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ゲームだと思ったら異世界転生だった! 〜人生をやり直したい男の異世界探索記〜  作者: 和三盆光吉


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 11話 ビッチ襲来



 東の空が薄っすらと白み始めた頃。

 冒険者ギルドの鍛錬場にて。練習用の鉄剣を振って空気を斬り裂く音が鳴る。ホープである。重さ3キロのショートソードと木の盾を装備して、斬る、突く、防ぐの動作を何度も何度も繰り返している。


「998! 999! 1000! よ〜し!」


 千回を超える素振り。鍛錬場にはホープだけ。

 弾んだ息を深呼吸で整える。流れる汗をタオルで拭き取る。そうこうしている内に太陽は世界を照らし、訓練場にマーガレットが現れた。


「やってるなホープ。調子はどうだ」

「あっす! マーガレットさん。たぶん今朝、剣術スキルが生えました!」

「ほ〜う」


 初めのダンジョンから数日。ホープは鍛錬が楽しくて仕方ない。正しい形で何度も体を動かせばスキルが生える。まさにゲーム的現象を目の当たりにして、やる気が増したのだ。


「スキルが簡単に生えるわきゃないが、知りたいなら調べればいい。もうすぐ他の冒険者が鍛錬場に来るだろう。行くぞ」

「はい!」


 楽しい理由は他にもある。まず体が軽いのだ。

 現実のホープは老人である。医療が発達した時代でも、70歳になれば節々が痛んで思い通りに動かなくなる。若い頃は意識しなかった。老後を想像しても不十分だった。老化によって体が硬く弱くなるのは、それは悲しい事である。


(15歳の体は最高だ! 生命力が溢れているし、鍛えれば鍛えるほどイメージ通りに体が動く! 運動部の奴らの気持ちがよく分かった!)


 2つ目の理由は1つ目と被るのだが、男性特有の朝のテント設営に関する事柄だ。

 若い頃は毎朝、イベントでもないのに、迷惑なほどテント設営に勤しむ分身がいて、本人の意志とは無関係でせっせとテントを張る。


 勤勉で精力の有り余った分身。無差別テント張り職人をコントロールするのに、多大な労力を割かれる日々であった。

 なのに歳を取るに連れて分身は活力を失い、朝のテント設営をサボるようになって行く。1年、また1年とテントは数を減らし、やがてイベント本番でもテントが設営されなくなり、イベント参加者の女性から滅茶苦茶クレームを言われ、最後には分身からの応答が完全に消失する。それは悲しい事である。


(いやもう、毎朝痛いくらいにテント張っちゃって、こんなに嬉しい事はない。これが若さだ! 俺は昔、こうだったんだ! この荒ぶる分身を、迷惑なテント設営を、思う存分解放してみたい!)


 漢なら分身には常に元気でいてもらいたい。誰もが想い、そう願う。それは万国全人類(男)共通なので、取り敢えず置いておこう。



 冒険者ギルドは朝の7時に開く。本来は鍛錬場も同じである。ホープはマーガレットに頼んで朝早くから使わせて貰っていたのであり、依怙贔屓であった。


 ギルドメインホール。ギルド酒場ではモーニングを提供している。酒も飲める。これからダンジョンに向かう少年少女達は、1日の始まりのエネルギーを摂取している。 ホープは若者達の喧騒をすり抜けて、カウンターに置かれたステ板に手を置いた。


 ホープ 男 15歳 レベル1 成長値D

 スキル アイテムボックス

 スキル 剣術レベル1

 スキル 盾術レベル1


「やった、やっぱりスキルが生えてる」

「馬鹿な、たった数日でスキル2つだと。早すぎる」

「いや〜、才能じゃないっすか? 実は自分、最強でした?」

「調子に乗るな阿呆。しかし、これは……」


 スキルとは魔力が関係した、この世界特有の摩訶不思議事象であり、スキルが生えると技能が固定化され、対応した動きに補正がかかる。


 例えば、毎日ランニングをしたとする。やがて長距離走というスキルが生える。スキル効果はパッシブであり、マラソンをした時、長距離を走るという点に関してより効率的に体が動く様になる。


 スキルの良い所は衰えないという事だ。普通、どれだけ鍛えても、長くサボれば肉体は衰える。しかしスキルとして固定化された動き。技能は衰えない。つまり対応した動きの固定化なのだ。


