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龍王の加護  作者: 仙幽
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第四話:飛那(ひな)

全力で走り、輝竜の間にたどり着いた、白竜の目に映ったのは、輝竜の間に通じている、唯一の扉の前で泣き崩れている黒祠と叫んでいる飛竜の姿。

そして 扉に入っていく…王の娘である飛那の姿だった。

白竜が飛那の手を取る前に、扉が閉められた。

この扉は中から鍵をかけることができるが、外からは開けることも閉めることもできないようになっていた。

白竜は扉を開けようとしたが、びくともしなかった。

息を整えながら、嗚咽を漏らしている黒祠を見た。

「…黒祠…飛那様は…なんておっしゃっていた?」

黒祠は白竜の顔を見ずに、つぶやくように言った。

「飛那様は…何もおっしゃいませんでした……た…だ…父上がいるか…龍騎はいるか…と…そう…私に質問しただけです…」

白竜から血の気が引いた。

この三年間はいつも頭に浮かんでいた…白竜だけではない。

今やこの国の民全てが望んでいることを飛那はやろうとしてている。

白竜は拳を握りしめた。

「……飛那様…」

「あ…」

「どうしたの?黒祠…」

黒祠は白竜の顔を見て、はっきりとした口調で言った。

「飛那様は、飛竜様にこの国を頼むと、次の王は飛竜様だからと…そうおっしゃいました。」

白竜は飛竜を見た。

要王には子が二人いる。

その内一人が王の元へ…龍騎がそばにいる王の元へ行ったのだから…次の王は飛竜しかいない。

白竜は膝をついて泣きじゃくっている小さな皇子を見た。

「飛竜様。ここから離れましょう。」

飛竜は驚いたように白竜を見た。

「飛竜様、ここはじきに龍が現れます。そうなれば、飛竜様にも危険が。どうか、この白竜と共にここから御逃げくださいませ。」

飛竜は信じられないといった目で白竜を見た。

白竜は飛竜の腕をつかみ、そのまま引いてその場から離そうとしたが、飛竜が激しく抵抗するので、白竜は飛竜の首筋に手刀を落とそうとした。

そのとき──

「止めなよ。子供の意志を無視するなんて。」

白竜も黒祠も飛竜もその声の方向を見た。

白竜が走ってきた廊下とは逆の廊下から悠然と歩いてきたその少年は、12、13才に見える。

ニコニコと笑いながら、飛竜に近づいてきた。

白竜は飛竜の前に立ち、少年と飛竜の間に入った。

「お前…何者ですか。飛竜様にお近づきにならないで。」

白竜は相手を威圧したが、その少年はものともせずに、白竜の肩に手を置き、変わらない笑顔で白竜の耳元で言った。

「大切な大切な皇子だものね。何もしないよ。私は飛那と旅をしてた者だよ。言わば、仲間ってやつだよ。」

そう言うと、白竜に笑いかけた。

白竜はその少年から得体の知れない力を感じた。

蛇に睨まれた蛙…まさにそんな気分だった。

少年は白竜から逃れ、扉にしがみつく小さな皇子に話しかけた。


「この先に行きたい?」

飛竜は振り向くことなく うなづいた。

「開けてあげようか?」

思わず少年の方に振り向いた。黒祠は目を見開いている。

「できるの?この先には姉上がいるんです!」

白竜は我に返った。

「飛竜様!この様な得体の知れないものの言うことなど御聞き入れくださらないで!この扉は中からしか開けることはできません!黒祠!!!」

黒祠は慌てて膝をついた。

「この男を連れて行きなさい!」

「はっ…はいっ!!!」

黒祠が少年の腕をつかんで飛竜から引き離そうとしたが、少年は微動だにしなかった。

変わらない笑顔を飛竜に向けたまま、動かない。

「飛竜。どうします?」

「開けてください!」

即答だった。

白竜は焦って黒祠と二人でその少年から飛竜を離そうとした。

だが、離されたのは二人だった。

何が起きたのか、二人には分からなかった。

突風が少年の周りから出たように感じた。

そしてそのまま、飛ばされ、壁に体を強打した。

「…っ…黒祠…」

黒祠はその場に倒れ込んで動かなくなった。

白竜も強く壁に打ちつけられたので、体を動かすことができない。

「飛…竜…様…」

白竜は信じられないものを見た。

少年が扉に手をかざしたかと思ったら、外からは絶対開けることはできないその扉を開けたのだ。

少年は笑顔を飛竜に向けた。

飛竜は屈託のない笑顔を少年に向けた。

「ありがとう!!!僕行きます」

飛竜はそのまま扉の向こうへ消えていった。

少年は飛竜が戻ってこないことを確認すると、また手をかざして、扉を閉めた。

「なたは…あなたは何なの!!!!飛那様がどうして飛竜様を連れて行かなかったのか…分からないの!!!!殺されるからなのよ!!!」

「知ってるよ?」

少年はしらっとした態度で、けだるそうに答えた。あの笑顔のままで。

「だったら何で…!!!」

「じゃぁ聞くけど、何で死ぬのが飛那じゃなきゃいけないの?」

「…何…を…」

少年は笑顔のまま白竜に目をやった。

「死ぬのは飛那じゃなく、あのガキでいいんじゃないかな?飛那が死ななきゃならない理由は一つもないでしょ。」

白竜は言葉を失った。

「ね?だから、飛竜に行ってもらったんだ。あれはまだガキだから、きっと飛那の代わりに死んでくれるよ。ガキは純粋だからね。あ、別に死ぬのは君でもいいけど、龍王の加護を持つ要王を殺すことができるのは、龍王の寵愛を受ける王族だけなんだから、仕方ないよね。」

白竜は、少年から感じていた得体の知れないものが、今まで感じたことのない恐怖だと思った。

王からの御しかりを受けるでもない、死に直面した時に感じたものでもない、強いて言うのなら、幽霊や妖怪といった現実にはいないと言われているのもに出くわしたときの感覚に似ていた。

「な…なんて…ことを…」

「なにかおかしなこと言ったかな?君達、龍王の一族にとって、唯一龍王の加護を受ける権利のある飛那に死なれるのは、困るんじゃないの?」

白竜は思わず黒祠を見た。黒祠が変わらず気絶しているのを確認して、少年を睨んだ。


「いくら、飛那様の仲間だからと言って、口には気をつけることだ。」

少年は笑っている。

「やっぱり。あのガキには龍王の証がないんだ」

白竜はギクリとした。

「しまっ……」

「良かった。飛那、この国をすごく心配してたからね。飛那が生きて、この国を治めるのが一番だよね。君もそう思うでしょう?」

「ふ…ふざけないでよ!!!飛那様が自分の手でこの国を変えると、飛竜様にこの国を託すと、そう決断したのよ!!!それは彼女の意志よ!!!それを…

その笑顔を止めなさいよ!!!!!!」

少年は笑顔のままで、激しく取り乱している白竜に告げた。

「いやだよ。飛那がこの笑顔好きなんだから。」

白竜は少年を睨みつけた。

その時──

……鳴き声が…国中に響きわたる…龍の鳴き声が…白竜の耳に響き渡った。

その壮絶な…人間で言う絶叫に等しいその『声』が…。

「ほら。よかったね。この国の歴史が終わるよ。」

白竜は飛那と飛竜の入っていった扉を見つめている。その目に…浮かぶ大粒の…涙。

「新しい時代が始まるね。飛那の時代が。」

少年扉に笑いかけた。

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