12
次の日、学園へ行ってクラスへ向かった。
リリィが姿を見せると数人が寄って来た。
風邪はもう大丈夫? シリル様が毎朝、リリィ様が登校しているかどうか確かめに来ていたわよ。などという話を聞いた。
「やっぱり、婚約者が心配なのよ」
「そうそう。ロメリア様の事は生徒会のお仕事なのよ。大切なお客人だもの」
羨まし気にそう言ってくれる友達の言葉に心が温かくなった。例え、それがその場限りのお世辞であっても。
シリルはやっぱり叔母様が怖くて家には来る事が出来なかったのかしらと思った。
生徒会室へ向かった。
生徒会室のドアの前を行ったり来たりして迷った。
結局ドアを叩く勇気が無くて、またランチの時にでも来ようと思った。私が来てもきっとシリルはロメリア嬢とランチを食べるのだろう。でもまあ元気になったという報告だけはしておこうと思った。
来週の週末にお茶会を開く。
その連絡は手紙で知らせようと思っていた。
迎えの者は必ず図書館まで来る事になっている。
もうシリルを頼る事も無くなる。そう思うとほっとした。
それに時間を気にしないで本が読める。
後で図書館に行って家の従者が来る事をナンシーに伝えて置こうと思った。ああ、そう言えば、折角借りたあの本、あの本はまだ読んではいない。あの本の借り出し延長は出来るのかしらと思った。
そんな事を考えながら歩いていたから特別クラスの廊下に辿り着いてしまった。
「あれ?……間違ったわ」
リリィは廊下を戻り始めた。
と、階段の下から声が聞こえた。
ロメリアの声だ。
「シリル、お迎え有難う。シリルが迎えに来てくれて嬉しかったわ。下校も宜しくね。明日もね」
リリィはドキリとした。
「学園への道の途中ですから構いません」
シリルの声がした。
リリィはそこに立ち竦んだ。
お迎え? 一緒の馬車で登校しているって言う事?
いつから?……知らなかった……
「だったら、ずっと一緒に登校しましょうよ」
「いや、流石にそれは……」
シリルが立ち止った。
驚いた様に前を見ている。
「リリィ……」
「えっ?」
リリィは固まった様に二人を見ていた。
ロメリアの腕がシリルの腕に絡まり、二人は寄り添う様に立っている。
そこから目が離せなかった。
リリィは立ち竦んでいたが、顔を上げるとゆっくりと階段を下りた。
二人に笑顔を見せて、「お早うございます」と言って頭を下げた。
そして何事も無かった様にゆっくりと階段を下りた。
シリルはそんなリリィを難しい顔で見送った。
リリィは階段を降り終えると足早に廊下を歩く。
涙が滲んで来た。
去って行くリリィを見ていたシリルにロメリアは「あの方が婚約者?」と尋ねた。
「はい」
シリルは答えた。
ロメリアはくすくす笑った。
「顔が引き攣っていたわ。(笑)。何か勘違いをしてしまったみたい。追い掛けなくていいの?」
「後でちゃんと説明します。ランチの時にでも」
「あら、じゃあ、私も一緒に行って説明するわよ。シリルは私のサポートをしているだけだからって。私がそう言えば、リリィさんも安心するでしょう?」
シリルは少し考える。
「それにこんなにお世話になっているのに、まだリリィさんにご紹介頂けないなんて、そんなのは駄目よ。礼儀にかなっていないわ。私はリリィさんとも良好な関係を築きたいの。だって、これから一年間お世話になるのだから。シリルだって毎回こんな風に誤解されたら困るでしょう?」
「……そうですね。確かに。……では、そうして頂けると助かります」
シリルは言った。
「じゃあ、早速、今日のランチでね。リリィ嬢を連れてお迎えに来てね」
ロメリアは言った。
◇◇◇◇
リリィは誰かにぶつかった。
下を向いていたから、人がいるのに気が付かなかった。
「おっと、大丈夫ですか?」
男性の声がした。
「あ、す、すみません」
リリィは顔を上げた。
「リリィじゃないか。どうしたの。泣いているの?」
リリィがぶつかった相手はレナードだった。レナードの後ろには学園の制服を着た女の子が立っていた
「何でもありません。……御免なさい」
リリィはそう言うと慌てて立ち去った。
レナードはその後ろ姿を見送る。
レナードの後ろにいた女生徒は音も立てずに階段を駆け上がる。
そっと上を窺う。
階段の上で何かを話しているシリルとロメリアが見えた。
「アイスドールと生徒会のシリルがいますわ」
戻って来るとレナードに告げた。
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