表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲームだと思ったら異世界転生だった! 〜人生をやり直したい男の異世界探索記〜  作者: 和三盆光吉


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/13

 10話 ベラの仕事。ゲレタの仕事。



 見た目だけロリ美少女のベラリケスバスマチス112歳にも、一応仕事がある。

 

 まず彼は、おんぼろボッタクリ宿屋を経営している。

 部屋は六畳一間で寝具はない。風呂がないのは言わずもがな。トイレは共同。食事も出さず、完全な素泊まり。さらにやらしい行為は絶対禁止であり、これでは愛のホテルとしても使えない。宿屋と呼ぶにもおこがましい。それで一晩20ポリ(2000円)安いと感じる者がいる一方、ボッタクリと陰口叩かれるのも致し方ない。


 宿屋経営者であるベラの日常の仕事は主に掃除。

 朝はボロ宿屋の前を竹箒で掃いて、その後部屋をちょいちょいと掃除する。その際、わずかでも破損を見つければ容赦なく修繕費を請求する。成長値S、レベルカンストの力で地の果てまで追って取り立てる。ちなみにだが、修繕費が修繕に使われる事はない。だいたい破損した箇所はベラが下手な日曜大工でちょいちょいと誤魔化す。お金は何処に消えるのやら。




 スタットの街の遠く北には魔の森が広がっている。

 標高300メートル以下の低い山々が東西に長く連なり、麓を広大な森林が覆う。ここは魔力の濃い魔物の領域である。魔力耐性のない生物は長く生きられない土地である。

 中心にある鳥影山はドラゴンの劣化種、ワイバーンの縄張り。森にはオーガ、トロル、オーク、コボルト、ゴブリンなどの人型の魔物も数多く棲息し、拙いながらも文明を持って暮らす。それ以外にも、魔虎、魔猪、魔鹿、魔猿、魔鳥、魔鼬。多種多様な本物の魔物が弱肉強食の日々を生きている。


 そんな魔の森を、定期的に探索するのがベラのもう一つの仕事。


 魔の森は魔物が強い。未熟な者。レベルの低い冒険者では手に余る。ここを専門に活動する冒険者パーティーが数組、スタットの街を拠点にしている。もちろん高レベルの猛者達だ。彼らが魔の森から持ち帰る魔物素材、例を挙げればオーク肉などが街の胃袋を支え、経済を潤しているのだ。




「ゴブリンが18匹。ホブゴブリンが4匹。増えてるな」


 緑の体色をした人型の魔物。ゴブリンの惨殺死体の山を眺めてベラは独りごちる。右手には自身の身長を超える両刃の大剣。これは『竜斬刀』と銘打たれた、ドワーフの名工であるドロロゴロロが鍛えたミスリル製。ドラゴンに息子を殺されたドロロゴロロが、全てのドラゴンを滅ぼして欲しいと願いを込めて作り上げた一品。


「ゴブリンの勢力が増しているのかも。先月オークを狩り過ぎたかもしれない」


 Sランク冒険者であるベラの役目は、魔の森の調査とバランスを保つ事。もしも森の調和が乱れれば、魔物達は森を飛び出してスタットの街を襲うかもしれない。実際、他の地域では過去に実例がある。モンスタースタンピードと呼ばれる現象だ。


「しばらくはゴブリンを狩って、オークを控える様にマーガレットに言おう。オーク肉の値段が上がるが仕方ない。代わりにハリハリ鳥を多く狩ろう」


 ベラは『竜斬刀』をアイテムボックスにしまう。余談であるが、アイテムボックスは条件を満たせば誰でも習得可能である。レベルを50以上に上げて、魔法ギルドに100000ポリ(1千万円)支払えば良い。ハードルは高いが、上位冒険者になる為に必須のスキルである。


