13
リリィは洗面所に行って顔を洗った。
自分のさっきの態度を振り返った。
「ちゃんと笑顔で冷静に出来たわ。」
そう呟いた。
平常心でいなくてはと思った。何をするにも冷静さは必要だ。
けれど、また心から何かがひとつ剥がれて落ちる気がした。
こうやって痛みを伴って一枚一枚剥がれて落ちれば、いつかは恋しい気持ちも無くなって平気になるのかしらと思った。
リリィは髪を整え、口角を指で上げた。
「淑女はいつでも冷静に穏やかにするものですよ。何があっても慌てないの。鷹揚に構えているのよ。心の中はどうでも外に出してはいけません。常に笑顔を忘れてはいけませんよ」
母の声が蘇った。
「……今更、不信の種が一つ増えても変わりはしないわ」
リリィはそう呟くと教室へ向かった。
平静な顔をして授業を受けた。
それでも心の中はぽっかりと穴が開いたみたいだった。そこにすうすうと冷たい風が吹く。風は収まりそうになかった。
リリィは心の扉を閉める。
冷たい風を追い出すのだ。
―ぱたん。
もう大丈夫。もう平気。
ランチの時間になった。
外はいい天気だ。サンドウィッチでも買ってベンチで食べようかしらと考えた。
と、ドアの所できゃあきゃあと騒がしい声が聞こえた。
頬を紅潮させたクラスメイトがリリィに声を掛けた。
「ねえ、リリィ様。シリル様がお呼びですわよ。一緒にランチをしましょうって」
「ちょっと、こんな事って初めてですわ!」
まるで自分達がランチに誘われたみたいにはしゃいでいた。
リリィはドアの所を見る。
シリルが腕を組んでこちらを見ていた。