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龍王の加護  作者: 仙幽
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第四十話:明暗

勝負は一瞬だった。

龍騎は長く鋭い爪を一心に集め、ディアスの心臓を狙った。

一方ディアスがその大剣で狙ったのは、龍騎の抱く要王の首だった。


二人は同じタイミングでお互いの懐に踏み込んだ。


「───!!!」

飛那は声が出なかった。

龍騎の攻撃をまともに受けたディアスは吹っ飛び、防御もできないまま壁に背中を強打し、その場に力なくうつ伏せに倒れた。ディアスの体からは血が流れ出て、小さな水たまりを作った。

飛那は壁にもたれかかると、ディアスを見つめたまま硬直してしまった。

──私のせいだ!!私が腕を受け取らなかったから、龍騎の怒りの矛先が彼に向いてしまった…シアの友達を…私が…私のせいだ…

飛那はまだ痛む腹から手を離し、両手で顔を覆うようにした。


龍騎はディアスが倒れたのを確認すると、自分の主の顔を見ようと、軽く微笑みながら自分の腕をのぞき込んだ。


だが一瞬でその微笑みが凍り付いた。


無かったのだ。


手放すはずのない、確かにこの手で抱いていたはずの…大事に、大切に抱いていたはずの要王の首が、龍騎の腕の中から消えていた。

龍騎は激しい戦いをしたせいで、自分が気づかない内に落としてしまったのかと、慌てて辺りを見回した。

だが、どこを見ても、要王の首は見つからなかった。

龍騎の様子の変化に気づいた飛那は両手を顔から離すと、龍騎を見た。

龍騎は目の色を変えて、クリスタルの影や階段などを狂ったように探していた。

飛那も消えるはずのない首が消えたことに驚いていたが、龍騎がクリスタルから気がそれたこと幸いにディアスの元へ駆け寄ろうとした、その時───

ディアスの指が動いた。

「!ディ───」

飛那は思わず動きを止めた。

駆け寄って、傷口を確かめたかったが、今のディアスには近づきがたい雰囲気があったのだ。ピリピリと、ディアスの周りの空気から危険な香りが立ちこめていた。それは飛那に近づくなと、警告を発しているようだった。

ディアスはゆっくりと指を動かし、感覚を確かめるように左手で拳を作るように握ると、辺りを探るようにし、剣の柄に触れると、柄を握りしめた。そしていたって滑らかな動作で静かに起きあがった。傷は心臓に達してはいなかったらしく、思ったよりも小さな傷が付いているだけであった。

ディアスはゆっくり立ち上がると、肩に大剣を担ぎ、右手に何か掲げた。

「龍騎〜。」

龍騎は要王の首を探すのに必死になっている。


ディアスはおどけるように言った。

「これ、な〜んだ?」

龍騎はゆっくりとディアスの方を向いた。

龍騎の瞳孔が開かれた。

「──主!!!貴様…!」

ディアスは今にもくってかかってきそうな龍騎に動くなと命じた。

「あんたの大事なこの首を床に叩きつけて潰すことぐらい分けないんだぜ?飛那に腕を渡してくれるよな?」

ディアスはひょうひょうと言ってのけた。飛那は唐突に取引を始めたディアスをハラハラとしながら、また、えらく度胸の座った男だと感心もしながら黙って見ていた。

ただの好青年だと思ってなめてかかると痛い目を見る。


飛那は龍騎がどんな決断を下すのかと、龍騎の方を向いた。


飛那は息をのんだ


龍騎は冷静を取り戻しているかのように見えた。

「……そう…そちらにいらしたのですか主…。」

飛那もディアスも龍騎の一語一句、微かな動きにも細心の注意を払っていた。いつ龍騎が飛び出してもおかしくないのである。

だが龍騎はディアスから目を離した。

「主を潰したらその瞬間、この国は終わるね。」

ディアスは迷うような表情をした。

龍騎はディアスの表情を見るとおもむろに腕を取り出し、クリスタルに近づけた。

「主を潰した瞬間、クリスタルを壊すよ?」

龍騎があんなに大事そうに抱いていたこの首に執着を見せなかったことに、ディアスは意表をつかれた。

龍騎はクリスタルから目を離し、ディアスを見た───瞬間、黒い影が目に入った。

龍騎は一瞬早く反応したが、背中に強烈な衝撃を受け、腕を取り落とした。龍騎は腕を掴もうと手を伸ばしたが、別の腕が横から伸びてきた。


飛那だった。


素早く龍騎の後ろに回り、龍騎の背中に膝蹴りを決めて腕を落とさせたのだ。


「……飛那!!!」

龍騎の目に見る見るうちに憎しみが戻った。押さえていたもの全てを込めたような蹴りを飛那へ繰り出した。

飛那はまるで物のように吹っ飛ばされたが、壁に激突する前に体制を整え、床に着地した。飛那の手の中にはしっかりと腕が握られていた。

龍騎はすぐに飛那に向かって飛びかかった。

飛那は懐から真っ黒な紙に赤い血文字で書かれたような札を取り出した。

おそらくは同時だった。

飛那は札を、クリスタルを壊す鍵となる腕に付けた。

龍騎は飛那を殴っていた。

飛那はそのまま吹っ飛び、まるでボールのように床を五メートルほど転がると止まった。口の中を切ったのか、咳込みながら血を吐いていた。頬は真っ赤に腫れ、痛々しい。

龍騎は手にした腕を見ると飛那を憎々しく睨みつけた。

「飛那…よくも…腕に腐敗の呪をかけたな…」

ディアスはどうしたものかと、要王の首を掲げたままその様子を見ていた。

よく見るとクリスタルを壊す鍵となる腕から赤黒いシミが広がっていた。

「これで……クリスタルは破壊できなくなりました。龍騎…もう…止めましょう。復讐に民を巻き込むなんて…」

龍騎は笑んでいた。

「馬鹿だね。飛那」

龍騎は腐りかけた腕を近くにあった緑のクリスタルに投げつけた。

腕がクリスタルにぶつかると同時に目に痛いほどの光線が緑のクリスタルから出た。それが収まると、今度は激しい地震のような揺れが始まった。


龍王国の民なら誰にでも理解できる揺れだった。

もう四十話…早いもんですね…(独り言)

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