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龍王の加護  作者: 仙幽
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第四十五話:交渉

国土をよこせでもなく、不条理な条約を結ばされるわけでもなく、ただ、ゼノンの王族との結婚を迫るガーラの目は真面目だった。


──何を考えている…?


「…婚姻届…?それはまた…何故?私を妻としても、龍王国はあなた方のものにはならい。ゼノンにもたらすものは何もないわ。」

飛那が他国へ嫁ぐとなると、自動的に王座からはずれ、弟である飛竜へ王座が移る。

その際加護も飛竜に受け継がれる。

つまり、飛那が嫁ぐと龍王国とは縁が切れることになるのだ。そうなると飛那に龍王国の政治に口出しする事は出来なくなる。勿論弟である飛竜へ直接言及する事は出来、飛竜ならば姉の言葉を何も疑わずに聞き入れてしまうだろう。だが、飛那はそういうことはやらない。飛那が嫁ぐとからと言ってゼノンに何らかの利益が生まれることはないのだ。

ガーラは飛那に対して譲歩を許さない態度を向けた。

「龍王国など我が主には興味はない。主が純粋に望まれるは飛那様との婚姻なのです。」


──王族って…王?…ゼノンの王が私を娶りたいと…?


「……これが純粋に婚姻を望まれる方のすることですか?それとも貴国では武力でもって婚姻を迫るのが粋とされているのか。」

ガーラは至って落ち着いている。

「…今回この様な真似をしたこと、誠に申し訳ないと思っている。だが、我が主は貴女を心から望まれておられる。思いあまったこの行為、貴女への愛情の深さと考えていただきたい。」

「…では、私と婚姻するのが目的だったと、そうおっしゃる?国土でもなく、龍王国の富でもなく?」

「主が望まれるは貴女のみ。それ以上を望むつもりは主にはない。貴女が来てくださるなら貴国をこのままでいられることを主はお許しくださる。」

飛那はガーラから視線を外すことなく、自分を娶りたいと言うその真意を探ろうとした。

だがガーラの様子からはその真意も伝わってはこない。


──ここで断ったとしても、負けが見えてる戦だ…それに不安はあるが飛竜には証が戻っている。とりあえず龍王国の王座は守られる…。


「…断る理由がないわ…さて…どうしたものかしら…?」

「貴女が断る理由がどこにあるのか。何を悩まれることがある?」

ふぅとため息をつくと、飛那は膝に肘をつき顔を伏せるようにした。

ガーラは飛那が落ち込んだように見えた。

「何も落ち込むことはない。王族の娘として生まれたからにはこのような運命も──」

「いや…ね…」

飛那は顔を伏せたまま笑う。

「どうされた?」

「総将である貴方は、ゼノンの王が私を娶りたいと言う。国土でもこの国の富でもいらず、私がゼノンへ嫁ぐことのみが目的だと。」

ガーラは大きく頷く。

くくっと笑うと飛那は伏せていた顔を上げた。その目には危険な色がある。


「──いったい何が目的。ゼノンの王が自分の利にならないことなどやるはずがない。このような手段を使ってまで、私を手に入れて何をする?」

ガーラはその目に射抜かれたような感覚に陥った。


──これが…龍の力…人とは一線を引く圧倒的で──恐ろしいくらい魅力的な。


今では龍の血も薄くなり力も弱まっていると聞くが、飛那のそれは、人とは明らかに違う。やはり、王族だからなのか…。ガーラは手に汗をかいているのを感じながらも、それでも平静を保っていた。