「なあ、ホープよ」

「はい?」

「お前もしかして、スタットの街に来る以前に鍛えていたんじゃないか? そしてここ数日で一気にスキル経験値が溜まってスキルが生えた。違うか?」


 マーガレットの考察は、理解の及ばない現象に現実的な理由を当て嵌めようとする、至極当然な心理の表れである。


「いえ、それはないです。自分が最初、ズブの運動素人だったのはマーガレットさんが良く御存知でしょう」

「そうだよな〜。そうなんだよな〜」


 マーガレットはツルツルに剥げた頭を撫でて唸った。

 幼い時から体を鍛え、冒険者となり、今はギルドマスター。彼の経験を持ってしても、ホープのスキル成長の早さは異常に映っていた。


「じゃあ、午前は街の依頼をこなして来ます。午後はダンジョンに行って、夕方またご指導をお願いします」

「おう。今日は倉庫の仕分けだな。頼むぞ」

「はい。そろそろレベルも上がると良いんですけど」


 ホープは今日までに約300匹の豆鹿レベル1を倒した。

 銅色宝箱もいくつか入手して、中身は全て鹿肉生ハム(小)だった。これは酒のツマミに人気があるので2ポリで買い取って貰える。


「レベルはまだ先だろうよ。豆鹿レベル1が相手なら、1000匹は倒さないとレベルは上がらんぞ」

「せ、1000匹ですか」

「コツコツ真面目にやれば無理な数字じゃないだろう」

「そうですね。でも効率を考えたら魔物の巣が良いかと?」

「あぁっ〜!」

「ひいっ!」


 調子に乗り始めたホープにマーガレットの顔が険しくなる。


「まあな。他の奴らはレベル上げに魔物の巣を利用してるしな。ソロじゃなければ有りだがな」

「豆鹿レベル1でもソロでは駄目ですか?」

「戦いは数だホープ。レベル1のお前は集団に囲まれてボコられたら、立て直せずに殺されるぞ」

「そうですかね。なら、レベルが上がったら?」

「成長値Dはな、レベルが1つ上がっても、身体能力の向上は微々たるものだ。まあ、しかし」

「しかし、なんです」

「お前はスキルの習得が何故か早い。剣術と盾術のレベルが2になったら考えてもいい」

「そうですか! なら頑張ります!」


 基本となる肉体のレベルは、魔物を倒して経験値を得なければ上がらない。対してスキルレベルは正しい動きをひたすら繰り返せば上がる。つまり隙間時間で鍛錬できるので、コツコツ作業が苦にならないホープには都合が良かった。


(疲労はゲレタさんの薬草茶で抜けるから、鍛錬はいくらでもやれるぞ)


 薬草茶が普及すれば良いのに。ホープはそう思いながら冒険者ギルドを後にした。だが彼は分かっていない。ゲレタが研究を重ねてマシになった薬草茶ですら、一般的にはまだまだ不味いという事を。幼い日に飢えを経験して、好き嫌いのないホープだからこそ、ギリ飲めるという事を。



 午前は東商店街にある商店で商品の受け入れと搬出である。外から持ち込まれた品を倉庫に移し、空になった魔馬車に出荷用の品を積み込む。手積みの重労働。


 仕事を終えるとポピーの定食屋でオーク肉丼とオーク汁をかっ込む。ポピーと店の汚さにも慣れたもので、とにかく栄養を摂取して体を作る。それだけだ。食後にはゲレタに貰った薬草茶を飲むことも忘れない。これで元気100倍。


「ごちそうさまでしたポピーさん」

「うびゃがらんしゃんいや! ダンジョン、ぼうやんでがりれん!」

「はい! ダンジョン頑張ります!」


 最近は鼻毛と口髭で覆われたポピーの謎言語も、何となく気持ちが伝わる気がする。おそらくポピーは「美味かったか。ダンジョン頑張れよ」と言ったのだろう。汚いおっさんの思いやりが素直に嬉しかった。


