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ゲームだと思ったら異世界転生だった! 〜人生をやり直したい男の異世界探索記〜  作者: 和三盆光吉


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2話 冒険者生活始めました


 スタットの街は平地に作られた円形の城塞都市。

 実際の面積は大江戸ネズミーランドの2倍。

 中央広場を起点にして、北東に役所と冒険者ギルド。

 南東に住宅地と南商店街。

 南に正門。

 南西に住宅地と職人街。

 北西に住宅地と西商店街。

 人口はおおよそ1万人である。


 トンテンカン。トンテンカン。大工仕事の音が響く。

 ホープは地図を頼りに北西住宅地西1区にあるゲレタ婆さんの古い一軒家へ来た。

 こじんまりとして年季の入った家は、何度も何度も修復を重ねたのだろう。家主と同じで深く小規模な物語を夢想させる良い家である。


「ゲレタさん、終わりました」


 ホープは屋根の上から、白髪の老女家主ゲレタに作業終了の声をかける。


「ご苦労さま。降りてきて、お茶にしましょう」

「ありがとうございます」


 冒険者登録して初めての仕事。屋根の修理を無事に終え、家へと招かれる。広くはないが清掃の行き届いたキッチンとダイニング。長年食品工場で働いたホープはそれだけでゲレタの人柄を感じ取った。


「クッキーとお茶をどうぞ」

「頂きます」


 テーブルに向かいあって座る。サクサクと香ばしい手作りクッキーを頬張るホープを、ゲレタは孫を慈しむようにニコニコと眺めている。


「私、おばあちゃんでしょ。最近は体も良く動かなくて、冒険者ギルドにはお手伝いの依頼をよく出すのよ」

「そうなんですね。ゲレタさんはスタットの街のお産まれですか」

「そうよ。産まれも育ちもここ。恥ずかしいけど、ボンレス男爵領しか知らないの」

「ボンレス男爵領。へぇ〜」

「あなたは見ない顔ね。新人冒険者かしら。何処から来たの」

「自分は日本です。知ってます? 日本」


 ゲレタは笑顔で頭を振りながら

「無学でごめんなさい」 

 と返した。


「いいんです。誰も、ギルドマスターのマーガレットさんすら知らないんですよ。日本」

「そうなの。あのマーガレットさんでも」

「はい。ハゲマッチョ声デカレスラーのマーガレットさんです」


 ゲレタは「ホホホ」と口元を手で隠して笑った。

 さり気ない仕草と、大切に使われた家と家具と食器。品性の滲み出る老女である。


「スタットの街はねぇ」

「はい」

「ダンジョンが6階層までしかないのよ」

「なるほど。そうですか」

「初心者が経験を積むには良いけれど、お金を稼ぐには向かないから、若い人はある程度すると他所の街へ行ってしまうの。だから若い人が多く見えても、本当の住人は年寄りが多いのよ」

