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ゲームだと思ったら異世界転生だった! 〜人生をやり直したい男の異世界探索記〜  作者: 和三盆光吉


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 1話 始まりの街スタット


 ホープはゆっくりと瞼を上げる。

 強い朝日が網膜を刺した。

 草と土の匂いがする。

 肌に感じる気温は柔らかく温かい。

 季節は春。本能がそうであろうと判断した。


「ここがスタート地点。始まりの街スタット」


 目の前には木製の門と、街を囲む壁がそびえ立っていた。

 中型トラックがゆうに通れる門は開け放たれて、両脇には革鎧を着た門番が一人ずつ警備に当たり、出入りする人々に眼を光らせている。

 農民、商人、武装した冒険者。初心者用ダンジョンを有するここは『ゲームオブフロンティア』日本サーバープレイヤーのスタート地点である。


「視覚だけじゃない。音も匂いも気温さえ本物と遜色ない。これが今のゲームなのか」


 現実よりも現実的に。それがゲームの到達点であり、現在のスタンダードである。


 けれど子供時代のホープは当然、ゲームを楽しむ余裕などなかった。社畜時代でも腰を据えて本格的なゲームを楽しむ余裕などなかった。人類の電脳化が普及した時代において、ホープはある意味ゲーム的浦島太郎と言える。故に見るもの感じるもの全てが新鮮で感嘆に値した。


 人の流れに乗って門へと歩く。

 周りを歩く人々は黒髪もいれば金髪もいる。赤髪も青髪も桃色髪もいる。白人も黒人も黄色人もいて、誰がプレイヤーでどれがNPCなのか区別がつかない。全員紛うことなく生きた人間に思えた。


 普通に門を潜ろうとした。ゲームだし、周りが普通に通過しているので疑問など抱かなかった。なのに。


「待て小僧。見ない顔だな、どこから来た」


 革鎧と長い木の棒を持った、30半ばの無精ひげが汚いおっさん門番に止められる。


「どこから? それは日本から?」


 ホープは単純にそう答える。

 門番に声を掛けられた時、彼はこう考えたていた。

 門番は役になりきったプレイヤー、もしくはチュートリアルが始まったのだと。


「ニホン。知らん名だ。何処にある村だ」


 逆に門番は記憶を探ろうと眉間に皺を寄せた。

 彼は産まれも育ちもここ。スタットの街周辺の村落は全て把握しているが、ニホンなど聞いたこともない。


「村ではないぞ」

「村ではないのか」

「そうだぞ。これはなんのイベントだ」

「イベント。お弁当の事か」

「いやいや。お弁当は持って来ていない」

「お弁当なしか。なら腹が空いたら困るだろう。商店街通りの屋台が安いぞ。それと冒険者ギルドの近くに安くてボリュームのある定食屋もある。味は保証しないが腹は膨れる。店のオヤジは駆け出し冒険者の味方だ」

「そうか。それは親切にありがとう。後で屋台巡りを楽しむとするよ」

「そうしろ。それで、身分証明はあるか」

「身分証明だと?」


 ホープは困惑した。ゲームを始める前、説明にはざっと目を通したが身分証明の事は書いていなかったと思う。見落としだろうか。


「プレイヤーIDのことか? それならステータス画面を見れば……」


 心の中でステータスと念じる。これで自分のステータスが見えるはずだ。そして許可を与えた他人にも見えるはずだ。


「あれ?」


 ステータス画面は現れなかった。


「おかしいな。ステータス。ステータス」


 口に出して何度唱えてもステータス画面は現れない。

 おかしい。バグかもしれない。ホープが焦り出した時である。


「ステータスはステータス閲覧の魔道具『ステ板』でしか見れないだろうが。『ステ板』は役所か冒険者ギルドにしか置いていない。常識中の常識だぞ。お前は本当に何処の部族の出身だ」