 体が若いと心も若くなっていく。本当は歳下のはずのマーガレットやポピーに対して、少年の心で接する事が出来る。

 肉体は魂の器と言うが、魂は肉体に合わせて形を変えるのかもしれない。ホープの心は確実に若返っていた。



 午前はダンジョンの1階層で豆鹿レベル1を相手に経験値を貯める。ここ数日間のルーチンワークである。

 『デルタトライアングル』の3人組はスタットの街を去った。若い冒険者の半数は顔ぶれが入れ替わっている。

 ホープが童貞で成長値Dだと知っていて笑う者も少なくなり、新規の者達は1階層のみで戦う彼を見ても「事情があるのだろう」と考えて、特別絡む事もない。ある少女3人組を除いて。


「あら、童貞君。今日も1階層で一人遊びなの?」

「やだ〜、栗の花の匂いがする」

「今だにギルドのレンタル武具とか、ダサくない」


 赤髪ロングをリーダーとする冒険者パーティー『赤百合会』である。


「こ、こんにちは。その、通して下さい」


 ダンジョンのスタートホールで鉢合わせた彼女達。1階層の奥へ進む入り口を塞いで、ホープをいじり倒すのだ。


「まだレベルが上がらないの? 豆鹿レベル1なんて相手してるからよ。2階層に降りて、豆鹿レベル2を倒せば2倍の経験値なのに、馬鹿じゃない?」


 初日にパーティー入りを拒否されたのが気に障るのか。赤髪ロングは執拗にホープに絡んでくる。それはもう、気があるのかと疑う程に。


「いえ、その、マーガレットさんから2階層に降りる許可が出ないので」


 ホープは目を合わさずに答える。赤髪ロングを見ていると、母親を思い出すからだ。


「あなた、私と絶対に目を合わさないのね。そんなに嫌い」


 スバリと言われた。相手からすれば、目を合わさず避けられれば、気分が良くないのは当然。赤髪ロングは気が強い故に、ホープが悪意を持っているのか、もしくは自分に問題があるのかと、気になって仕方がない様子。


「いえ! 嫌いだなんてとんでもない! ただ自分は、若い女性が苦手で」

「なにそれ! あなた、ゲレタお婆さんやベラさんに可愛がられているみたいじゃない! もしかして老女好きとか、男の娘が良いとか、そう言う変態なわけ!」


 当たらずしも遠からず。ベラは男なので遠慮する必要がなく、ゲレタは中身年齢的に歳下であり、精神が成熟して落ち着いているので安心して付き合える。


「ご、ごめんなさい赤毛さん!」

「赤毛さんってなによ! 私の名前はミリアよ! 知らないの!」

「ごめんなさい! ごめんなさい!」


 ひたすら謝る。それしか出来ない。


「まあ良いわ。あなた、ホープとか言うらしいわね」

「はぁ、そうです」

「私に絶対服従するなら仲間にしてあげる。私達は4階層を攻略中なの、レベルも5よ。一緒に来ればレベルアップなんてすぐなんだから」


 赤毛ロング、ミリアは成長値Aなのだ。父親はボンレス男爵領都でネジ工場を経営している。昨今、魔導科学の発展でネジの需要はうなぎ登り。ちょっとしたお嬢様であり、成長値Aのエリート。お供の少女2人は父親の会社の従業員の娘で成長値C。親の金でよい装備を買って、軽い気持ちで冒険者になった高飛車女達。


「やめてよ〜ミリアっち。私達、童貞お断りじゃん」

「そうそう。栗の花の匂いってキツイのよね」


 お供2人は非処女である。しかし実の所、ミリアは処女であった。


「だって可哀想じゃない。ウジウジモジモジして、ギルマスにいい様に使われて、しかも童貞なのよ」


 ミリアの本心を暴露すれば、ホープは彼女の好みの男であった。容姿がイケメン、なのに気が弱い。女王様気質のミリアにはうってつけの逸材。

 何として手に入れて、あんな事やこんな事をして、自分色に染め上げる。そんな野望を抱いているのだ。


「ミリアっちは本当に優しいよね。でも童貞は頼りなさ過ぎ、女の子より弱い男ってどうなの?」

「わかる〜。やっぱりベッドの中でリードしてもらいたいし〜、先にイカれたらムカつくじゃん?」


 ケラケラと笑う2人。ホープは耐えられなくなって、強行突破する事に決めた。


「時間が惜しいのでもう行きます! さようなら!」

「あっ! 待ちなさいよ!」


 走り去るホープに手を伸ばしても届かない。

 恋とは好意である。相手への思いやりが心を結びつける。上から目線では基本的に成就しないのだ。


 ミリアがそれを知るのはもう少し先。



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