「へぇ〜、それは寂しいですね。自分は今日からスタットの街でお世話になります。よろしくお願いします」


 ホープは食べるのを一旦やめて、頭を下げて挨拶をした。

 ゲレタは再び「ホホホ」と笑った。


 依頼票に完了のサインをもらって冒険者ギルドに帰る。

 ハゲマッチョことマーガレットにそれを渡して依頼終了。


「おう、お疲れ。これが報酬だ」


 手渡されるゲーム内通貨。銀色のポリ硬貨が30枚。しめて30ポリ。1ポリは100円なので3000円になる。


「確かに。ありがとうございます。サー」


 ホープはアイテムボックスにポリ硬貨を仕舞った。これで所持金は1万とんで30ポリ。


「ホープよ」

「はいサー」

「腹は減っているか」

「え? 腹ですか」


 先ほどゲレタ婆さんにクッキーを御馳走になったばかり。腹具合は6割である。


「ギルドの隣に定食屋がある。初日だから奢ってやろう」

「あ、それって」


 無精ひげの門番ゲオに聞いた、安くてボリュームがあって不味い定食屋の事だろうと思い至る。


「遠慮はいらん。行くぞ」

「おわ! ちょっ、ちょっ」


 ハゲマッチョおっさんマーガレットはカウンターから出るとホープの腕を掴んだ。2メートルの見た目通り、かなりの握力で手首を捕まれ逃げられない。


「ひいっ! ひいっ〜!」


 助けを求めて若い受付嬢に視線を送る。そっと目を逸らされる。

 酒場に屯する若い冒険者達を見る。ニヤニヤしている。

 逃げ道はない。


「飯食って来る。少しのあいだ頼むぞ」


 マーガレットが若い受付嬢に断りを入れると

「ごゆっくりどうぞ」

 丁寧に送り出された。


「若ぇ奴が新規登録するとな、最初の一回は奢るのよ。ギルドマスターの務めってやつ。ガハハ!」


 強引に連行されて、冒険者ギルドのすぐ隣に居を構える古く小さな建物に入る。建築様式はナーロッパだが、雰囲気は昭和の定食屋。


「おう、ポピー! 飯だ飯だ!」

「あぁっ〜! マーガレットこの野郎!」


 ポピーと呼ばれたおっさんは、それは汚いおっさんだった。

 黄色く薄汚れたタオルをグルグルと頭に巻いて、ギョロッとした大きな目玉。モッサリと飛び出した鼻毛は伸ばし放題の口髭と合体しているので、もはや人間かどうかも疑わしい。

 そんな汚いポピーである。厨房の中で煙草を燻らせながら、新聞を読んでいる所を邪魔されたのだ。多少口調が荒くなるのは致し方ないだろう。


(ひぃ〜! 無理だ! 日本なら一発アウトの衛生環境だ! 責任問題だぞ!)


 ホープは鳥肌が立つのを抑えられない。


「そこに座れ。ポピー、やってくれ」

「マーガレットこの野郎! @#&*@%#?*!!」


 呪いの言葉だろう。理解不能であった。


(迫力は伝わる。なんだか凄い気迫だ)


 油と煙草のヤニで黄ばんでベタつくテーブルと椅子。

 嫌悪感を必死に抑えて座る。不思議なベタつきが手とお尻に伝わって、何とも言えない不快感。


「ここはよ、味はともかく安くて量がある。育ち盛りの冒険者には強い味方よ。なぁ、ポピー」

「あがらぶあべふぁんしゃなぼう〜!」


 店主のポピーはおそらく人間以外の種族だろうとホープは考えた。だって、そう考えないと、人間の定義が崩壊しそうだったから。


「言っておくがな」

「……はい」

「ポピーは俺の兄貴だ」

「えっ?」

「どうしようもなく腹が減ったら頼れ。遠慮はいらん」

「……はい」


(マーガレットさんとポピーさんは他種族に違いない。きっとオークとオーガのハーフだ)


 それはさておき。厨房ではポピーが呪いの言葉を吐きながらフライパンを火にかけていた。ジュージューと肉の焼ける音と匂い。そこへ注がれるエッセンス、唾。ホープはポピーの全ての動作から目が離せない。


(無理無理無理だ! 食品工場中間管理職だった自分には我慢ならない! ゲームじゃなかったら保健所に通報しているぞ!)


「スタットの街はよ」

「えっ? あ、はい」


 料理を待つあいだ、マーガレットが静かに語り出す。

 怒鳴りはなしだ。ホープは横目でポピーを監視しながらマーガレットに向き直った。


「ダンジョンが6階層しかない」

「はい」

「出現する魔物も弱い。そして稼げない」

「ゲレタさんも同じ事を言っていました」


 マーガレットがそうだろうと頷く。


「ガキ共は3〜4人でパーティーを組んで、1ヶ月もすればダンジョンを攻略する。そうして最低限の力が付くと、さっさと他の街に行っちまうんだ。稼ぐためにな」


 おさらいの様にゲレタと同じ話を聞かされる。

 つまりこれは、スタットの街が抱える問題なのだ。

 ホープはゲームにしては身につまされる話だなと思う。


「だが冒険者の仕事はダンジョンだけじゃねぇ。街の人達からの、日常の依頼もやらなきゃなんねぇ。魔物はダンジョン以外にもいる。畑を荒らしたり、旅人を襲ったりする。盗賊団だっているんだ。街の警備隊だけじゃ手の回らん部分をカバーするのも冒険者の役目なんだ」

