第五十七話:夢と現実と
夢か現実か。
飛那はうっすらと銀に輝く光を眺めていた。あんなに輝いているというのに、不思議と眩しくはない。不安に、ブレるように輝いている。
あの光は何なのか。何故あそこだけあんなに輝いて見えるのだろうか。
──…………な……
えっ?と周りを見回した。今、何か声が聞こえなかったか…。
『…気の…せい…?』
辺りには誰も…と言うよりむしろ人の気配すらない。あるのは、銀に輝く光だけ。
あの光は何だろう…
光に手を伸ばそうとした。だがそれを止める声がする。
──止めた方が良いと思うよ?それ、飛那の仲間を殺したものだ。今も、隙を見て、飛那の体を乗っ取ろうときっと企んでる。
どこから声がするのか。周りを見回してみるが、影も形も見当たらない。
『…大丈夫よ。…体を乗っ取ろうと考えているとは…とても思えないから。』
光の方へ歩み寄る。
そして、優しくその手の中に光を包み込んだ。
光は一瞬躊躇したように淡く輝きを増したが、あとは手の中で大人しくなった。
光を優しく手に包みながら、抱き抱えるようにした。
優しく。どこまでも優しく、母親が赤子にするように光を抱く。
『………そう……』
──…?
『…そう……寂しかったのね……。ずっと1人で…。ちゃんと…感情があるのにね………気づいてあげられなくてごめんね。』
光は輝きを鈍くした。
『もう大丈夫。あなたは1人じゃないわ。私と共に国を治めましょう。』
光は輝きを増すと辺りを飛び回った後、飛那の体の中に入った。
飛那は、自分の額が熱くなるのを感じた。
──やっと手に入れたね。
『…ちゃんと感情があったのね。でも、体の中に入ると、体の主へ自分の感情が伝わらなくなるんだわ。』
──飛那………龍王はどうするの?
『…………龍王は罪を犯したわ。たとえ…この国を龍帝に与えたからと言って、黙認するわけには…いかないわ。』
──この世界はみんなのものだ。それを自分のものにしようとして、龍王国を混沌に陥れようとしたね。
『…どこの国でも逆賊は死刑と決まっているわ。どこの国の王でも…たとえ龍王といえども…例外はない。』
──うん。そうだね。
『もう…分かったの。私はこの国に平和を与えてあげなきゃならない。それが…父殺しの……王殺しの重さなんだわ。…だから……これ……からは………何に代えて…も……この…国……を──?』
飛那は急激に眠気におそわれた。
声の主は軽く笑んだようだった。
──良かった…安心したよ…。
飛那は霞む目で声の主を探した。
すると、ふっと、目の前に人が現れた。
真っ白なローブに包まれた人。
『…リ…ジ……ン…』
「──見てるよ。」
飛那がこれから造るこの国を。
この世界の行く末を。
だれよりも ちかくで──
飛那の意識は朦朧としている。声をかけたいのに、声が出ない。
何故こんなに安らかな笑顔を自分にむけているのか。
──だから…頑張って。
あなたを 信じる…全てのために
「飛那様ぁっ!!!!」
──………?
「飛那様!!」
「赤爛!飛那様が気づかれました!!」
──……だ…れ…?
目を開けるとうっすらと眩しい。
「皆、耳元で騒いではいけません!!傷に響きます。………飛那様?…声が聞こえますか?」
赤爛は飛那の肩を軽くたたきながら聞く。飛那は目を声の方へ向けた。
──リ…ジ……
「飛那様?」
次第に光に目が慣れて、自分を呼ぶ人の顔がはっきりしてきた。
そこにいたのは、リジンではなく。
「………せき…らん…?」
リジンは?それにここは…どこ?
周りからは悲鳴に近い歓声があがった。赤爛は感極まった様子で飛那の手を握った。目には微かに涙も浮かべている。
「…飛那様…ここは、倒壊を免れた…学校です。あの後飛那様はここに運び込まれたんです…良かった…飛那様…良かった…」
「……学校…?」
何故自分は今学校にいるのか。
マナミは?
ディアスは?
加護は?
何故?確かに森の中にいたはずなのに。
歓声の渦の中、飛那だけが取り残されたようだった。
予定通りいかないもので……。もう五十七話………。