第三十九話:龍王国(1)
龍騎は軽いため息をついた。そして、何の感情も読めない表情になった。
「そう…それは残念だ。」
言うや否や龍騎はなんとやっとの事で立ち上がった、ろくには動けない飛那めがけて手のひらぐらいの大きさの石屑を投げつけたのだ。
ディアスは素早く反応し剣でそれを防いだがそれと同時に飛那の声が飛んだ。
「前!!!」
飛那の言葉に反応し振り向いた。しかし、そこに龍騎はいなかった。
「!上よ!」ディアスは上を向いた。鋭い爪を構えた龍騎が目の前に迫っていた。普通なら避けきれる距離ではない。
「──っ…」
ディアスはギリギリというところで上手く剣で龍騎の爪の軌道をずらし、すかさず蹴りを龍騎のわき腹に当てた。だが、龍騎の防御の方が速く、飛ばすことはできたが龍騎にダメージは与えられなかった。
龍騎は床に着地すると同時にディアスに組かかった。
ディアスは剣でもって、龍騎の攻撃を避けつつ、自分も攻撃した。
二人の動きのなんと速い。目ではとても追いつけるものではなかった。
だが飛那はかろうじて目で二人の動きを追うことができていた。飛那の表情は驚きを露わに、二人の戦いに釘付けになっていた。
──なんて…こと…龍騎と対等に…戦える人間が…いるなんて……。
ディアスが隙をついて龍騎の頭から剣を振り下ろした。が龍騎はそれを避けると、こめかみを狙った蹴りを放った。ディアスはそれを同じ蹴りで相殺させたが二人とも衝撃によってバランスを崩した。
──本当に…何者なの…?
ディアスは戦いながら龍騎の弱点を探っていた。ふと、気がついたことがあった。龍騎が持つ首を手放さないことだ。
ディアスは龍騎が持つ首が要王の首で、龍騎の主であることは知らない。だが、龍騎にとってそれが大切だと言うことは手放そうとしないとこを見ると、明らかだ。
勝負を決めるとしたら、これしかないと思った。
龍騎は自分と対等に戦うことのできる、突如として飛那と自分の争いに割って入ってきた目の前の男と釈然としない気分で戦っていた。
何故自分はこの男と戦っているのか。
クリスタルを壊しこの国を壊さなければならないのに、何故こんなに手間取っているのか。
こんなことをしている場合ではない。さっさと目の前の男を殺して、腕を奪い、クリスタルを破壊し、飛那の絶望に浮かぶ顔を見たい。主に見せてさしあげたい。
龍騎は勝負に出た。
群衆が必要最低限の荷物を持ち波のように列を作っている。
「焦るな!まだ時間はある!けが人が出ないように歩いて移動するように!」
「建物には入るな!崩れる可能性がある!皆、近くの広場へ急げ!」
慌ただしく白と黒の一族が民衆を誘導している。その中に白卦と黒磨の姿もあった。
「白卦!まだ避難しきれていないのはどの位いますか?」
白卦は龍王国の地図の画かれた紙をめくった。
「まだ、半分ほどしか避難しきれてません!!人が足りなすぎます!」
黒磨は苦い顔になった。そこへ、黒の一族に抱えられながら白竜が現れた。
「様子は?」
白卦は急いで言った。
「まだ、森林部近くにいる民の所の避難が済んでいません!」
白竜はあたりを見渡した。
「……皆避難場所が分かっているからここはもういい。最低限の人数残して森林部へ馬を走らせなさい。時間がありません。」
白竜は持っていた玉に指示を伝えた。
「白竜様、私も言って参りま───」
白卦の目に白竜の無くなった腕がとまった。
「──白…竜様?腕が…」
白竜は黒の一族に行くように言うと、白卦の方を向いた。
「言ったでしょう?もう時間がない。龍騎が輪廻の間の深部へ向かわれた。ここが落ちるのも時間の問題…。」
白卦は白竜の無い腕を見つめていた。
「ひ…飛那様は……」
その時、龍王国全体が揺れた。
残酷なほど分かりやすい、龍王国の民の絶滅の予兆とも言える揺れだった。
「……始まってしまった…」
白卦は絶望的な目で白竜をみた。
白竜は腕の付け根を血が滲むほど握り締めた。
白卦と白竜の周りでは絶叫に近い悲鳴が鳴り響いていた。