第十二話:懺悔
白璃は赤爛を呼びに走り、白卦は飛那を寝室に運んだ。
飛那はそのまま、2日間寝込んだ。
目覚めたとき、飛那の側には白竜がいた。白竜は少し、やつれているようだった。
白竜は飛那が自分を見ていることに気づいた。
「……はく……」
飛那はその後に言葉を続けることができなかった。白竜が突然泣き出したのだ。
飛那は何も言うことができず、ただ戸惑いながら白竜を見ていた。
「…申し訳……ございません……。私は……飛那様に……どいしても…謝らないと…………」
白竜は苦しそうに嗚咽を漏らしながら、飛那に話し始めた。
「私は…最低な五竜なんです!!!!」
この龍王国では、赤、青、緑、白、黒の一族がいて、その長である赤竜、青竜、緑竜、白竜、黒竜を『五竜』と呼ぶ。王の側近であり、王のサポートをする。
「私は……この国が…要主が…もう壊れ始めていることを分かって…いながら…何をするのが民のためか…何が一番、国の為に良いか…分かっていながら…呪いが怖くて…我が身可愛さ故に…民に無用な苦しみを強いてしまいました…。」
飛那は白竜の言葉に静かに耳を傾けている。
「黒竜に…王殺しは死ぬだけではすまない…王の一族以外が王に手をかけると、死以上の呪いをかけられると……言われ……こ…怖くなって…………」
「……白竜?」
「でも……そんな事…理由になりません…!!私が…私がすべきことでしたのに……また…飛那様に頼ってしまって…こんなに……傷つけて…。申し訳…ございませんでした。」
白竜は畳に額をつけ飛那に向かって土下座をしている。
「…なぜ…謝る…?白竜が謝る事なんて、何一つないわ。これは、娘である私の義務だった。民すべてに謝らなくてはならないのは、むしろ私の方だわ。私が…もっと早く…決断していれば…ニ千万の民が死ぬことはなかった…。天空の桃源郷とまで言われたこの緑を失うこともなかった…。」
飛那は自分の手を見た。
包帯は巻かれていなかったが、両手にはっきりと爪痕が残っていた。
飛那はその手を握った。
「飛那様…私は…黒竜が飛那様をお連れできなかったと知ったとき…正直…がっかりいたしました。勝手だとは百も承知…飛那様がいればきっと要主を何とかしてくれる…と…期待していたのを裏切られた気がしまして…。」
「…」
「飛那様に怪我を負わせたのは私の責任でもあります。どうか…罰をお与えください…私は…臆病でした。」
飛那は少し困ったような顔をした。
「あなたに罰を与えなければならないなら、今いるすべての民にも同じ罰を与えないとなりませんね。」
白竜は驚いたように顔を上げた。
「なぜ……」
「みんな…分かっていたはずよ…。父上が乱心した事ぐらい…なんて言ったって…」
飛那は自嘲気味た笑いを漏らした。
「二千万も…殺したんだもの…それでも…誰も…父上に手をかけるものは現れなかった。本来なら…みんなできたこと。皆、龍騎の呪いを恐れて…。でもきっと…それ以上に…父上を亡くしたくはなかったのだと…私は思うわ。父上は……とても民に…慕われていたから。白竜も…たいそう…父上に可愛がられていたものね…」
白竜はすでに泣きそうな顔をして、飛那を見つめている。
「はい…。要主は……民すべてに…慕われておいででした…もちろん…私を含め側近にも…」
飛竜は柔らかく、白竜に笑いかけた。
「白竜?」
「はいっ…」
「助けてくれてありがとう。私も…飛竜も。」
「…はい…」
白竜は下を向いたまま泣き出してしまった。
飛那は白竜から視線をずらし、窓を見ながら独り言のようにつぶやいた。
「…でも…なぜ私は生きているの…王に直接手を下したのは私なのに…。」
窓の外では王の死を悲しむかのような雨が激しく降り続いていた。