第四十一話:希望
「うわっ!!?」
緑のクリスタルは破壊されてはいなかった。やはり、腐った腕ではその機能を果たすことはできなかったのだろう。だが、それでもヒビを入れるには充分だった。
揺れは徐々に激しくなり、天井が崩れ始めた。
ディアスは要王の首を投げ出すと、飛那の元へ走り寄った。
龍騎はヒビの入ったクリスタルを微動だにせず見つめていた。
飛那は腰が抜けたように床に座りこみ、呆然と緑のクリスタルと龍騎を見つめていた。そうこうしている間も揺れは激しさを増していた。
「飛那さん!!!崩れるぞ!!早く出んぞ!!」
飛那はあえぐようだった。
「どうして…クリスタルは破壊されていないのに…なんで…どうして?」
天井が崩れ、細かい石片が床に落ち始めた。
ディアスは飛那の肩を掴み揺さぶった。
「ここはあぶねぇんだよ!!逃げんぞ!!立てって!!」
飛那は首を横に振り、取り乱したように涙を流しながら叫んだ。
「もう…もう終わりだわ!!!この国も民もみんな…墜落して…みんな死んでしまうのよ!!」
ディアスは飛那の腕を掴んだ。
「飛那さん!!立って!!」
飛那は首を振るばかりだ。
「いや!!国を守りきれなかったのに、逃げるなんて出来ない!!国と…民と一緒に死なせて!!」
揺れが酷くなり、立つのがやっとになってきた。天井からはもはや石片とは言えないような大きな物まで落下し始めていた。このままでは入り口が使えなくなってしまう。
「飛那さん!!入り口が閉ざされちまうよ!!早く!!」
「もう終わりよ!!父上の…父上の愛したこの国は滅んでしまう!!!終わりだわ!!」
「まだ終わりじゃない!!」
「終わりよ!もう終わりなのよ!!私を置いて逃げて!!」
「飛那さんを置いて逃げるわけにはいかねぇんだよ!それにまだ終わりじゃない!クリスタルは破壊されたわけじゃない!まだ望みはある!!でもここで死んだらその望みも絶えるんだぞ!生きて、龍王の加護を探し出すんだ!!」
「…龍王…の…加護…?」
ディアスは頷き飛那の腕を力任せに引いた。飛那はヨロヨロと立ち上がった。
「逃げるぞ。あんたはこんなとこで死ぬべきじゃない。まだやることがあるだろ?」
飛那は虚ろな目だったが、はっきりと頷いた。
ディアスは笑顔をつくると飛那を先に入り口から出した。
飛那は入り口から出る瞬間、後ろを振り向いたがそのまま階段を上っていった。
ディアスも後を追おうと階段に足をかけた。だが、ふと、後ろを向いた。
天井が原型をなさない様な部屋の中で龍騎がディアスに背を向けて床に座っていた。
「……おい!!あんたも逃げないと死……」
「あ…じ……あるじ………主…うっ…うぅ…主──」
龍騎は要王の首を抱いたまま泣いていた。
ディアスはそのまま階段を上った。
上方達が倒れていた部屋で飛那が待っていた。
「飛那さん……龍騎は…」
飛那は首を振った。
「もう……仕方ないのよ…」
ディアスはそのまま頷くと、二人で王宮を出た。
揺れは激しさを増していた。飛那は建物から出ると、ディアスの腕を掴み、石のような物を頭上に上げ叫んだ。
「安全な高台!!」
二人はその場から姿を消した。そして、見晴らしのいい、崩れていない高台に着地した。
「おぉっ!!!すげぇ〜」
ディアスは高台から見渡した。
下の方では、所々で白の膜のようなものが点々と見えた。
「…みんな…頑張っているのよ。」
飛那が横から呟いた。
揺れはだいぶ収まりつつあった。
飛那はディアスを見た。
「望みがあると…言ったわよね…」
飛那は目をつむった。
「……加護…見つかるとあなたは思う…?」
ディアスは飛那を見た。
「必ず見つかると思うぜ。」
飛那は微笑した。
「シアに感謝しなければならないわね…あなたをここに連れてきてくれたことを…」
ディアスは照れたように頭をかいた。
飛那はディアスに頭を下げた。
「ありがとうディアス。」