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龍王の加護  作者: 仙幽
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第五十八話:消えない余韻

イナイ……いない……誰もいない。


赤爛は興奮冷めやらぬ状態の、飛那の看病に携わった赤の一族達を必死にたしなめている。

ふっと 呆けている飛那に話しかけた。

「飛那様……私勘違いしてました。飛那様はこの龍王国の事を第一に考えていてくださっていたんですね。」

飛那は問うように目だけで赤爛を見た。

赤爛は照れるように、恥じるように顔を赤らめながら続けた。

「私怖かったんです。飛那様がお仲間やお父上にしたように、我々にも同じ事を……使えない者はすぐ見捨てたりするのではないかと………でも」

赤爛は言葉を切ると、輝いたような笑顔を飛那に向けた。

「でも違かったんですね。飛那様はこの国が世界の逆賊になるのを命がけで止めてくださいました!私感動してしまいました…お仲間は残念でしたが…でもお仲間よりも我々龍王国の民をとってくださったこと。心より誇らしく思いましたっ。」

飛那は目を見開いた。

そんな様子に気づかない赤爛はうれしげに話を続ける。

「飛那様の元でならきっと良い国になりますね。」

「……誰から…聞いたの」

「へ?」

「今の話は誰が…」

「えっと…あの…黒磨…ですが…あの──」

飛那は顔を痛みにひきつらせながら、布団から起き上がりながら叫んだ。

「ここへ連れてきて……!今すぐ!!!」

「えっ?えっ?」

飛那の凄まじい剣幕にうろたえていた赤爛をさらに飛那が追い立てる。

「早くしなさい!!」

周りにいた赤爛含め赤の一族が蜂の子を散らすように部屋から出ていった。


保健室らしき部屋には飛那一人だけが残された。

飛那は自分の両手の平を見つめる。

微かにまだ残る。

忘れることのない。独特の感触──人の肉に刃物を沈める感触。


──まさか。でも……手が覚えてる。私が?本当に?私が?


飛那は頭をかいた。

「…そうだ」

こんな時いつも良いタイミングで現れる。あの子なら何か知っているかも と、飛那は全く人の気配のしない保健室で呼びかけた。


「リジン?リジンいないの?」


返事はない。


「リジン?リジン?リジン…」


やはり返事はない。

「……いない…か…」

ふぅっと溜め息をついた。


暫くして、白竜と白の一族同伴で黒磨が部屋に現れた。

「……飛那様…お目覚めになられて……お喜び申し上げます…。」

黒磨、白竜含め、その場にいた、白の一族がその場にひざまずいた。

飛那は軽く目を閉じると、皆を立たせた。

「ありがとう。…白竜?」

「はい。」

「黒磨と二人だけで話がしたいの。皆席を外して。」

その言葉に白竜の周囲から反論があがる。

「飛那様!!奴は我々をゼノンに売った裏切り者!危険です!」

「何をされるか分かったものではありませんよ!」

「飛那様!我々を──」

言葉を遮らせたのは白竜だった。

白竜は一本しかない腕を上げただけで部下を黙らせた。

その様子は赤爛も後ろから見ている。

「かしこまりました。では部屋の前に私が立っていますので、話が済みましたら声をおかけください。皆、出なさい。」

まだ何か言いたげな、一族の顔を、目だけで黙らせると、部屋は黒磨と飛那二人だけになった。

だが扉の外では白の一族が白竜に不満をぶつけている。

「白竜様!なぜ許されたのですか!奴は裏切ったのですよ?」

「飛那様と2人きりにするのはいささか危険では?」

白竜はいきり立つ部下達をなだめるように優しく諭す。

「黒磨が裏切ったのは、妹を人質に囚われていたからで、自らの意志ではありません。」

「しかし!」

「白唯。あなたにも妹がいましたね。勝ち気で、コロコロとよく笑う可愛い妹が。こんな時あなたなら妹を見捨てますか?」

白唯と呼ばれた女性は言葉に詰まった。白唯だけではない。他の一族からも言葉がでてこない。

それもそのはず。今回はたまたま黒磨の妹が人質となったが、自分の肉親が人質になっていた可能性も十分にあったのだ。とても他人ごとで済む話ではない。

「何が何でも無事に助け出したいと願うでしょう。血を分けた大切な兄弟姉妹なら。…黒磨の気持ちも汲んであげなさい。」

「……ですが…罪が許されたわけでは…」

「黒磨は裏切りを悔いて、飛那様を命がけで守ろうとしたわ。それは赤の一族が見ていることから明かよ。でもだからといって、裏切りが許されるわけではないわ。でも」

白の一族と赤爛は白竜の言葉に耳を傾けている。

「彼は十分罪を悔いていると思わない?…もう彼を傷付ける必要は無いはずよ。」

暫くの沈黙の後、白の一族は消沈した様子で散り散りに外へ出ていった。

赤爛は白竜の姿が目に焼き付いて離れない。

自分の目指すべき姿を白竜の中に見つけたのだ。

──うん…。赤竜の称号を取りに行こう!!白竜様のような五竜になろう。そして飛那様のお手伝いをするんだ!


赤爛の瞳強く。飛那のことを、他の赤の一族に頼むと、そのまま、赤竜一族の里へ向かった。



扉の向こうが静かになると、飛那は問いただすように、黒磨を見つめた。

黒磨は飛那と視線を合わせたまま口を開こうとしない。

「……見ていたのはあなたしかいないわ。……マナミ…は…ディアスはどうなったの?」

「……」

「…黒磨…マナミは──」

飛那の頭に、目を開いたままピクリとも動かないマナミの姿がよぎった。

「──……」

思わず言葉を失った。

まだ手に残っている。

黒ずんだ赤と。

生臭い臭いと。

肉を刺す感覚。


飛那が黙っていると、不意に黒磨が口を開いた。

「…赤爛は…この先赤竜となって、国を支えていかなければなりません。その赤爛が飛那様に不信感を持っていた……だからそう話しました。」

飛那は黒磨の瞳を見つめる。黒磨の口から、あのときの出来事を語るまで、離さないつもりで。

「……あの時…は。申し訳ありません…私も良くは見えなかったのです。実のところ、ディアスと飛那様…どちらがマナミ様に刃を刺されたのか私には分かりません。………ですが…確実なことは…」

一瞬、飛那に緊張が走った。

黒磨は無意識に視線が下へ下がっていった。

「……残念な事に…マナミ様は亡くなられた…。そして、力を押さえられないディアスを黒の一族が抑えている。ただ……それだけでございます。」


部屋に沈黙が流れた。

黒磨は恐る恐る、視線を上げると、飛那はおぼつかない様子で寝床から立ち上がろうとしていた。

「!!?飛那様!?いったい何を!!傷口が開きます!!」

黒磨の悲鳴にも近い声に、白竜が扉から顔を出した。

「飛那様!?どうされ……」

「…行く…」

「えっ?」

「…あの場所に…マナミがいた場所に行くのよ!」


飛那の危機迫る様子に、二人とも従うしかなかった。

いや〜とても長くなってしまいました、龍王の加護。次回ようやく最終回です。どうか最後までお付き合い下さいませ……

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