第十話:悪夢
──お止めください!要主!!その様に加護をお使いになられては、きっと龍王からおしかりを受けます!!!!
飛那には、黒竜が呼びに来た時から、見続ける夢があった。
──要主…青と緑を争わせるような…その様な情報操作をなされたのは…要主でございますか…? ……なんたるむごいことを…。
飛那は、また夢を見ているのだと、そう思った。
──今すぐお取り消し願います。
我が青の一族はもはや、半分も残ってはおりませぬ。どうか、この争いを止めてくだされ!!
──緑の一族からもお頼み申し上げ奉りたく存じます。
我が一族をこれ以上、減らすようなことをなされぬよう、平に願い奉ります。
あぁ……これも夢……きっと…夢だわ…父上が…こんな……非道なこと…なさるはずがない…とても…お優しかったもの…
──要主…何を…なさるおつもりで……
だから……
──要主!!!何を!!
全部……
──ぎゃぁぁぁぁ!!!!!!!………
全部夢………
── 要主!!なんたることを……よ…要主?…おやめくださ…龍騎を…止めてくださ…………
現実でも何でもない…ただの夢…夢よ…
──予は、もう主ではない。逆らうもの全て殺す。良いな?龍騎?
………やめて………
──主…
──お前までそのような目で予を見るのか?
──主…?
──おのれ!!!どいつも!!こいつも!
──おやめください!!!主!!!
やめて!!!見たくない!!!!もう止めて!!!!夢なら覚めて!!!
──何が龍王の息子だ!!!何が何でもするだ!!!愛しい人を救うこともできなかったのに……なにが…何があるじだ…何が賢王だ……どこが賢い?愛しい人1人救えなかった予のどこが?
……いや…聞きたくない!!!
──っ…主…ど…うかっ……
──あるじと呼ぶな!!!!予はもう加護などいらぬ!!加護なんぞ…ない方が………。そおか…加護なんぞあるから…
──主…?
──ふふ……はははは…はははは!!!!!!
──主…
──分かったぞ龍騎!!!お前の父をあぶり出してくれる!!!!山を切り崩し、森を焼き、民を苦しませ、この国を滅ぼしてくれる!!!
──主…いったい…何を!!
──お前は予のものだ。ならば予に逆らったりはしないな?
──………もちろんで…ございます。
──ならば、今から、青の一族を滅ぼして参れ!!
──主!!?
──この国が大切で、王に加護を与えてくれるような龍王なら、この国の荒れるを望まれないはず。
いつか必ず龍王は現れる。その時が最後。
──あ……主…
──妻を殺したもの全て許さぬ。
この国も民も龍王も…予自信も。
全てを壊して予も死ぬ。加護は予の代で終わりにしてくれよう!!!!
…ち…父上………
飛那は泣いた。
自分の無力さを呪って泣いた。
自分が近くにいれば、父親をこんなに追いつめたりはさせなかったと、自分可愛さに、命を狙われたからと言って国を…父親から離れたことを後悔した。
飛那が要王の夢を見ているとき、飛那の寝室をたまたま通った白竜は、飛那の寝室に人の気配がするのを感じた。
「…?だれか居るのですか?」
部屋からは返事が返ってこない。
もしや飛那が起きたのかと、白竜は部屋に入ることにした。
「…飛那様失礼いたします。白竜です。入ります。」
白竜は恭しくふすまを開けた。
飛那はまだ寝ていたが、飛那の隣に正座をし、右手を飛那の額に当て目をつむっている女性がいた。
白竜はその人物と面識があったので大して驚きはしなかったが、時期が時期だけに、流石に不審に思った。
「…リジン。何をしているの。」
リジンは呼びかけられてから、しばらくして目を開けた。
一つため息をつくと、いつの間にか、自分の隣でナイフを首に当てて鋭く睨んでいる白竜に目をやった。
「何をしていたの。」
「白竜。そんなに睨まないでよ。僕が飛那を殺すような事すると思う?」
「分かってるでしょう。今は世界が飛那様を狙っている」
「僕は、飛那に要王のような後悔をさせたくなかったのよ」
「どういう…」
「飛那に直接聞いてよ。その内起きるからさ。じゃ、僕これから行かなきゃなんない所あるから。」
そういうなり、リジンは姿を消した。
白竜は飛那に目をやった。
飛那はかなりうなされていて、汗がにじみ、涙を流していた。苦しそうに寝言を言っている。
「いや………き…たくない…やめ……ちちうえ…」
その様子が余りに苦しそうだったので白竜は飛那をゆすり起こした。
「飛那様!!?飛那様!!!大丈夫でございますか!飛那様!!」
飛那は起きる様子がない。
「赤爛を呼んだ方がいいかしら…」
白竜が目を離したとき、飛那が目を覚ました。
「うっ……いや!!!あっ…………」
「飛那様!?起きられましたか!?」
「いや……!!!止め…父上!!!!龍騎!!!」
白竜は飛那を抱きしめた。
飛那は白竜の腕の中で、暴れていたが、しばらくして大人しくなった。
「…飛那様…ここには要主も龍騎もおられません。落ち着いてください。」
「ハァハァ……ハァ…っ…はぁ…はぁ…」
飛那はゆっくり顔を上げた。
「…は…白…竜…」
飛那は驚いたように白竜を見た。
「……あ…そ…うか…夢ね。そう…よね…夢よ。」
飛那は自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
「ごめんなさい…一人にして。今は…まだ…。」
「…はい……。」
白竜は寝室から出ると静かに呼んだ。
「白卦、白璃。誰も入れぬよう、見張っていて。」
「御意」
「飛那様を…無くすことはできない。…もう…飛那様しかいいないのよ…。」
白竜は龍騎が去っていった方向に目を向けた。
「証が…なくても…飛那様は飛那様でございますよね…龍王…」
白竜は誰にともなくつぶやいた。