 薄紅色の革鎧。緑色のマント。黒く艶のあるブーツ。これらはどれも最高級の魔物素材から一流の職人が作り出したオーダーメイド。ベラはそれらを自慢するでもなく、自然に着こなして森を駆ける。これからオーガとコボルトの調査もしなければならない。阿呆なトロルは良いとして、オーガ、オーク、コボルト、コブリン。森の4大勢力のバランスを保つのが彼の最大の仕事であった。


「夕方までに帰らねば。子犬とお風呂に入って、ゲレタのご飯を食べるのだ」


 ホープに出会って以来。ベラの一番の関心はホープである。

 子犬子犬と可愛がり、お風呂に一緒に入るのも、汚い子犬にシャンプーしている感覚なのだ。


「似ている。ホープはとても似ている。子供の頃に飼っていた子犬に似ている。生まれ変わりに違いない。子犬が好きなハリハリ鳥を狩って帰ろう。沢山食べさせてやろう」


 人が人を好きになる。理由などその程度だ。

 大切なのは気持ち。性別など関係ない。

 好きな物は好きなんだからしょうがないのだ。

 外見が絶世の男の娘なら、全く問題なし。



 ◇◇◇◇◇


 ゲレタの家の庭は小さいが、綺麗に手入された植物園である。植えられているのは主に薬草類。今年で63歳となる彼女は、薬草研究者であり、若い頃はSランク冒険者であり、一時期ベラとパーティーを組んで活躍していた。


 結婚と妊娠。子供を産んで冒険者を引退したが、かつての活躍と名声を知る者は少なくない。そして彼女にしかない力は、今でも一部の者達から密かに求められている。


 朝。人々が労働を始める頃。ゲレタは1人静かにテーブルに座って、今だに苦い薬草茶を楽しむ。ホープの助言を受けて日々改良を重ねているが、子供が飲むにはまだ苦すぎる。万人受けする薬草茶の先は長そうだ。


(今日のホープさんは街道補修の手伝いかしら? 本当によく頑張る良い子)


 初めて出会ったのは屋根の修理。その時からホープは印象が良かった。老女であるゲレタを嫌がらず、むしろ好意的に接してくれる。いや。好意的ではなく、本当に好意を抱いている。人生経験豊富なゲレタにはそれくらい見抜ける。老女相手に15〜6の少年が好意など、変態なのは間違いない。それが分かっていても、嬉しいのが女心。


 夫に先立たれ、一人息子は独立してボンレス領都で自分の家庭を築いている。寂しい老女に訪れた春。それが儚い夢だと分かっていても、縋らずにはいられない。


(夕食はなにを作りましょか。ホープさんは育ち盛り、沢山食べるからお腹に溜まるものを。お邪魔虫のベラのクソショタには下剤でも盛ろうかしら)