「ステ板だと?」


 無精ひげの門番は呆れていた。哀れな田舎者に同情して態度が少し軟化する。同時にホープの困惑は深まる。


「どうやら怪しい部分はなさそうだ。最近この辺りに凶悪な盗賊団が流れて来て警戒を強めていたんだよ。疑ってすまなかったな」


 ホープの肩をぽんと叩く。それから親切に教えてくれた。


「このまま真っすぐメインストリートを行くと役所があって、隣が冒険者ギルドだ。看板が出てるから分かるだろう。お前さんは見た所冒険者志望だな?」

「あ、ああ。そうだ。冒険をしに来た」

「そうだろう、そうだろう。スタットのダンジョンは初心者向けだからな。田舎で燻るより冒険者になって立身出世を目指す子供はまずここに来る」

「うん。だろうな」

「冒険者登録すれば同時に住民登録した事になって身分証明が貰える。納税の義務も付いてくるが、浮浪民って訳にもいかないからな」

「納税と浮浪民か。ゲームの説明にはなかったはずだが」

「税金はな、冒険者が依頼を達成したり、素材を売却したりすると、勝手に引かれる。手間が省けて楽だろう」

「給料から天引。うっ、心が痛い」

「浮浪民ってのは、戸籍のない奴。今のお前さんの事だよ。納税しない、国の法で守られない、下に見られて差別される。それが嫌で冒険者になる奴も多い。お前さんもそのくちだろう」


 門番はホープのために良く説明してくれた。


(やはりチュートリアルなんだろう。だが、ゲーム設定にない話ばかりだ?)


「俺は警備隊のゲオ。お前は?」


 職務に忠実で気さくなおっさんである。立場的にNPCであろう彼に、ホープは名乗りを返した。


「自分はホープ。今日からスタットの街で活動するからよろしく頼む」

「ああ、死なない程度に頑張れよ」


 軽く手を振って別れる。門を潜り街へ入る。


(おお! 謎の建築様式ナーロッパ。ゲームだから当然だが清潔だ)


 スタットの街は丸太を組んだ壁にぐるっと囲われた円形の城塞都市である。都市の広さは大江戸ネズミーランドの約3倍。プレイヤーとNPCとで、人口は10万人を超える。


(説明ではそうだった。そうは見えないけど)


 石畳のメインストリート。両脇にはレンガと木材で作られたナーロッパ建物が並んでいる。人の往来があり、馬車が走り、賑やかで雑多な声が響いている。

 しかしホープの目に映る街の規模がゲーム設定よりも小さい。明らかに、間違いなく、小さかった。


(冒険者らしき人が何人も歩いている。彼らはおそらくプレイヤーだろう。そうなると自分の勘違いか、もしくは知らぬ間にゲーム規模が縮小されたか。まあ、冒険者ギルドに行けばわかるか)


 メインストリートは車道と歩道に分かれていた。

 役場と冒険者ギルドは真っすぐ進めば良い。

 周囲を観察しながらゆっくりと歩く。

 車道を走る荷馬車を見る。それ自体は中世地球の物と変わりない。ただし馬は馬ではなかった。

 全体的には馬に見えるが口から犬歯が飛び出している。脚の脛部分も緑鱗に覆われて爬虫類を思わせる。尻尾は蛇のようであった。家畜された魔物、魔馬だ。


(うーん。どこからどう見ても生き物だ。ゲームだと知らなければ現実として受け入れてしまう)


 感心していると後方からクラクションが鳴り響いた。

 人々の視線が集まる。当然ホープも見る。


(魔導車だ! 魔石を燃料に走る車だ!)


 魔導学によって作られた自動車。魔物の体内から取れる魔石を燃料にするそれは、平民には手の届かない高級品。

 他にも魔導家電、庭付き一戸建て、魔導船、魔導飛行船などがあり、これらを手に入れるのもゲームの楽しみの一つとなっている。


「どけどけ貧乏人共! 轢き殺すぞ!」


 魔導車のデザインはクラシックなオープンカー。

 運転手は若くチャラい男。助手席と後部座席にはケバい少女達。激しくクラクションを鳴らし、魔馬車を煽りながら、道を譲れと叫んでいた。


「また男爵の馬鹿息子か。迷惑だぜ」


 ホープの側で誰かが呟いた。周りを見れば誰も彼もが嫌悪の表情を浮かべて好意など一切ない。男爵の馬鹿息子と言うフレーズから、プレイヤーではなくNPCだと思われ、ならばチャラ男はイベントキャラクターなのかも知れない。


 必須イベント以外の、やるやらないはプレイヤー次第。

 運営が用意したイベントを一切こなさず、普通にゲーム内で生活してもそれなりに楽しめる仕様にはなっている。そんな『ゲームオブフロンティア』の自由度の高さも人気の要因の一つである。


(調子に乗ったイケメンを懲らしめるイベントなら絶対にやろう。アイツは俺が懲らしめて分からせてやる)


