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龍王の加護  作者: 仙幽
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第三十六話:危機(2)

そこは王宮内でも特に厳重に警備され、上方や王ですら簡単には入れないようになっていた。扉の前には必ず2人以上の白の一族が警備しているし扉には特別な札が貼られ、簡単には開かれないようになっていた。だが、今はその扉は無惨に壊されただの石屑と化し、現れた階段の周りには、侵入者を止めようとした者達の無惨な成れの果てが転がっている。

生暖かい風の吹く薄暗い階段の下では、この国の姫である飛那と、この国の王の騎である龍騎が対峙していた。

「龍騎……」

飛那はもはや言葉すら出てこなくなっていた。

最下層に着いた飛那の目に入った光景は凄惨なものだった。地下とは思えないほど整地されたそこには、上方達が頭や腹、そして足りない体のパーツから大量の血液を流し、床や壁を赤で染め、白竜は白い服を上方達の血で朱に染め、なすすべなく、ただ立っている。よく見ると、左腕が無く、そこから大量の血が流れ出ていた。表情はもはや無かった。

そして、白竜の目線の先に、大事に要王の首を抱いた、薄い布一枚を羽織った龍騎の姿。上方達の返り血を浴び元が何色か分からなくなるくらい浅黒く染まった布を羽織った龍騎は銀髪の死に神のようだった。だがその姿すら美しい───そう……何よりも美しかった。

飛那は思わずその場に凍り付いてしまった。走り寄って、龍騎を止めなければならないのに、白竜の手当をしなければならないのに、上方達の生死を確かめたいのに……体が言うことを聞かなかった。

龍騎は静かな動作で片手に持った白い腕を壁に当てた。すると、その壁が、人一人通れる分だけみるみるうちに消えていったのだ。龍騎はそれを確認すると、飛那の方を振り向き、微笑すると、腕──おそらくは白竜の腕を持ったまま、奥へと姿を消した。


「は…く…」


飛那は上手く動かない足を叱咤しながら白竜へ近づいた。白竜はその場にガクンと、へたり込んだ。

「は…く…白竜!!…いったい…何が…」

白竜の目には何も映ってはいなかった。虚空を見たまま、白竜は独り言のように言った。


「ま…るで…ゴミの…ように……あんな…ちゅうちょ無く……」


「…白竜…」


飛那は白竜の腕に破いた布を結びつけ、止血をした。止血をしている最中に、飛那が降りてきた階段から大勢の足音がした。黒の一族がここに来たのだ。

「飛那様──うわっ!!!こ……これは……むごい!!!」

「うっ……血の…臭い…」

「飛那様これは…龍騎が…?」

黒の一族達はあまりの光景に、皆目を反らした。飛那は白竜の止血を終えると、意を決したように言った。

「この先に龍騎が行ったわ。この先へは私が行く。あなた達は上方や白竜を安全な場所へ避難させて…亡骸は…丁重に埋葬してあげて。」

黒の一族の1人が異論を唱えた。

「お一人で行かれるおつもりですか。それはあまりにも無謀にすぎましょう。これは龍王国の民全ての命がかかっているのですよ?失礼ながら、飛那様お一人で龍騎を止められるとは思えません。龍騎は龍の最高位の騎なのですよ?」

飛那は静かに頷いた。


「承知の上よ……でもね…龍騎には数がいれば勝てるというわけでもないわ。これを見れば分かるでしょう。皆今は上方として、政治に力を入れている者達だけれど、元は優秀な術者達だった。それが…こうなるのよ。」

飛那は上方達に目を向けた。

黒の一族達は皆押し黙った。


「……ですが…お一人では…」

「この中で私に勝てる自信のある者は?」

返答はない。

「私より弱い者が行ったところで足手まといになるだけよ。厳しい事を言うようだけれどこれが現実なのよ。」

黒の一族達は皆飛那を見ている。飛那の実力は皆イヤという程良く知っているのだ。龍王国一の武道の達人と称された黒竜をあっさりと倒したことは、そう遠い昔の話ではない。

「…飛那様…しかし…我々はあなたに死んで欲しくはありません…。」

飛那は笑顔で答えた。

「でも、私にしかできないわ。だからいざという時のために、民の避難を手伝ってあげて。白竜も1人では歩けないわ。」

黒の一族は飛那の笑顔を見て、高ぶった気持ちを押さえたようだった。

「お願いできるわね?」

飛那の問いに、皆力強く頷いた。飛那はそれを確認するとそのまま、龍騎の消えた先へと向かっていった。

黒の一族達は皆その方向に礼をとった。

必ず、生きて帰ってきますようにと、祈りを込めて───



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