 そんな事を考えていると、家のドアがノックされる。来客だ。ゲレタは立ち上がり、玄関で客を出迎える。

 ドアを開けると、そこには燕尾服を着こなした老執事。後ろには若いメイドが控え、道には貴人用の馬車が止まっていた。


「お迎えにあがりました。聖女ゲレタ様」


 老執事は胸に手を当て、腰を折って頭を下げる。


「準備は出来ています。さっそく参りましょう」

「ありがとうございます。どうぞ馬車へ。主がお待ちです」


 馬車に乗って向かう先は、スタットの街に唯一ある高級宿屋。そこで待つのはとある貴族の婦人である。


 老執事に先導されてスイートルームへ入る。

 高級感漂う部屋は、面積でいえばゲレタの家よりも広い。最高の調度品。最高のベッド。

 ゲレタは歩きよってベッドの脇に立った。老執事が隣に並び、ベッドに横たわる主の、病魔によってやつれた顔を悲しそうに見下ろす。


「主。キャスター伯爵夫人でございます。」


 歳は40前後であろう。弱々しい呼吸でベッドに横たわる婦人の顔は白く、死相が見て取れる。


「王都の高名なお医者様も匙を投げました。もはや頼れるのは聖女様のみ。どうかお力を振るって頂きたく」


 そう言って深く頭を下げる。同時にメイド達も頭を下げる。


「頭を上げてくださいな。本当は私が王都へ出向ければ良かったのに、病人に長旅をさせてごめんなさい」

「とんでもございません。聖女様の事情は存じておりますので。それにスタットまでは魔導飛行船での旅でしたので、時間も掛からず負担も最小限で済みました」

「それは良かった。せめてもの慰めね」

「はい。魔導科学の発展は目覚ましいものです」


 ゲレタは一つ頷くと、ベッドの脇にしゃがんでキャスター伯爵夫人の顔に手を触れた。

 

「これは呪いです。通常の方法では治らないはずだわ」

「やはり呪いでございますか」

「御心あたりがおあり?」

「はい。詳細はお話できませんが……」

「良いのですよ。では、さっそく」


 ゲレタは目を閉じて、夫人の体に手をかざす。体内で魔力を練り、3度深呼吸をすると、呪文を紡いだ。


「消えよ邪悪なる呪い《解呪ディスペル》」


 ゲレタの手から光が迸り、夫人の体を包む。キラキラとした粒子が舞い踊り、暗く淀んだ呪いの雰囲気を打ち払っていく。


「おぉ〜! 奥様が!」

「奥様! 奥様!」


 老執事とメイドの歓喜の声が部屋に響く。伯爵夫人に起こった体の変化はそれほど劇的であったのだ。


 石膏のように白かった顔に赤みがさし、肺は大きく空気を吸い込んで胸を上下させる。部屋全体を満たしていた呪いの気は完全に消え去って、いつの間にか清浄な雰囲気に包まれていた。


「呪いは完全に消えました。けれど弱った体を回復させるには数日を要します。私が責任を持ってお世話をしますので、その間に呪いの大本の始末を」

「はい、もちろんでございます。はい、全て聖女様のご指示通りに致します。聖女様、ありがとうございます。聖女様」


 ゲレタの手を取って涙を流す老執事。彼は夫人の実家から婚家へと付き従った忠臣であり、子供の頃から夫人の世話をして、娘同然の存在となっていた。感謝の念は天井知らずである。


 それからゲレタは滋養強壮の薬草と薬草茶の説明をメイドにして、ホテルを辞した。後日、彼女にキャスター伯爵家から相当額の謝礼が支払われる事だろう。


 元Sランク冒険者。成長値S。レベルカンスト。最上級回復魔法の使い手。それだけではない。スタットの街に植えられた薬樹。本来あれは魔力の濃い場所にのみ育つ気難しい植物であった。それをゲレタが研究、品種改良して、今では国中に広がって多くの人々の命を救っている。


 国民の健康寿命は飛躍的に伸びて、生産性も向上する結果となった。ゲレタの力で国が栄えたのだ。国王はあまりに大きなその功績を称え、ゲレタに聖女の称号を贈ったのである。


「閃いたわ。今夜はアスパラガスのベーコン巻きフライにしましょう。それとハリハリ鳥のささ身のフライ。ホープさん喜んでくれるかしら。おほほ」


 かつてゲレタの力を欲した大貴族がいた。そいつは汚い手を使い、家族を人質にとって、彼女を手籠めにしようと画策した。若い頃のゲレタはそれは美しかったので、一挙両得とやらしく考えた。


 現在、ゲレタはスタットの街で静かな余生を過ごしている。それは大貴族を懲らしめて分からせたからだ。ベラと2人でかなり派手にやらかしたのだ。


 罪が大貴族にあるとは言え、やり過ぎたのでゲレタとベラは王都出禁にされてしまった。なのでゲレタの治療を望む者は、スタットの街に来るしかない。


「あ〜楽しい。誰かの為にご飯を作るのは楽しいわ。御者さん、すいませんけど、商店街に寄って下さる」


 これがゲレタの仕事である。ホープがまだ知らない、老女の真の姿であった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