 イベントをやるやらないは本人の自由。ホープの場合、イケメンに思う所があるらしい。現実世界では決して叶わないイケメン討伐。必ずやる所存。


(自分の見てる目の前で巨乳に手を出した後輩のイケメン野郎。男爵の息子は奴の代わりだ)


 迷惑な魔導車を見送り、街の中心部に至る。そこは4つの主要道路が交わる広場だった。広いロータリーになっていて、中心には噴水と街路樹とベンチ。


 老人達はベンチに座り、ヨボヨボと雑談を交わして日向ぼっこ。幼い子供達は噴水の周りを駆け回って奇声を発し、いくつかある露店では軽食や庶民的なお菓子や安物の雑貨を売っている。それを若いカップルが物色しながらイチャイチャするのだ。


(長閑だな。冒険以外の選択肢が用意されているのは実に良い)


 更に進む。役場が見える。赤レンガと木材で作られているが、外観は日本の町役場といった感じ。今は用事がないのでスルー。隣に構える冒険者ギルドへ脚を向ける。


(明治期の建物っぽいな。社員旅行で行った富岡製糸場とか鹿鳴館とか)


 冒険者ギルドは敷地面積がかなり広い2階建て。赤レンガと木材で建てられたナーロッパ風。入口に剣とブーツを象った看板を掲げ、ゲーム内言語で『スタット冒険者ギルド』と書かれていた。


 人の出入りはそれなりにあった。ほとんどがファンタジー的な武装をしているので冒険者だろう。たぶんプレイヤーだ。


(装備が貧相なのは分かる。始まりの街だから、ゲームを始めたばかりの低レベル層なのだろう。しかしそれにしても……)


 冒険者ギルドを出入りする推定冒険者達は皆、少年少女であった。キャラクターエディットでは性別、容姿、年齢、種族でさえ自由に設定出来る。筋肉質な老人でも、ロリロリ美少女でもお好みで自由自在のはずだ。なのに普通の少年少女ばかりである。老若男女はおろか、他種族もいない。


(う〜む。さっきから引っ掛かる事ばかりだ。もしかして運営会社が不祥事を起こしてゲームが寂れたのか? 登録者数に合わせて内容をショボくしたのだろうか?)


 ゲーム初心者のホープは、歩んだ人生経験を元にそれらしい理由を考えて自分を納得させた。プレイヤー数とかゲーム内容の濃さとか、正直ホープには大きな問題ではない。重要なのはリアルである事。現実では実現不可能な冒険をして、恋人を作ってラブラブして、結婚してラブラブして、明るい家族計画でラブラブ。それが最重要目的であり、すでに課金で制限解除しているホープはその部分が確約されているのだから、ボリュームが多少減るのは些事である。


 他の冒険者の出入りに合わせて中に入ると、そこは広い空間だった。まず酒場がある。いくつかのテーブルと酒場のカウンター。口髭ダンディなマスターと給仕の女の子。朝から食事をとったり酒を飲んでいる若い冒険者グループ。


(定番定番。だけど職場に酒場とか、日本なら大問題ですよ)


 日本なら社員食堂で酒を提供しているのと同じ。流石はファンタジー世界だと感心して唸る。


(受付け、受付け)


 酒場の奥に冒険者ギルドの受付けカウンターがあった。

 ゲーム言語で総合受付けと書かれているそこには、若い受付嬢と、ハゲでいかついプロレスラー体型のおっさんの2人。ホープは女性が苦手なので、おっさんの受付けへ向かった。


