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龍王の加護  作者: 仙幽
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第三十五話:危機(1)

その人は果てのない命の眩しすぎる笑顔で、俺に言った。

美しい薄い青い髪が水面に映り、水面の空の色と混じって、まるで、空と一体化したような──泣きたくなるような、華やかな笑顔だった。

俺は…この記憶のまま、その人に会うことはもう無いけど…あの笑顔だけは、絶対忘れることはない──






「…ディアスという名は…誰がつけたのですか?お母様?それともお父様?」

飛那はぐったりとディアスの背におぶられながら聞いた。

ディアスは飛那と飛竜を背負っていたが確かな足取りで着実に森を抜けようとしていた。

「いや、シアがつけてくれたんだ。俺、自分の名前すら覚えてなかったから。」

「記憶を無くされたの?」

「んー……そうみてぇなんだよなぁ。てか、敬語なんて使わないでくれよ。なんか、くすぐってぇからさ。」

ディアスは飛那を軽く笑うように見た。

「そう…?なら、遠慮なく。この剣は………誰からもらったの?」


ディアスは覚えていないと、首を振った。

「そう……」

飛那は剣を軽くなぞるようにした。人の手のひらの二倍くらいの幅のある、正に大剣だった。こんな巨大な大剣をこんな細身の男がまともに扱えるとは、飛那には思えなかった。

雑談をしている間に森の出口が見えてきた。ディアスは飛那を軽く見た。

「出口みたいだな〜飛那さん。どこに行けば──」

「飛那さまぁぁ!!!!!龍騎が!!!!!はやく…はやく来てください!!」

白卦が真っ赤な顔をして叫んでいた。飛那はディアスから降り、飛竜を抱いたまま急いで白卦のいる出口へ向かった。ディアスは飛那が走っているのに、軽く驚きながらも飛那の後へ続いた。

「何事?龍騎が?」

飛那も白卦も早足で王宮へ向かいながら話している。白卦は飛那と共に森から出てきた男を気にしながらも、飛那に事の次第を伝えようとした。

「それが……龍騎が輪廻の間に向かい……この国を……龍王国を地に落とすつもりらしいのです!!」

飛那は険しい表情で目の前に迫った王宮を睨んだ。

「今は白竜様と上方が龍騎の元へ向かってます。いったい…どうすれば…私は愚かな人間の世界などに落ちたくはありません…飛那様我々は…どうすれば」

飛那は素早かった。一寸の迷い無く指示を出した。

白の一族は民に注意を呼びかけ、ある程度安全な場所に避難させる。

赤の一族を、けが人が出たときのために各地に散らばらせ、黒の一族の中でも実力のある者を選りすぐり、龍騎の元へ向かわる。残りと青と緑の生き残りは白の一族を手伝わせるよう白卦に言った。白卦は指示内容を反復した後、去り際に飛那をふと見た。

「…飛那様は…どうするおつもりで──」

飛那は何も言わずに飛竜を白卦に預けた。白卦は血塗れの飛竜に驚いたようだった。

「私は龍騎の元へ行く。あなた達はとにかく、民を守って。」

白卦の止める間もなく飛那は輪廻の間へ走り去ってしまった。ディアスがその後を追った。白卦はその光景に違和感を感じながらも、飛那の指示を伝えるため、飛竜を赤の一族に渡すため、王宮へ走った。


「飛那さん。何がどうしたってんだ?この建物燃えてるし。火事かなんか?」


王宮に着くと、王宮は軽く燃えていて、従者達が慌てて火を消そうと頑張っていた。飛那は何か一人でブツブツ呟いたかと思うと、王宮上空に札を投げた。札は紙とは思えないほど空高く一直線に舞い上がり、一瞬光とバケツから水をこぼしたような雨を降らせた。一気に炎の力が弱まると、従者達から歓声が上がった。

「あなた達も早く逃げて!!けが人に手を貸すのよ。」

飛那は王宮の深部へ走りながらもそう叫び、避難を促した。

「飛那様!!!龍騎が……輪廻の間に!!白竜様も…上方もみな…戻ってらっしゃらないです…飛那様……」

飛那は白竜の側近らしい従者の示した地下へと続く岩でできた階段へ向かった。ディアスも、その蝋燭の明かりだけの薄暗い階段を降りた。

「おい!!飛那さん!!何がどうなってるんだよ!!」

飛那は驚いたように後ろを振り返った。ディアスがここまで追ってくるとは思わなかったのだ。

「何故ここまで来たの!!?見て分かるでしょう?ここは危険よ!すぐに避難して!!」

「俺はシアから飛那さんを頼まれてる。加護を見つけるまで、飛那さんから離れるわけにはいかねぇんだよ。それにあんた…大怪我してたじゃねぇか。」

飛那は目を丸くしたが、すぐにまた避難するよう言った。

「ここには自制を狂わせた龍がいるの。とても危ないわ。私の体は今は、怪我をしてもしばらくすれば治るようにできてるの。だから大丈夫よ。でも私はあなたを守る自身がないわ。さっき森で助けもらったのに申し訳ないけれど。今は本当に危ないの。お願いだから外に避難していて。シアのお友達ならなおさら死なすわけにはいかないのよ。」

飛那の必死の説得にもディアスは明るく答えた。

「大丈夫だよ。俺は飛那さんの足手まといにはならないと思うから。飛那さんは俺のことなんて心配しないで、やりたいことをやればいいんだ。俺も、しなければならないことをするからさ。」

飛那は困ったように、ディアスを見た。どう言えば、この陽気な男を説得できるか考えていると、階段のずっと下から悲鳴が上がった。断末魔に似た悲鳴が。

「──っ…とにかく、あなたは上へ戻るのよ!」

飛那はそのまま凄まじい早さで階段を降りていった。ディアスは飛那の迫力にたじろいだが、気を引き締め剣の柄を握ると、そのまま階段を降りた。


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