
──御意!!!
──赤司!!王妃の呼吸が……!!
──何とか、もたせて赤爛!!! あぁ…王妃!!頑張ってくださいませ!!
沙欄!!!沙欄!シャ…オ……ラン………
「……うっ……つ………?」
飛那は、目を開けると、視界には美しいほどの青空が広がっていた。
視界を遮るものは何もなく、飛那は、あの世への通り道と言われる、黄泉の世界かと思った。
だが自分の体からは、まだ激痛とも言える痛みがあった。
黄泉の世界でも痛みはついてくるのかと、おぼろげにそう思った。
だがその痛みが徐々に減っていく。それどころか、心地よさまで…。
不思議に思い、視線を少しずらしてみた。
するとすぐに、ここが黄泉で無いことがわかった。
飛那の右側に、黄泉にいるはずのない、少年が、笑顔で飛那の傷という傷を癒していたのだ。
その少年を見て、飛那は目を見開いた。
「……ついて…来たの…」
すると、少年は、飛那が目を覚ましたことに、今気がついたらしく、白竜や飛竜に見せた、変わらぬ笑顔とは違う、それを見たら、老若男女すべてが魅了される程の笑顔を飛那に向けた。
「飛那!良かった。このまま目を覚まさなかったら龍王を殺しに行くところだったんだよ。飛那が生きていてくれて本当に良かった。」
飛那は、何かを言いかけたが、少年がそれを遮った。
「まだ喋らないでね。傷口開いちゃうでしょう?待ってね。時間かかりそうだから。」
飛那は何かを探すように視線を泳がせた。
左側に目をやったとき、飛那は体中から血が一気に引いた。体が硬直した。
少年は飛那の様子には気づかない。
…あるいは、気づかないふりをしたのかもしれなかった。
「………黒竜を殺したのは…あなたね…」
少年は飛那の傷を癒し続けている。
「だれ?それ。ほら、飛那っ喋っちゃダメだってば。ね?静かにして?」
飛那は明らかに怒気を発していた。それも自分の傷を癒してくれている少年に対して。
「飛竜をここに誘導したのもあなたね。」
「喋らないでってば。」
「答えなさい。」
射抜くような視線を向けられた少年は、少しも悪びれた様子もなく、変わらない調子で答えた。
「飛那が死ぬのがイヤだったんだよ。だって、ずるいじゃない。姉を犠牲に弟が王になるの?証もないくせに。」
「!!どこでそれを!!」
「飛那。お願いだから喋らないで。あなたはあまりにも傷つきすぎた。」
飛那は低く言った。
「ここから出て行きなさい。」
「…ダメ。まだ安心できない。」
飛那の指が動いた。
すると、少年は慌てて飛那の側から離れた……宙に浮くように…ふわりと…優雅に。
飛那は、歩腹前進のように、腹ばいになって必死に、血だらけの…我が弟の元へ近づいた。
「飛那。何をするの?そいつ死んでるよ。龍騎と飛那の間に割って入ったんだよ?」
飛那は飛竜に触った。
目をほころばせた。
「まだ…生きてるわ」
飛那は袖から紙を出した。
それは、ちょうど飛竜の身長と同じながさだった。
その紙に、飛那は自分の血を使って、字を書き始めた。体を動かす度に走る激痛に耐えながら。
「飛那!!!止めなよ!そんなことして…龍騎の怒りをかうよ!?」
「…私が…責任を…負うわよ…」
少年は明らかに、焦り始めている。
「飛那!!それじゃ意味がないよ!それを死なせれば、みんなが喜ぶんだよ!!」
飛那は少年に向かって紙を投げた。
それはとても紙とは思えないほど、一直線に少年に向かっていった。
少年は避けきれず、その紙に触れた。
すると、少年は徐々に体が霞のごとく消えていった。
「飛那…どうして…」
少年は完全に消えた。
飛那は紙に字を書き終えると、飛竜にかぶせた。
そしてそのままその場に倒れた。飛竜を抱くように………。