第十八話:魔力
飛那は何か強い衝撃を感じて、夜中に目を覚ました。その衝撃には嫌と言うほど身に覚えがあった。それは何者かが強大な魔力を使った時に感じるものに酷似していた。
──シア…?
飛那は直感的にシアを思い浮かべた。非常に嫌な予感がした。感じた方角から、おそらくラグンであると思われた。
あれだけの魔力を使ったのなら勝負は見えている。だが…この嫌な胸騒ぎは何か。
──行くべきか…行かぬべきか…
今は国にとっても飛那にとっても非常に大切な時期だ。怪我も完全に治ったわけでは無い。1日でも早く加護を取りに行かなければならない今、魔力の衝撃を感じた方に行くのは賢い選択ではない。
「駄目だよ?飛那。」
飛那は声の方を冷静なまなざしで見た。
「…相変わらず…神出鬼没ね。リジン。今日は何の用?」
リジンは暗闇の中、飛那から少し離れた場所に立っていた。
「あなたにまた、夢を見ていただこうと思ったんだけどね。傷だらけの姫の無謀な外出を止める羽目になるとは思わなかった。」
声は笑いを含んだものだったが、リジンを覆うオーラには強い気を発していた。
飛那を外に出す気はさらさらないようだった。
「なぜ止めるの?仲間が危険にさらされているかもしれないのに。」
そう言いながら、飛那はゆっくりと体を起こし始めた。
「!うっ──……っ…」
体を起こしただけで、全身に激痛が走った。思わず胸の辺りを掴み、うずくまった。
「ね?無謀ね?あの魔力を感じたんだよね。だったらシアが生きてることぐらいあなたには分かるはずだ。」
飛那は苦しそうに息をしている。こんな状態で、ラグンへ行ったとしても、役には立てなだろう。
「それでも…この目で確かめないと…」
「気が済まない?」
飛那は黙ってうなずいた。シアのあの魔力に勝てるものなどそうはいない。だが…重傷を負わせたり呪いをかけることはできる。今ほっておいたら、手遅れになるかもしれない。助けることができるなら助けたかった。
「でも、飛那がラグンに行って、巻き込まれて死ぬようなことになったら?この国はどうなる?加護の無くなった龍王国は地上への落下は避けられないよね。いいの?それで。」
飛那は苦しげにに目をつむった。
「でも…仲間が…」
「いいの?三千万の民より、一人の仲間を選んで。」
飛那は瞑想するかのように目をつむった。
「…リジン…シアの様子を…見てきてはくれない…?」
リジンは不思議そうに飛那を見た。
「それはー…命令?」
飛那は目を開け首を横に振った。
「…頼んでいるのよ…」
リジンはゆっくりと、微笑んだ。
「あなたがここの王になると誓うなら、行ってあげるよ?」
リジンの顔をゆっくりと見た。
「取引?」
「まぁ、そんなとこ。僕はどうしてもあなたに王になってほしいの。どうする?飛那」
飛那はリジンの目を直視したまま動かなかったが、ふと目を閉じた。
「…分かったわ…王を継ぐわ。だから…シアをお願い…」
リジンは満面の笑みを作ると、軽やかに宙を舞った。
「約束だよ?」
そう言うなり、リジンは姿を消した。
飛那はそのまま、布団に倒れ込んだ。額には汗がにじみ、息が荒れている。傷口を押さえながら非常に苦しくしている。
「すぐにでも…加護を手に入れなくては…」
加護を手に入れるには怪我を1日でも早く治す必要があった。
──全ては加護次第…。
飛那はそのまま眠りについた。