第二十四話:キリト
様々な玉や珠、彫刻や絵画で素晴らしく飾られた、人なら10人なら軽く横に並んで歩けるほどに広く長い廊下を、キリトと眼鏡をかけたサウエル王の側近と思われる男が距離をとった状態で歩いている。
「王の言ったこと理解したな?期限は決めないと王は言っていたが、出来るだけ急げ。二年も三年も王は待てないからな。」
キリトの表情はどこか浮かない。
「やり方はすべて任せるさ。金や人が足りないなら言え。仲間を貸すし、金なら王が出してくれる。あと、移動には飛鳥を使え。1日か2日あれば龍王国まで運んでくれる。」
「……分かった。……あんたに一つ頼みが─。」
「ルシアだ。」
眼鏡の男は後ろを向きキリトを見た。
「…ルシアに頼みがある。」
ルシアはニコリと笑んだ。
イシズは聖水に囲まれた牢屋の中で、壁に背と頭をつけ、目を閉じ、疲れたように座り込んでいた。すると、聞き覚えのある足音が聞こえてきた。
自分をハメた男の足音。どうやら一人のようだった。
足音はイシズの牢の前で止まった。イシズはゆっくり目を開け、牢の前にいる男を見た。
「…あ…やっぱりキリトだ。」
キリトは魔力を吸われすっかり弱っているイシズを痛々しげに見た。
「…」
「ねぇ…マナミ人質にとられちゃったんだってね……マナミは大丈夫?」
キリトは一歩前に出ると、牢の入り口の鉄の棒に触ろうとした。だが、キリトが触る前にイシズの声が飛んだ。
「駄目だよ。こうなるから…」
イシズは自分の手のひらをキリトに見せた。赤くただれ、血が出ないほど焼かれた手のひらを。
「……すまない…」
イシズは弱った笑みを見せた。
「私はいいけど……──ねぇ?これから何をしに行くの?」
キリトはイシズの目を恐ろしいほどの視線で鋭く射ぬいた。
「アレクトリアの王様に何を言われたの?」
キリトはしばらく黙っていたが、重い口をゆっくりと開いた。
「……お前は…何を言われた?」
「私?何も。言いなりにはならないよって言ったら、ここに入れられた。」
笑顔でケロッと答えるイシズにキリトは軽いため息をついた。
「そうか……。…俺はこれから龍王国へ行く。」
キリトを見るイシズの目に危険な光がさした。
「…ふぅん…。キリト…本気?飛那を連れてきたところで、マナミが無事に返ってくる保証はどこにもないんだよ?」
キリトは吐き捨てるように言った。
「他に…方法が無い…!!」
イシズは無言でキリトを見た。かける言葉が見つからなかった。
しばらくの沈黙の後キリトはイシズに軽く頭を下げ、そして牢の前から去ろうとしたとき、イシズがふと声をかけた。
「キリト?」
キリトはイシズの方を向いた。
「怪我大丈夫?包帯取れるほど回復してるようには見えないけど?」
キリトは視線をイシズから外し、歩きながら独り言のように言った。
「………もう、治った。」
キリトはそのまま牢を後にした。
イシズはキリトが去った後、また目を閉じた。しばらくたった後、イシズの耳にはどこかで鳥の羽ばたく音が聞こえてきた。