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龍王の加護  作者: 仙幽
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第四十六話:嫉妬

「なんなのこのデタラメな速さ!!!精鳥が追いつけないなんて!!」

イシズは疲れたように精鳥の背に体を預けている。

「随分離されてるけど…精鳥で龍王の国までどのくらいかかる?」

シアは精鳥の耳近くに囁くように口を近づけた。


クルッ…


「半日らしいわ。龍王の国の場所がいまいち分からないから跳べないしあんたも魔力ないし…精鳥に頑張ってもらうしかないわね…」

イシズは遙か前方にいる青白く輝く流れ星のようなマナミの残像を見ている。

「…ねぇイシズ。」

「何?」

「…なんでアレクトリアにいたの?しかも牢屋にいたんでしょ?犯罪でも犯したの?」

シアは心配と言うよりはやや呆れた表情でイシズを見た。

「犯罪を犯したつもりはないけど…宿でシアを待ってたら、キリトが…」

「キリト?そう言えばキリトは?」

「多分龍王の国にいるんじゃないかな?」

シアは目を見開いた。

「何で!?まさか飛那を追いかけて…」

「違うよ…アレクトリアの馬鹿がさぁ…」

「アレクトリアの馬鹿!?あんたね、一国の王をそんな風に…」

イシズはシアの小言を聞く気はないらしい。

「マナミを人質にキリトに飛那を連れてこさせようとしてるんだよ。何日か前に鳥かなんかに乗って出たから、今頃は龍王の国じゃないかな?」

シアは軽いため息をつきながら前を向いた。

「どこもかしこも話題は龍王の国ね…アレクトリアを止めに来たのは正解だったわ…。」

「止めに来た?アレクトリアの王を?シアが?」

シアはしまったとばかりに、顔を歪めた。

「いや…何でもないの。気のせい気のせ…」

イシズは間髪入れずにシアに聞こえる声で呟いた。

「シア=ミナミ・ルシルフル。グレイス国の姫。…グレイス国の巫女の庇護を受ける国にアレクトリアも入ってるね。」

シアは脈が早くなるのを感じた。それというのも、イシズを怒らせている自覚があるからだ。

だが、シアには何故イシズが怒っているのか理由が分からない。

「いや…その…えー…」

「シアは、シア・ルシケンスだよね…?」

「えー…っと…ね?」

シアは背後からの見えない圧力に滝のような冷や汗をかいている。

「それにしてもおかしいよね。巫女でもないグレイスの姫じゃ、アレクトリアの王様に龍王の国への挙兵を止めさせることなんて出来ないよね。」

「あー…そ…ういえば、さっき北の塔にいた眼鏡のお兄さんいたけど知り合いなの?随分青い顔してたけど、何を見たのかしらねー?」

シアは話題をそらせようと必死だ。


「…て、ことは」

「あーそう言えば、さっきすごい音したわよねー雷みたいな。何だっ…」

「継いだんだね。巫女を。」

シアの心臓はバクバクと今にも飛び出しそうだ。

「…シア…」

生気のない顔で後ろにいるイシズを見た。


「騙してたの?」


「あのあのあのあの…えーっと………落ち着いて!落ち着くのよ!」

シアは進行方向に背を向け、イシズを正面に正座をした。

「謝る!謝るわ!騙してたこと怒ってるの!?ごめん!でも仕方なかったのよ。一国の姫がその辺ふらふら歩いてたら、いい標的になっちゃうでしょ!ね!」

必死にイシズの怒りを静めようとシアは焦っている。

「…飛那は…知ってるの?」

シアは素直にうなずいた。

「飛那は…私から打ち明けたけど、会った瞬間に分かってたみたい。私がグレイスの姫ってこと…って……何で怒るのよっ!」

シアを見るイシズの目には静かな…だが沸々とした怒りがあった。いや、怒りと言うよりは嫉妬に近かったかもしれない。だがシアには正直に答えたつもりなのに、逆に怒りを増幅させてしまったらしいことの理由が全く分からなかった。

「ちょっと…イシズ!?何で怒るの?」

イシズは言葉を出そうとしたが、途中でやめてしまった。シアがどうしたのかと聞くと、イシズは黙ってシアの背後、つまり進行方向を指差した。

シアも黙って後ろを向いた。

目に入ったもの。

上は雲に隠れている、巨大な浮遊島。しかも周りに鳥か何かが飛び回っている。まるで、龍王の国を監視しているように。


「な……うそっ…有り得ない…」

イシズは先を促した。

「龍王の国が…肉眼で見れるなんて…飛那は何をしているの…?龍王の加護を使っていないの…?」

シアは目を見開き、目の前に広がる光景が信じられないといった様子だ。

「シア…僕が龍王の国に入ったときは間違いなく姿は見えなかったよ…これはどういうこと?」

シアは巨大な浮遊島から目をそらさないまま、話した。

「龍王の国が姿を見せるなんて…どんな歴史書を開いても書いてないの…。だって、加護が…龍王の加護が絶えず受け継がれてきたから。加護が龍王の国を守ってきたから。加護が何なのか私は知らない。でも…加護があるからあの島は浮き続けることが出来る。歴史書にはそう書いてあったわ。」

イシズはシアの顔をのぞいた。

「…つまり、飛那は龍王の加護を持ってないってこと?」

ただでさえ白いシアの顔がより一層白くなったように見えた。


「それが…事実だったら…落ちるわよ…」

「落ちる……?」

「あの巨島が…浮力を失って落ちる…龍王の国は滅亡するわ!!」

イシズもさすがに顔色を失った。

「…飛那なら逃げれるよ…」

「飛那が一人で助かろうとすると思う!?…飛那なら……国と共に滅びることを選ぶに決まってるわ…だって…飛那だもん。」

イシズも飛那が国と共に死ぬことを選ぶだろうと思った。


でも死なせたくない。どうしても。

自分に光を教えてくれたあの人に死んでほしくはない。


──ではどうすればいい?


クッルル…キュルル…


精鳥の鳴き声にシアが気がついた。


キュルル…


「──人?………前に会った?」

シアは下界に広がる森に目を凝らした。

いた。


龍王国とは逆の方向に向かって歩いている人影が一つ。


キリトだった。




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