ドラゴンメイデン #4~ある男の夢?~:大魔女の最弱夫外伝
僕は——、物心ついたときには親が居なかった。
いや、親として育ててくれた女性は居たが——、
——彼女は僕を憎んでいた。
「……早く仕事に向かいなさい……。今度粗相をしたら……、焼くだけでは済まないわよ?」
「……はい……リアンさん……」
「……」
その女性は——その日も僕を見下ろしながら冷酷に言い放つ。
——汚れた血……、
——友人の娘を死なせた子ども……、
……その友人の娘こそ僕の母なのだが……、
僕は物心つく頃には——、
【……お前の母親を死なせた原因はお前自身だ……】
【……お前は呪われた子どもだ……】
——そうその女性に言われ続けていた。
でも……、初めこそそれを信じて苦しんでいた僕だけど——、
——今の僕にはそれが間違いだと理解できる……。
なぜなら——僕の名前は——■■……、
それは……僕の母が僕につけてくれた名前なのだ。
——その女性は一度も僕のことをそう呼ばないが……、ある日見つけた母の日記に書かれていた内容だった。
……まあ、それが読めるようになったのは……、お客様を楽しませる事ができるように……と、文字を読めるように勉強させられてからだけど……。
——その女性は……、多分……、悲しかったのだと思う。
後に全ての真実を知った時——、僕はそう考えた。
——たしかに僕は……汚れた血を持った……存在だった。
その時の僕は——果てのない闇の中をただ歩き続けていた。
僕を悲しくも憎み続けるその女性に言われるままに——、身を売る毎日……。
お前は汚れているからこそ……、汚れた世界こそ相応しいのだ……と言うように。
——でも、唐突にその日常は終わりを告げる。
ある日——、秘密の仕事が見つかって、そして——、僕はそのお客様の夫に私兵を差し向けられたのだ。
僕はそうして追われて……、路地裏で血にまみれた。
(……そうか……、僕はこれで終わるのか……)
ただその時の僕は——やっと苦しみから逃れられると喜んでいた。
苦しみしかないその生を終える時が来たのだ——。
——しかし、せっかく僕は母に■■なんて名前をもらったのに……、結局僕は……。
——苦しみから解放される安堵と、言いようのない悲しみが、僕の血とともに流れ続ける。
そんな僕にとどめを刺すべく——、その私兵は剣を構えた。
——が……、
「ひいいいいい!!」
気がつくと……、恐怖に駆られた私兵達が慌てて逃げ去ってゆく姿が見えた。
そして——、僕は——、
——生まれて初めての……、恋をした。
「……まさか……、あの子の望んだ非干渉が、こんな事になるなんてね……」
「姉さま……、あの時無理にでも二人を……」
「……エストレーラ……。それよりもその子の手当を……」
そこに居たのはあまりに美しい【魔種】の令嬢。
漆黒のドレス——、銀髪に赤い瞳——、竜角に竜尾——、そして漆黒の皮膜翼——。
——その容貌がそっくりな、双児の【玄鱗龍姫】。
(……これって……、もしかして死後の世界? こんなきれいな女神様がいるのか? すごい……)
上手く回らぬ頭で勝手な解釈を思考する僕だが……、直ぐに僕が死んでいないことに気がつく。
そして——、
「……え?」
僕はその双児の【玄鱗龍姫】に支えられて空へと舞い上がった。
直ぐに街明かりは遠くなり——、
僕はそうして空の彼方へと飛んでいったのである。
◆◇◆
それから数ヶ月後——、
「紅茶が入りました……ルア様……」
「うん……ありがと■■……」
僕は双児女神——、ルア・ベレーザ様とエストレーラ・ベレーザ様が住まう霊峰の宮にて使用人として働いていた。
別に彼女らに命令されてそんな事をしているのではない。自分から望んで働いているのだ。
「ふんふふん~~」
僕は今日も楽しげに仕事をこなしてゆく。
そんな僕に少し笑いながらエストレーラ様が話しかけてきた。
「下僕……仕事に慣れてきたみたいね?」
「あ! エストレーラ様!! はい!」
嬉しそうに返事をする僕に、小さくため息を付いてエストレーラ様は言った。
「……別に、そんな事しなくてもいいって言ってるのに……、ホント困った下僕ね……」
「それは……、助けて頂いたお礼ですし……」
「でも……貴方のあの境遇を……結果的にとはいえ放置してたのは私たちよ?」
その少し悲しそうな目に僕は笑顔で答える。
「……いいえ……、誰のせいでもありません! そして僕はこうして楽しく元気に過ごしている!! ならばもういいのです!!」
「……」
その僕の言葉に一瞬驚いてから……、小さくエストレーラ様は笑った。
「……本当に……貴方は……、あの二人の孫なのね……」
「それって……」
少し驚きの目を向ける僕に、エストレーラ様は頷きながら言った。
「……人々の悲しみを止めるべく、大いなる敵に立ち向かった二人……」
——あの勇者と聖女……。
その時、僕は——、僕の母の両親の事を知った。
◆◇◆
——それは夢……、
——そうであってほしかった夢……。
——その通り……、僕にそんな救いなどない。
——僕の名前は何だったっけ?
——僕は母に憎まれていた……、日記にはそう書いてあった。
——だからこそ母はその女性に僕を育てさせた……。
——その通り……、僕は汚れた上に望まれなかった子ども。
——僕の名前は何だったっけ?
——世界は苦しみしかなく……、
——そんな苦しみからの解放は……【焦魔帝グラムザグ】様の糧にする事は正しい行為だ……。
——その通り……、僕は双児女神などとは出会わなかった。
——僕の名前は何だったっけ?
——そうだよ……、■■……、お前は母親に憎まれて、そして子どもを虐待するカス女に育てられて……、この世界の真理を悟ったんだ!
——だから行こう! この私……、君の父親である——、
——■■■■■・■■■■■■とともに……。
僕は夢を見ながら——、
遥か時の果てに消えた……、
……だれなのか……、もはや思い出せない——、
二人の女性の悲しげな呼び声を——、
——微かに聞きながら……今日も眠りについた。




