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龍王の加護  作者: 仙幽
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第四十二話:龍王国(2)

妖鳥について詳しく知りたい方は、27話迷想を読んで下さい。


「ルリ!!いい加減観念しろよ!俺達から本気で逃げきれると思ってんのか!?」

半ば呆れたような声で、木の上から枝やら石やらを投げてくる20代後半ぐらいの女に訴えているのは、キリトの飛鳥を軽々と倒したシンと呼ばれる男だった。

「痛てっ」

女は無言でシンの頭に枝を投げつけた。

「ルリ!止め…痛てっ!痛てててて……って止めろって!!」

木にいるだけあって、枝は大量にある。枝や石が尽きるのを待つには、時間がかかりすぎる。シンはどうやってルリを木から降ろすかと策を練っていた。




しかし、突然地震か雷かというような轟音が辺りを包んだ。あまりの音の大きさに、葉や草がビリビリと震えている。

シンと共にルリを囲んでいた男達は仰天して辺りを見回した。

「ななっ!?なんだなんだ!!?」

「地震か!?」

「馬鹿揺れてねぇだろ!!」

「何て音だ!!!シンさん一体これは……」

シンもさすがに何が起こったのか分からず、ただ、辺りを見回すだけだった。すると再びシンの頭に枝が当たった。

「いっ……!!何すんだルリ!」

ルリは枝をシンに投げつけると空に向かって指を指した。

シンと男達はルリの指さす方へ目を向けた。

その瞬間皆が皆、目を疑った。

雲の割れ目から、轟音と共にゆっくりと巨大な島が姿を現したのだ。

「なっ………」

「空に浮かぶ……まさか龍王国…?」

「で……でけぇ!!!!」

その巨大な島は上半分を雲に隠したまま、動きを止めた。

それと同時にあの轟音も止んだ。

シンは、どこか苦しそうな顔をしてその空に浮かぶ島を眺めていたルリに向き直った。

「……これが…そうなのか…?」

シンは恐怖にも似た感情でルリを見上げた。

ルリは島から目を離し、木から降りシンの近くに立った。

「……王が死に、即位前に龍王国の高度が落ちた……」

「……ルリ?」

ルリはまた、島に視線を移した。

「……これから分かるわ…私が…」

「……私が?」

ルリは力強い瞳でシンを見た。

「…村の掟よりも親友よりも……世界よりも選んだ物…その代償が……もうすぐ…分かる。」

「後悔…してるか?」

ルリは答える代わりに冷ややかにシンを見た。

その視線には覚悟を決めた者の鋭さがあった。シンはその視線を受け止めることしかできなかった。

そんなシンを横目にルリは龍王国とは逆の方を向いた。

「………ほら…来た…」

シンと男達はルリの見る方を向いた。その方角からは凄まじい羽音とそして───





「私は下へ降りるわ。ディアスも行くでしょう?」

ある程度の揺れが治まったのを見計らってから飛那は言った。

「おう。当たり前だろ〜」

飛那は笑いながらも不思議な気分を感じていた。

今回、ディアスがいなかったら間違いなくクリスタルは破壊されていた。

自分も恐らくは無事では済まなかったはずだ。ディアスのおかげで龍王国はとりあえずは地上への激突を避けることができ、クリスタルもヒビは入ったが破壊は防ぐことができた。これというのも全てディアスがいてくれたからに他ならない。感謝してもしきれない働きをディアスはしてくれたと飛那は感じていた。

だが…何故自分を命懸けで救おうとしてくれるのか。

いくら命の恩人から頼まれたとは言っても、自分の命を危険にさらしてまで初対面の人間を助ける人間がこの世界にどれだけいるだろうか。家族がや友人や恋人など大切な人を持つ者は、赤の他人のために命を削ることはしない。

ならばディアスには──いないのだろうか?恋人も友達も──家族も。

飛那は率直に尋ねてみた。するとディアスはキョトンとした顔で当たり前のように答えた。

「何でって…だって俺は命を救われたんだぜ?その命分くらいはシアに返してやりたいと思うんだ。」

「でも、せっかく救ってもらった命を失うことになっていたかもしれなかったのよ?」

「失ったっていいよ。むしろ、その方がいいんだ。」

予想外の答えに飛那は焦った。

「何言って…」


「だって、一度は無くしてた命だろ?ここにある方がおかしいんだ本来なら。あの時シアがいなかったら死んでたんだから。それに、俺の命を拾ったのはシアだ。だから俺はシアの頼みは聞かなきゃならないと思ったんだ。それが例え、殺しだったとしても。」

飛那は、ようやくディアスを少し理解できたような気がした。ディアスは自分の命をどこか遠くから見ているのだ。まるで他人事のように。

「飛那さん。町に降りるんだろ?早く行こうぜ〜」

ディアスは相変わらずひょうひょうとしている。

飛那は軽く笑いながら、頷いた。そして、ディアスの近くに立つとまた、石を頭上に投げ叫んだ。

山春さんしゅん


「飛那様!!!!」

「飛那様…?」

「おぉ飛那様!!」

白卦が飛那を見てざわつく民衆を掻き分けて、近づいてきた。

「白卦!どう…様子は…?」

あの激しい揺れである。死人が出なかったはずがない。

「ここはまだ被害が少ない方です…山に近い所では…生き残っている方が少ないと思われます。」

飛那は苦しそうに目を閉じた。

その時、白卦の持つ石から黒磨の声が飛んできた。

『白卦!!そちらに飛那様がいらっしゃるのですか!?』

どうやら会話を聞いていたらしい。遠くから、飛那が生きていたことに歓喜する声が聞こえてきた。

「あぁ、黒磨も無事でしたか。飛那様ならここにおられますよ。生きてらっしゃいます。」

白卦の嬉しそうな声とは裏腹に黒磨の声は激しさを増した。

『飛那様!!大変でございます!至急、緑の丘においで下さい!!大至急お願いします!』

白卦は訝しむようにした。

「黒磨どうし─」

『来ていただければ分かります!』

白卦は飛那の方を向いた。

飛那は軽く頷いた。

「行ってみるわ。白卦は残って怪我人の手当を。」

白卦は頭を下げた。飛那は再び石を頭上に投げ叫んだ。

「緑の丘」





「飛那様!!よくご無事で!!!!」

感無量といった様子で、黒の一族が出迎えた。そこへ、黒磨が真っ青な顔で現れた。

「飛…那様…あれを…」

飛那は指さされた方を見やった。


飛那は我が目を疑った。


地上が見える。


それも…あんな近くに。


「これは……あの揺れは高度が下がって…いたからだったのね…」

その時、微かに、音が聞こえたようなきがした。

「……何か…聞こえない…?」

飛那が耳を澄ましているのを真似て、ディアスも近くにいた皆が耳を澄ました。

「───羽ばたく音…?鳥?」

徐々にうるさくなっていく羽音と共に鳥らしき物が見え始めた。徐々に徐々に近づいてくる。


「───妖鳥だわ…しかも…人が…乗っている…」


黒磨は驚きのあまり声を失ってしまった。他の者達は顔面蒼白の上、ふるえている者までいた。

「よ…妖鳥が……あんな数で…」

「妖鳥を乗りこなすなんて…!!!」

それぞれが目の前の光景を信じられないようだった。

人を乗せ、武装した妖鳥の大群はどんどん近づいてくる。

その数およそ五千。

戦争を仕掛けに来たことは明らかだった。

今のこの状態で、しかも相手には妖鳥である飛鳥がいるのでは…………

龍王国の負けは、戦わずして決定したようなものだった。


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