「……はぁ」


 やや伏し目がちに、マーガレットは熱く火照っていく。


「金は大事だ。冒険者ランクを上げて名声も欲しいだろうさ。だけどよ、その先があるだろう冒険者は!」


 カッ! と目を見開いてホープに熱い視線を送るハゲマッチョおっさん。


「ひいっ! 怖いです!」


 上半身を引いて少しでもマーガレットから遠ざかろうと努力する。とにかく努力する事が肝要。


「おお。ホープはどうしよもねぇモヤシだな」

「……すいません」

「別に謝る事はねぇ。お前は成長値Dだから、スタットに腰を据えて冒険者をやればいい。俺が責任を持って鍛えてやる」

「あ、ありがとうございます」

「なんなら定住しても良い。その方が街は助かる」

「え、あの、それは」

「あぁっ〜!」

「ひいっ〜!」


 いよいよ逃げよう。ホープがそう決断をした時である。ポピーがテーブルに料理をドン!と置いた。


「オーク肉丼とオーク汁。食え」


 湯気を上げる出来立ての丼ぶりと味噌汁。どちらも大盛り。


「わりぃなポピー。ほれ、この店はオーク肉丼とオーク汁しか出さんが腹は膨れるぞ、遠慮するな」


 大盛りご飯の上に、醤油ベースの甘辛タレが絡んだ薄切りオーク肉が5枚と千切りキャベツ。オーク汁は根菜がたっぷりと入って、オーク油が甘い匂いを湯気と共に放出している。見た目と匂いは美味しそう。


(うっ、調理過程を見なければ良かった。そうしたら迷う事なく箸が進むだろうに)


 ホープは躊躇した。

 だが考えてみて欲しい。現実の三ツ星レストランでも厨房は怒号が響いているのだ。料理人達はマスクなどしないし、セレブ達はその高級料理に舌鼓を打って絶賛している。ポピーの見た目で食欲をなくすのは差別ではなかろうか。


「と、言う訳だ。ほれ、箸」

「……いただきます」


 黄ばんでいる気がする割り箸を2つにわって丼ぶりを手に待つ。

 オーク肉でお米を包み、意を決して口へと運ぶ。


「うっ!」

(美味くはない。けれど不味くもない。お腹が減っていれば普通に食べられる味だ)

「美味いか?」

「……はい、いえ、あの、美味しいです」

「ばらがんじゃだんしゃいや〜!! がはは〜!」


 ポピーが謎の言語で喜びを表すと、同時に唾が飛び散る。ホープはさっと体で料理を守った。


「お前もその内、オークを狩れると良いな」

「……頑張ります」


 ポピーは厨房に戻ると新聞と煙草を再開。

 ホープは可も不可もない(汚さはある)オーク肉丼をオーク汁で流し込む。マーガレットはそんな姿に満足して話を続けた。


「宿も決めてないんだろう」

「もぐもぐ。はい」

「どうせ金も、たいしてないんだろう」

「もぐもぐ」

(お金は1万ポリあります。日本円なら100万円)