「貴女以外に目的はない。間違いなく主はそう仰った。」

飛那はしばらくガーラの目を見ていた。しばらくの沈黙がその場の空気を凍らせる。


そしてその沈黙を破ったのは飛那だった。


「…わかったわ。でもこの国の平和を約束して。それなら断る理由もないのだから、その紙に私の名を書きましょう。」

ガーラは軽く笑ったように見えた。だがすぐに表情を引き締めた。

「貴女のご理解…感謝する。貴国の平和を保証いたそう。おい!証明書をここに。」

ガーラはテントの外で見張らせていた兵に、命令を出した。外にいた兵は、返事をすると、その場から走り去った。


遠ざかる足音を聞きながら飛那は独り言のように呟いた。

「…それにしても随分といいタイミングで攻めてきたものよね。まるで、龍王国が反撃出来なくなるのを知っていたみたいだわ…」

ガーラは何も言わない。

「…まぁ…情報も大切な武器…むざむざ情報を流させた私の落ち度だから追及はしないけど。」

「………貴女は賢い。」

「?」

「…人柄も悪くはないと聞く。」

「…何の話を──」

「だから良い臣下が集まり、貴女を真に信じる臣下を多く持つことが出来たのだろう。」

「…」

「だが…自分を真に信じる臣下を、信じきることは、危険きわまり無いとだけ言っておく。」

「……貴方は──」



飛那が話終わる前に、テントに人が入ってきた。ガーラは兵が証明書を持ってきたのかと思った。

だが、立っていたのは兵ではなかった。

「ちょっと飛那。勘弁してよ。約束破るなんて………僕を怒らせるなんてらしくないよ。」

語尾にはもはや感情が入ってはいなかった。

ガーラは旅人のように足下を隠せるほどに長いマントを羽織り、帽子を深く被っている、女が唐突に入ってきたことに驚きを隠せないようだった。

「…なっ……んだ貴様は!!!おい!!誰かいないか!こいつをつまみ出せ!!」

「ちょっとうるさい。それに…叫んだって誰も来ないよ。」

ガーラはどう言うことかとテントの外を覗いた。

女の言葉の意味が嫌と言うほど理解できた。

見張りに出していた兵二十人が地…と言うかむしろ血に沈んでいたのだ。近くに寄らなくても分かる。息のあるものは一人もいない。

ガーラが茫然と外を見ている間も女は飛那を問いつめている。

「…ねぇ約束したよね。王座を継ぐって。ね?破るの?僕との約束。破るの?」

緊迫した雰囲気とは裏腹に飛那を苦笑を漏らしていた。

「この状況では他に方法がないでしょう?落ち着きなさいリジン。」


リジンは飛那を睨んでいたが、ふっとため息をつくと表情を和らげた。

「でも、ま、間に合ったからいっか。」

飛那は嬉しげに笑みをこぼした。

飛那にはリジンがここに現れることが分かっていたようだ。

リジンは口早に話し出した。

「飛那、気になることあるよね。教えてあげるよ。裏切り者ね、黒磨だ。ゼノンへ彼が情報を流していたんだ。」

「そう…黒磨が…」

飛那は切なげな表情になった。

「それにゼノンの王様、どうやら龍王の加護が目的みたいだ。飛竜に証がないことを耳にしたんだろうね。飛那と結婚すれば加護が自動的に手にはいると考えたみたいだ。」

飛那はトップシークレットである飛竜に証がないことを知られていたことに驚き、また感心した。

「…リジンまさかあの後に調べあげたの?すごいわ…」

リジンはにっと笑う。

「音闇と雪弥それに黒祠も手伝ってくれたよ。」

と、ガーラが戻ってきた。

「女、兵をやったのは貴様か?今は大事な契約を交わしている最中だ。不問にしてやるから今すぐここから出ていってもらおうか。」

ガーラは拳を握りどうにかこうにか、平静を保っている。

リジンは飛那に笑いかけるとガーラの方を向いた。

ガーラは無意識に一歩下がった。

「その契約とやらは無かったことにしてもらいたいんだけど?」

「関係の無い貴様が何を言う。それに私は主から武力でもって飛那様を連れてくることを許されているのだぞ。」

ガーラの脅しはリジンには効果はなかった。

「そっちこそ…僕にそんなこと言っていいの?」

「何が…」

「ゼノン。玉の取れる鉱山を持つ玉都。主な産業は取れる玉に術をかけ全国に輸出し、多大な収益を得ている。ゼノンの玉を見ない国はないと言われるほどだ。でも、今別の産業にも力を入れてるらしいね?この場でそれを言ってもいいのかな?」

ガーラはまだ平静を保っている。

「…何の話か全く分からないのだが?」

「…飛鳥の養殖成功おめでとう。…でも随分良く言うことを聞くよね。養殖とは言え、妖鳥なのにこんなに忠実に命令って聞けるものかな?」

ガーラは焦燥を感じた。

「…やっぱ、良く効くんだ?ゼノン自慢のぎ───」

「待て!!!分かった!!」

飛那には何のことか分からない。2人をただ見ている。

「私一人では決めかねる。使者をゼノンに出し、主の指示を仰ぐ。それまで待て。」

リジンは飛那の方を向いた。

「飛那?どうする?」

飛那は笑顔のリジンに黙礼した。

「それでいいわ。」

ガーラは慌ただしく主に渡す手紙をしたため、これを使者に渡し、とにかく急ぐように言い渡した。これを受けた使者は最も早い飛鳥にまたがると、あっという間に飛び去った。


その頃には日はすっかり暮れ、夕闇があたりを包んでいた。所々で明かりが灯り、先程の揺れによる被害を確かめる声や、行方が分からなくなった親しい人を呼ぶ声が止むことなく聞こえていた。

飛那とリジンはそんな様子が見える、テントからほど近い丘にいた。

「本当に助かったわ。ありがとう。」

リジンは照れているようで頭をかいた。

「なんだかゼノンが怪しかったから。一応念のために忍び込んだのが吉と出て良かったよ。」

飛那は町の様子を見ながら、ため息混じりに言った。

「……今日は…本当に長い一日だったわ…さすがに疲れた…。」

──今日はこれ以上何も起こらければいいけど…

飛那は誰ともなく呟く。


リジンは笑いながら飛那を見た。

その時、飛那は何かがここにすごい速さで向かってくるのを感じた。

「──何?何かしら?」

リジンもまた何かを感じ取ったらしい。神経を集中させている。

「──飛那が休むには…」

空が急に明るくなった。月の明かりも霞むほど青光るそれは…

「…まだ早いみたいだ。」

飛那はあまりの眩しさに手をかざしている。

「一体…何…」


手の隙間から覗いたその光りの正体。

「──マナミ?」

実際は1ヶ月も離れてはいないのに、一年も二年も会っていないくらい懐かしく感じる。

シア・イシズ・キリトと共に旅をし、癒しをくれた仲間だった。


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