第八話:不安
『……天空にて龍が鳴くとき 世界は 災いをもたらす 魂を 得るだろう。』【ラーグル・リオンの予言より抜粋】
「おかあさぁ〜ん。枝、ひろってきたよ〜」
小さな子供が、両腕いっぱいに、小枝を持ちながら、嬉しそうに、走ってくる。
それに、井戸で水をくんでいた女性が気がついて、子供を満面の笑みで迎えた。
「ご苦労様。まぁまぁ。こんなに汚れて。」
とある山中のめだたない村落で微笑ましい親子のやりとりが…角の生えた娘と、普通に見える母親とのやりとりが行われている。
「えへへ。さっき、ころんじゃったの。でもみてみてっ!こんなにひろったんだよぉ」
「まぁ。こんなに沢山。偉いわね唯苑。良く頑張ったわ。」
「いおん、えらい?」
「偉い偉い。さ、もうすぐ、夕飯にしますよ。顔を洗いましょうね。」
「はぁ〜いっ!」
2人が部屋に入ろうとしたとき、母親は遠くで、何か 聞こえた気がした。
「おかぁさん、おかぁさん。みんながへびさんみてるよ?」
母親は周りを見た。
確かに同じ村に住む村民達が、みな、険しい表情で一方向を見ている。
また…聞こえた。いななくような…『声』が…
「おかぁさん。あのへびさんないてるのかな?」
母親は娘の指す方を見た。
「へびさん…なんだか、かなしそうだね…。」
母親は娘である唯苑の手を握ったまま、空を見つめた。
「……おかぁさん…どうしたの?」
母親は空を見たまま険しい顔をし、何も言わずに、娘の手を強く握りしめた。
別の山中では、160センチ近くある、巨大な剣が地にさしてあり、近くで男が川で魚を捕っていた。
「てめ〜……この…さかな!!…堪忍しやがれってんだ!こんのやろ〜てめ〜らが逃げるせいで、俺様の腹が一昨日から鳴きっぱなしなんだぞ!!!!……くくくっ…それも今日で終わりにしてやるぜ…よ〜しよしよし…に〜げ〜る〜なよ〜……………今だ!!!!!うるぁぁぁぁぁーーーーーー!!!!!」
ぱしゃん。
「やっ……!!!!!」
ぽちゃん…
「ぎぃやぁぁぁぁーーーーー!!!!!!お…俺のめすぃぃぃぃぃ!!ふつかぶりぬぉぉぉ!!!!」
男が一人で元気良く騒いでるとき、今まで一度も聞いたことのない動物の鳴き声が聞こえた。
今まで取り巻いていた男の気配が変わった。
魚に逃げられるほど、覇気の無かった男から、一変して、覇気がただよった。ただならぬ気迫が男に宿った。
男は声のする方に素早く体を向け、臨戦態勢に入った。その表情は険しい。
そしてドスのきいた声で────
「……肉……!!!俺の肉!まってろよ…魚がダメなら……肉じゃぁぁぁぁぁ!!!!!」
……ドスの……きいた……声で…
「今鳴いたやつ!でてきやがれえええぇぇぇぇ!!!!!!」
………………。
…剣を抜くと、男は山の奥へあっという間に消えていった。