「安い宿を紹介してやる。お前みたいな何処の馬の骨か分からん奴を面倒見てくれる宿だ」

「ふぁい。もぐもぐ」

「食い終わったら行くぞ。早く食え」

「ふぁいサー!」


 急かされて丼をかき込む。腹具合は120%になった。


「世話になったポピー。また来るぜ」

「マーガレットこの野郎!」

「ご馳走様でしたポピーさん」

「がばらんどぅせらばにあ! がはは〜!」


 定食屋を出ると、マーガレットの背を追って街の東へ。

 15分ほど歩き、城壁の側まで来ると、建物は古く貧相になってゆく。街の中心部ほど地価が高く、城壁の側は安い。つまり貧乏人の土地だ。


「あれだ。あの建物」

「はぁ、あれですか」


 城壁のすぐ側。ホープには懐かしさすら感じられる古い2階建てのアパート状の建物。昭和チックなそれが件の安宿である。


 マーガレットは安宿の隣にある小さく古い民家に直行。ドアを乱暴に叩く。


 ドンドンドン。


「ベラさんいるか! 俺だ! マーガレットだ!」


 デケェ声。50メートル先まで聞こえるだろう。


「うるせー! 聞こえとるわ馬鹿!」


 民家から可愛らしい声がした。

 最高級の楽器の様な、妖精の甘声の様な、人を魅了するロリ声である。

 扉がカチャカチャと音を立てる。建付けが悪いらしい。ギギギと嫌な音を立てて扉が開くと、現れたのは天使であった。


「静かにできんのかマーガレット。近所迷惑だぞ!」


 小さな体。輝くショートヘヤーの金髪。クリッとした瞳。細い顎。そして甘い匂いと声。一億年に1人の美少女が現れた。


「ベラさん客だ。部屋は空いているか?」

「んぁ、また野良犬を拾ってきたか。全くお人好しが」

「そう言わんでくれ。ほらこいつ、今日冒険者登録したホープだ。あいさつしろ」


 マーガレットは大きな手でホープの背中を押し、美少女の前に押し出した。


 胸が高鳴る。呼吸が苦しい。可愛い過ぎて直視出来ない。そして怖い。咄嗟に下を向く。


「は、初めまして、ホープでっす!」


 本当は美少女をガン見したい。でも拒否されたら耐えられない。キモいと思われたらショックで3日は寝込む自信がある。だから目を合わせられない。


「おう、新米か。部屋は空いてるぞ。素泊まり1泊20ポリ先払い。便所は共同。風呂はない。飯は自分で用意しろ。部屋を汚すな、壊すな、俺の宿でやらしい事をするな。以上」


 素っ気ない対応である。


「ホープよ」

「はいサー」

「この人は宿屋の主ベラリケスバチマチスさんだ。名前が長いから通称ベラさん。ハーフエルフだからこんな見た目でも100歳だぞ」

「ひゃ、100歳のハーフエルフ!」


 エルフ。異世界っぽい。ホープは思わず顔を上げてベラをしっかりと視界に納めた。


(ぶはっ! 滅茶苦茶可愛い〜!)


 改めて見ると輝く美少女。100点満点中1000点。


「なんだオメェ、なに見てんだよ」

「は、すいません!」


 流石は100歳。肝が据わって口が悪い。ホープは再び目を伏せた。


「おら、金を出せ。20ポリ」

「は、はい! はい!」


 まるでカツアゲである。アイテムボックスから今日もらったばかりのポリ硬貨を出して手渡す。その際、少し手が触れ合ってラッキー。


「おう、これ鍵。1階左端の101号室な」


 ベラは鍵を渡すと扉を閉めて家へ引っ込んだ。それで終わり。


「あ、あの?」


 状況が飲み込めずマーガレットを見る。


「空き部屋があって良かったな。俺は帰るが、明日の朝一番に冒険者ギルドに来い。分かったか」

「えっと、分かりました」


 手を振って立ち去るマーガレットの広い背中を見送って、ホープは仕方なく101号室に入る。


「うは! 六畳一間。ベッドも布団もないとか、宿屋とは言えんな」


 部屋は床板剥き出しで何もない空間。据えた臭いが鼻に付く。一応靴を脱いで上がり、小さな窓を開けて外気を取り込むと、柔らかい風が頬を撫でた。


「思ってたゲームと全然違う。『ゲームオブフロンティア』はリアルさと自由度が売りだが、これは自由過ぎるな」


 結局、誰がプレイヤーでNPCなのか不明なまま。

 ゲームなのにダンジョン禁止。冒険の自由を奪われる。

 設定も微妙に違うし、バグかもしれない。

 ホープはそう考えながら、ゴロンと床に寝そべった。


(眠い、疲れた、少し寝るか……)


 そのまま眠りに落ちる。そして夢を見た。


 ホープはログアウトした。70歳の老人に戻って、トイレに行って、風呂に入り、ご飯を食べる。それが終わると他にやる事もないので『ゲームオブフロンティア』の世界に戻る。そんな夢。





 チュン、チュン。鳥の声で目が覚める。

 窓から差し込む朝日が眩しい。

 床で寝ていたので体が痛む。

 体をぐっ〜と伸ばしてストレッチしながら朝の空気を吸い込こんだ。こんなに体を伸ばしたのはいつ以来だろうか、とても気分が良かった。


(ログアウトして戻って来たのか。うん。今日も頑張ろう)


 夢は夢である。ホープがそれに気がつくのはもう少し先。




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