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龍王の加護  作者: 仙幽
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第四十三話:忠告

五千羽もの妖鳥である飛鳥と、それに騎乗している恐らくは兵士に囲まれた民衆達は、恐怖するでもなく、混乱するでもなく、ただ呆気にとられていた。

龍王国は空に浮いた島だ。

それも、今でこそ人口三千万だが、最盛期の頃は五千万もの民が暮らすような巨島なのだ。魔法使いや術師ならば飛ぶ方法があるが、普通の人間にはろくな飛行手段など存在しないので、宝石や札などを使い、何度かに分けて龍王国へ兵を乗り込ませる。そんな戦争方法が当たり前だった。つまり、龍王国にとって空から囲まれるなど、前代未聞だったのだ。


龍王国の民衆は皆何だあれはと、ただ空を眺めるだけで、戦争を仕掛けに来たとは───ただでさえ要王の賢政のおかげで平和慣れしていたので───誰も思いつかなかった。

だから、相手が唐突に要求を突きつけてきたことに全く理解ができなかった。


「貴国の王、要王がお亡くなりになったと耳にしたので、娘である飛那もしく息子である飛竜をこちらにお出し願いたい。この要求を受け付けないのならば、我々はここにいる三千万の兵でもって実力行使するつもりである。我は、玉都と名高いゼノンから参った、総将ガーラ・アームロングと申す!」


「…行くしかないわね…。」

近くで呆けていた黒磨が、まだ立ち直れないのか何とも言えない顔をした。

飛那は疲れたような顔をして呟いた。

「はぁ…いくら何でもタイミング良すぎだわ。」

飛那の呟きにディアスは敏感に反応した。

「…それって…?」

飛那は軽く背伸びをすると、総将に向かって叫び返した。

「飛那は私です。足がない。迎えを頼みます。」

それを聞いた兵が飛那の元へ向かってきた。

「はてさて…一体どんな要求をされるのかしら…不安だわ。」

不安そうには聞こえないむしろ楽しげな口調の飛那の顔を怪訝そうにディアスが覗いた。

飛那は笑っていたが…その笑みには影がかったものがあった。



一方、アレクトリアでは急報が王の耳に入っていた。

「何!ゼノンが!?……あの…狸めが…とうとう本性現したか…」

予想だにしなかった友好国に先を越されたサウエル王は憤慨していた。

「陛下…どうなされますか。今を逃しますとゼノンに龍王の加護を取られてしまいます。」

サウエル王は唸るばかりだ。

と、また急報が入った。

「陛下!!!大変にございます!!!!ゼノンが突きつけた要求は………………」

「くっ!!!やはり…その手を使ってきたか!!!」

サウエル王は勢い良く立ち上がると、怒りをぶちまけるように叫んだ。

「兵を出せ!!龍王国へ行くぞ!!ゼノンの思惑道理にしてなるものか!!」

臣下達はすくみあがり蜂の子を散らすように出兵の準備をすべく我先にと部屋を出ようとした。

するとまた急報が入った。だが今度は来客を報せるものだった。

「私に客だと…?そんな暇あるか!!そんな無礼者追い返せ!」

「ででですが陛下!!そそ…その……相手が…」

報せに来た小物は縮み上がりながらも必死に訴えていた。

サウエル王はその小物の様子を見て更に苛立つように叫んだ。

「なんなんだ!」


「その…あの…あの…ぐっ……グレイスの…姫君でして……」


「──何?」



サウエル王はグレイスの姫の待つ最高の技術で飾られた客室へ入った。

客室では、特徴的な美く蒼い肩ぐらいの長さの髪をしたまだ幼さが残る女性が凛として座っていた。

サウエル王は軽く咳払いをした。

「何もご連絡なしに、今日は一体どうなされましたか?姫?」

サウエル王はいたってにこやかだったがソファーに座る素振りは見せなかった。

そんなサウエル王を顔は美しい笑みを浮かべている姫が座るよう促した。

「お忙しい中、時間を割いてくれたこと感謝いたします。本日は、忠告しにきました。」

サウエル王は立ったまま姫を見ている。

「……グレイス国の巫女でなく未だ姫であらせられるあなたが、一国の王である私に忠告?」

サウエル王はわざとらしいくらい、不機嫌を装った。

しかし姫はサウエル王にとって意外なことを言ってのけた。

「父も母も亡くなりました。ですから先日私が母の代わりに巫女を継ぎました。私の忠告を聞く気になりましたか?わが国の庇護を受ける王よ。」

サウエル王はその場に立ち尽くした。

姫改め巫女はかまわず続けた。

「龍王国への侵略はお止めなさい。」

サウエル王は一瞬詰まった。

「…そんな事を言われる筋合いは…」

「では、アレクトリアへの庇護を止めましょうか。私がこの国の結界を解けば──どうなるか…」

サウエル王は青い顔で、巫女を見た。その顔に表情はない。

「…お分かりでしょうね?」

サウエル王は感情を殺すように、また、見た目では遙かに年下の女の忠告を聞き入れなければならない屈辱に耐えるがごとく、唸るように言った。

「……も…ちろんですとも…」


その言葉を聞いた巫女は立ち上がると、ドアを開けながらサウエル王に言った。

「貴国のご理解感謝致します。」

ドアが閉まった。


ドカッ


豪華に飾られた壁にヒビがはいった。

サウエル王の拳からは血が流れ出ていた。


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