第十一話:飛竜(ひりゅう)
飛那はしばらくの間、布団の中で何も考えず、ただ額に手を当て、ぼーっとしていた。
ふと、窓を見ると、日が沈むところだった。
飛那はおもむろに立ち上がると、部屋を出た。
部屋で見張りをしていた、白卦と白璃が慌てて止めに入った。
「飛那様!?まだ寝ていてくださらないといけませぬよ?」
「傷がまだふさがっていないと、赤爛が申しておりました。なにとぞ、部屋にお戻りを。」
飛那は正面の沈みかけている夕日を見、二人に目もやらず、白卦にはまるで魂が抜けたように見えた。
「そんなに心配しなくていいわ。飛竜の所へ行くだけだから。ついてきたいのなら、勝手にして。白竜に私を見守るようにと言いつかっているのだろうから。」
白卦も白璃も一人でどんどん進んでしまう飛那について、飛竜の寝ている部屋へ向かった。
部屋は飛那の寝室の中庭を挟んで隣にあったので、すぐについた。
二人は飛竜の寝ている部屋の前で立ち止まり、部屋には入らなかった。
飛那は庭に面している、障子を締め、飛竜の寝ている部屋のふすまを開けた。
「……確かに…寝ているわね…」
飛竜の隣に座り、飛竜の顔を飛那はじっと見つめ、その柔らかそうな、今は白く血の気が感じられない頬に触った。
「飛竜……ごめんなさい…巻き込んで………」
飛那は懐から紙を取り出した。
そして飛竜の手を取りだし、その人差し指に針を刺した。
指からは血がにじみ出てきた。
飛那はその血で紙に魔法陣のようなものを書き、その中心に自分の傷口から出ている血を垂らした。
飛那はその紙を、大事そうに自分の心臓の辺りに押しつけた。
すると、その紙は飛那の体にとけ込み、その模様もすぐに消えた。
飛那は模様が消えたことを鏡で確認した後、また飛竜の頬を愛おしそうに触った。
「待ってて飛竜……きっと…すぐだから…」
「……姉…上……」
飛那は目覚めた飛竜に優しく笑んだ。
「…おはよう飛竜。とはいってももう、夜だけど。気分はどう?」
飛竜は起きあがることなく首を振った。
「…でも…姉上が生きていてくれて…良かったです」
飛竜はかすかに笑った。
「飛竜。私はここにいるから、もう少し寝なさい。」
頷くと、飛竜はゆっくり瞳を閉じた。
「今は眠りなさい…あなたに夜は似合わないから。」
飛竜はすぐに眠りに落ちた。
「次起きたら…だるさも無くなっているわ……だから…」
飛那は部屋にあった筆を持ったまま硯の上にあげた。
筆から自然と黒い墨が流れ出た。その墨を使い、紙に向かった。
「今は、ゆっくり休みなさい。」
飛那は紙に文字を書き始めた。
漢字とも絵ともわからない、おそらくは文字を。
ゆっくり、丁寧に書いた。
その紙を飛竜の髪に巻き付けた。
紙は髪にぴったりとくっついた。飛那はそれを見ると、部屋を出た。飛那の寝間着には血がにじんでいた。