「すいません、冒険者登録に来ました」

「あぁっ!」


 おっさんの身長は2メートル。歳は50くらい。おでこに3本の深い皺があると思ってよく見たら、深い傷であった。威圧感が半端ない。


「何見てんだよ」

「す、すいません。ご立派なもので」

「何がだよ!」

「ごめんなさい!」


 70年生きても荒事とは無縁の人生。怖いものは怖い。


「冒険者になりたいのか小僧」

「はい! 冒険したいです!」

「よ〜し。ならこの紙に記入しろ」

「はい!」


 入会用紙には、名前と年齢と性別と出身地を書く。

 使用言語はゲーム内言語であるが、プレイヤーなら読み書きに不自由しない。


「小僧の名はホープか。出身地のニホンってのは、何処だ」


 ここでも聞かれる。むしろ日本を知らない方が困る。


「あの、日本を御存知ない? 貴方はプレイヤーですか? それともNPCですか?」


 埒が明かないので、恐る恐るストレートに聞いてみた。すると。


「あぁっ! なんだそりゃ! 舐めてんのかテメェ!」

「ひいっ! すいません!」


 姿勢を正して90度で腰を折って頭を下げる。社畜時代に培った必勝の技、謝罪である。


「おう。じゃあよ。ステータスを調べっから、ステ板に手を置けや」


 カウンターにはノートサイズのガラス板。そこへ手を置けと急かされる。


「はひっ! これでいいでしょうか?」

「あぁ」


 ガラス板に手を置くと、少しだけピリッとした。


「あ、文字が浮かんできた」

「おう、それがお前のステータスだ」


 ホープ 男 15歳 レベル1 成長値D

 スキル アイテムボックス


「おめぇ、成長値がDじゃねぇか」

「はい、そうです」

「アイテムボックスは生まれつきか」

「はい、そうです」

「成長値Dじゃ冒険者は務まらねぇぞ。アイテムボックスがあるなら何処ぞの商会に就職しろや」

「え、そんな、やだ」

「あぁっ〜!」

「ひいっ!」


 ハゲおっさんの声がデカい。注目が集まる。ゲームのはずなのに、おかしい。


「どうしても冒険者になりてぇのか」

「はい、なりたいです。すいません」

「しょうがねぇな。なら、パーティーを組む仲間はいるのか」

「いえ、いません」

「馬鹿か! おめぇ、あっと言う間に魔物の胃袋行きだぞ!」

「はひっ! ごめんなさい!」

「ちっ! しょうがねぇ。俺が臨時の仲間を紹介してやる。ほら、あそこのテーブルで酒を飲んでる小娘の3人組」


 ハゲおっさんは顎で背後を示した。酒場のテーブル。3人組の少女がチビチビとビールを飲んでいる。見た目の年齢的に日本ならアウト。


「あの、いえ、その」

「なんだ」

「自分、女の子はちょっと」


 ホープは母親に虐待されたトラウマで女性が苦手である。

 トラウマを克服してゲーム内結婚を目指しているが、いきなり女の子の群れに入るのはハードルが高過ぎる。


「あぁっ〜! おめぇ、童貞か!」

「すいません!」

「ちっ! 他に紹介出来る男の新人は今はいねぇ。だからと言って、弱々モヤシをソロで受け入れる訳にもいかねぇ。しょうがねぇ」

「……あの」

「冒険者にはしてやる。ただし、俺が良いと言うまでダンジョンは禁止だ」

「そ、そんな〜」


 RPGゲームなのにダンジョン禁止。これは如何にと食い下がる。


「あの、自分、お金を払ってプレイしてるんで、チュートリアル的なそれはスキップしてもらっていいすか?」

「あぁっ〜! チュートリアルってなんだ〜!」

「ひいっ! 許して〜!」


 もうすっかり注目の的。そこかしこで成長値Dとか、童貞とか、ヒソヒソと酒の肴にされてしまっていた。


「まずは街の雑用からこなせや。その間に俺が基本的な訓練をつけてやる」

「はひっ! ありがとうございます!」

「良し。これが冒険者カードだ」

「ありがとうございます!」


 手渡されたのは名刺サイズの金属プレート。

 名前と所属ギルドが書かれており、ランクDとなっている。


「あの、このランクDは?」

「あぁっ! それはな、冒険者ランクだ! 新人はD! C、B、A、Sと実績を積めば上がっていく! 分かったか!」

「はい! 分かりました! ありがとうございます!」

「よ〜し。そしたら早速依頼だ」

「えっ? もうですか?」

「文句あっのか!」

「ないです! すいません!」

「西1区のゲレタ婆さんの家の屋根修理。必要な物は現地に揃ってっから、早く直してこい!」

「サーイエスサー!」


 スタットの街の地図を渡されて、周囲からクスクスと笑われて送り出される。早く逃げたい。ハゲおっさんから離れたい。その一心で扉を開けようとした、その時。


「待てホープ!」

「はひっ! サー!」


 まだあるのかと身構えて振り返ると。ハゲおっさんが不気味な笑顔を浮かべていた。


「俺はギルドマスターのマーガレットだ。これからよろしく頼むわ」

「マ、マーガレット?」

「あぁっ! 親のくれた名前だ! 文句あっのか!」

「ありません! ありがとうございます!」


 こうしてホープの冒険者生活は幕を開けたのである。




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