第四十八話:覚醒
「お前さえいなけりゃこんなことにはならなかった!」
──違う!あの占い師が…!
「友達を返して!彼氏を返してよぉ!」
──俺じゃない!俺は何もしてない!
「ひでぇ奴だよ。自分だけが生き残れればそれでいいなんてな!」
──お前までそんな事言うのか?俺達親友じゃなかっ…
「親友?…本当に親友ならみんなのために──」
「嫌だ!やめろ!!今更記憶なんていらねぇんだよ!」
ディアスは両手でおさえながら、激しく頭を振っている。
なぜ唐突に記憶の断片が蘇ったのか。ディアスは取り乱しながらも、あることに気づいた。
──剣がない。
森で気がついたときから、当たり前みたいに手元にあったあのバカみたいにでかい剣が、ない。
「…剣…」
別れ際にシアに言われた。絶対に手放すなと。ディアスのためにならないからと。
特にあの剣がないからといって不都合があるわけではない。武器がないなら買えばいい。お金ならシアからある程度渡されているし、都合の良いことにこの龍王国にはそう言った武器が普通に売られている。
……だが。
なぜか──不思議な不安がよぎった。
あってもなくてもかわらないのに何故こんなに心細く感じるのか。
ディアスは身を翻し、ついさっきまでいた、龍騎と闘った、あの王宮目指して全力で走っていた。
特に道を知っているわけでもないのに、まるで、慣れた道を走るように一直線に王宮目指して、ある体力全て使うがごとく全力で走っていた。
──お前…何故ここにいる?
「は?なんだばぁさん?」
──生まれる場所を誤ったか。はたまた作為的か。
「?なんだ?何言ってんだ?」
──ふむ…
「……ばぁさん頭大丈夫か?水晶玉なんか持って…占い師かなんかか?」
──占って欲しいか?
「おもしろそうじゃん!占ってみてくれよ!」
──…無。
「…む?」
──無だ。
「…は?」
──お前はこの世界にとって‘無’でしかない。
「…意味わかん…」
──破壊かもしれん。消滅かもしれん。何にせよお前はこの世界を‘無’にする。
「あんた……真面目に頭大丈夫か?」
──お前にも大事な者がいるだろう?家族や友人や…彼女。
「…そりゃぁ…いるけど…」
──その者達を真に思うのであれば…お前は……
──いやだ!その先は聞きたくない思い出したくない!!いやだ!
すれ違う人みんな、人が走っているとは思わなかったに違いない。ただ、風が吹いたのだと、そう感じただけだっただろう。その姿には危機迫るものがあった。
ディアスは分かってしまった。あの剣が自分の記憶を封じていたことを。
だがシアが剣を手放すなと言ったことには、別の意味があった。
シアは知ってしまっていた。あの剣の本来の役割を。
だが、ディアスは分かっていなかった。
ディアスは無心で剣を求めていた。
悪夢を思い出さないように。
ディアスは息をきらしながら、崩れて見る影をなくした王宮に着くと、建物の残骸を端によけ始めた。
その頃から変化が現れていた。
ディアスは徐々に自分の気が荒くなっているのを感じていた。
妙な興奮状態……破壊衝動的なそれは…
──破壊かもしれん。消滅かもしれん。何にせよお前はこの世界を‘無’にする。
莫大な力を押さえるための道具を失っていたので
──その者達を真に思うのであれば…お前は…
刹那、爆発した。
──…死ぬべきだ。