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「全く何て事かしら」
叔母はベッドに横になったリリィの額に手をやった。
「馬車が行ってしまったなら、必ずシリルが送り届けると言ったのはロッシュ家でしょうに!」
「リリィもリリィよ。雨の中、傘も無くて歩いて帰るなんて。もう、どうかしている。大体、時間に遅れてはいけないってあれ程言ったでしょう! 誰か他の人に頼めなかったのかしら。もう、全く!」
「学園の令嬢がたった一人で共も連れず、日の落ちた街を歩くなんて信じられない。何かあったらどうする積り?リリィ。私は亡くなった姉に顔向けが出来ないわ!」
叔母は捲し立てる。
「ダリア。そんなに怒ったらリリィが可哀想だ」
父親のアレン・ローズ伯爵が宥める。
「あなたがそんな風に緩いからリリィはいつまでたってもきちんとしたレディになれないのよ。ぼーっと本ばかり読んでいて。本当に呆れちゃう。姉さんと一緒! やる事も姉さんと一緒よ!」
そう言いながら叔母はちょっと宙を見てくすりと笑う。
「姉さんも、ぼーっと川を見て傘を落とした事があったわ。それでずぶ濡れで帰って来たの。両親にこっぴどく叱られていたわ」
リリィもくすくすと笑う。
「さあ、リリィ。温かいスープを持って来るわね。それを飲んでゆっくりと休みなさい」
「有難う。お義母様」
叔母はリリィの額にキスをして部屋を出て行った。
父はリリィの髪を撫でながら言った。
「学園はどうだい?リリィ。慣れたかな」
「ええ。まあまあ」
「友達は出来たかい?」
「ええ」
「明日、帰りにでもロッシュ家に寄って話を聞こう。次回もこんな事になったら困るから。……私が行かないとダリアが行ってしまって、折角の婚約を蹴散らしてしまうと大変だ」
そう言ってアレンは笑った。
「私が時間に遅れたのが悪いのだから。もう次からは決して遅れないわ。だから大丈夫よ。お父様」
リリィは言った。