第五話:追憶
──何で飛那が行かなきゃならないわけ!?国に飛那しかいないわけじゃないじゃない!行かないでよ!ここにいてよ!!!飛那!!!!
シア…私にしか…できないことなの。王の一族でないと…王は討てない…。
──何で飛那なの!!弟がいるんでしょう!!弟がやればいいじゃない!!!飛那が死ぬなんてイヤ!!イヤよ!!
シア……弟はまだ小さい…父親殺しなんてやらせたくないわ…。
それに父上は私が…自分の手で…決着つけたいの。
──イヤ…イヤだよ…行かないでよ…飛那は…飛那は私達より国の方が大切なの?
…私は龍王の寵愛を受ける一族の長子よ。
生まれながらにして、国に対して…龍王に対して責任を持っているわ。
──…自分の命を狙うような父親じゃない…。飛那…国を追われたんでしょう…?
シア。それでも、父親なの。5・6年前までは…本当に優しい方だったの。
──でも…でも…
シア。もうそれ以上は言わないで…お願い。あなたも…一国の姫でしょう?……分かって。
──ひなぁ……いかないで……おねがい…
…みなに…伝えて?黙って行ってごめんて…。絶対に追いかけてこないようにって…
──いやぁ…ひな…
ごめんて…そう…伝えて…。
──まって!!!いやぁぁ!!!飛那ひなぁぁっ!!!!
飛那は、とても豪華に装飾された、扉の前に立っていた。
飛那の周りには、何故か、服と、灰色の砂、そして、何か赤い文字の書かれた長方形の紙が散らばっている。
──シア…キリト…マナミ…イシズ…来たわ…ここまで…。
約束を守れなかった私を…どうか許して。
飛那は扉に手をかけた。
少しためらい、側にあった、鐘を見た。
灰色の砂の山からハンマーのような物を見つけると、それで鐘を鳴らした。
「誰か?」
しわがれた声だが、しっかりとした口調だった。
飛那は臆することなく、はっきりと言った。
「飛那でございます。おそれ多くも、父上に話しあって参上いたしました。入れていただけましょうか。」
「ふっ…よかろう。入りなさい。」
飛那は扉を両手で開けた。
中は薄暗かった。
目が慣れると、目の前に、やせ細り、黒のブカブカな衣服に身を包み、白髪を腰まで届くほどに伸ばした初老の男が立っていた。
要王……飛那と飛竜の父親だった。