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その頃、リリィは……。


 図書館脇の木陰のベンチでレナードとサンドイッチを食べながら話をした。サンドイッチはレナードのお弁当だ。彼はそれを分けてくれた。

「済みません」と頭を下げると、「いやいや、沢山あるから大丈夫」と言った。

「今日は是非君と一緒に会食をしようと思ってね。多めに作ってもらったんだ」

そう言いながら、ポットから紅茶をカップに注ぐ。

タッパーからシロップ漬けのスライス檸檬を取り出すとそれを紅茶に落とした。

「疲れている時には甘いものがいい。とても美味しいよ」

そう言ってカップをリリィに手渡した。

リリィはレナードの笑顔を見てほっとした。本当に温かい笑顔だった。



ミーナ・シャロンと名乗った女生徒はレナードの所にリリィを導くと、自分はどこかへ去って行った。

「じゃあね。お兄様」

彼女は手を振ってそう言った。

「お兄様? あの方は妹さんですか?」

リリィは言った。


「ああそうだ。妹がここの学園に留学に来たから僕はその付き添いで来たんだ。自分の研究も兼ねてね。何しろ、ここの蔵書は我が国と並んで近隣の国でもトップレベルだからね。高々子供の学園の癖に。生意気過ぎるよ」

レナードはそう言ってにっこりと笑った。

細い目がもっと細くなる。


「さて、リリィ。昨日の朝は何があったんだ? 君が泣いていた訳を教えてくれないか?」

レナードはそう言ってリリィを見た。

「……大した事では無いのです。あの、恥ずかしい話で……」

リリィは口籠る。


「僕の大切な図書館友を泣かせるとは許せん。僕なら話を聞いてアドバイスをする事も出来る。何故なら僕は君よりもうんと年上だからだ。色々な経験もしているし、勿論失恋も経験している。僕のアドバイスは実に有益だよ。うむ」

レナードは自分で言って自分で頷く。


「……君の婚約者は生徒会の役員だろう? 確か、シリル・ロッシュ侯爵令息。そして彼といつも一緒にいるガラス細工みたいに儚げな女性はアイスドール。大国ジャニス国の宰相の娘」

レナードは言った。

リリィは驚いた。


「君は昨日の昼に特別クラスへ行って大勢の上位貴族が興味津々で見ている中、アイスドールに素晴らしい礼をした。君のアホな婚約者に連れられてね。はっきり言って君には何の関係も無い奴らだ。全く関係が無い。外国からの留学生が殆どなのだから。みんな君がアイスドールに頭を下げるのを見たかったんだ。君がどんな振る舞いをするかをね。本当に嫌な奴らだよ。……僕は君の力になってやれるかも知れない。リリィ・ローズ伯爵令嬢。僕は君に提案があるんだ」

レナードはそう言ってリリィを見た。


◇◇◇



午後の授業が始まる予鈴が鳴った。

「午後の授業は何なの?」

シリルはランチから戻って来た女生徒に尋ねた。

女生徒は顔を赤らめて「す、数学です」と答えた。

数学なら戻って来るはずだ。

シリルは廊下でリリィを待った。


数学の教師がやって来た。

「おや、シリル。4年生が2年生の教室に何の用だね?」

「先生、リリィは数学の授業を取っていますよね?」

「ああ、取っている。取っていると言っても、私が頼んで取って貰っている様なモノだがな。分からない生徒に教えて貰っているんだ」

「リリィが教室に帰って来ていません」

「リリィ嬢なら先程教務室へやって来て、用が出来たから今日の授業はお休みさせてくださいと言いに来たよ。私は了解したのだが……」

「どこへ行ったか知りませんか?」

「それは聞いていないよ」

「分かりました。有難う御座いました」


シリルは礼をして立ち去ろうとすると教師は言った。

「シリル。リリィ嬢は数学に関しては素晴らしい能力をもっている。私は驚いたよ。

だが、それを誇る事も無く、控えめな態度で分かりやすく生徒達に教えてくれている。君はいい婚約者を手に入れたな。大事にするんだぞ」

「ええ。勿論です。有難う御座います」

シリルはそう言って去って行った。




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