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結局、一週間も休んでしまった。
シリルは最初の日に来たけれど、それ以来やって来ない。
その代わりに毎日花が届いた。
メッセージカードには「昨日は用が出来てしまって済まなかった。早く元気になってください。今月のお茶会には必ず行くから。日にちが決まったら教えてください」とあった。
リリィはそれを引き出しに仕舞った。
「お茶会か……」
リリィは呟く。
月に一度のお茶会だが、シリルは前回途中で帰ってしまっている。
生徒会の用事があると言って。
シリルに会っても何を話して良いのか分からないと思った。
◇◇◇◇
今日はダリアとリリィでプランターに植物の苗を植えている。
ハニートマトである。
とても甘いトマトでリリィの大好物だ。
領地にいる時は、トマトをもいで井戸の冷たい水で洗ったら、そのままがぶりと食べた。
爽やかな甘さが口の中一杯に広がる。
その味が忘れられなくて、領地から苗を届けてもらったのである。
ハニートマトは市場にあまり出回らない。日持ちがしないし、完熟の物を食べるのが一番おいしいからだ。
二人とも農民の様な恰好をして麦藁帽子を被り、手には軍手をしている。
髪は無造作に束ねて首にタオルを巻いて移植ごてやスコップを持っている。
リリィは苗底に肥料を撒いた。
「シリル、来ないわね」
ダリアがぼそりと言った。
リリィはくすくす笑った。
「お義母様が脅かしたからじゃ無いの?」
「そんな事は無いわよ。私は真っ当な意見を言っただけです」
「ねえ。お義母様。こうやって土をいじっていると心が元気になる気がするわ。私、領地にいる時はよくこうやって花や樹木の苗を植えたわ。お母様と一緒に」
リリィがそう言うとダリアは笑った。
「ウチは農民の家系なのね。きっと。私も園芸は大好きよ。私も子供の頃からよくやって来たわ」
二人であはははと笑う。
「今日は学園はサボりだわね」
「明日からちゃんと行くわよ。一週間も寝ていたら元気になったわ」
楽し気な会話が続く。
「それにこんなに天気もいいのだし。勿体無いわ」
リリィは空を見上げた。
明るい顔をしたリリィをダリアは満足げに眺める。
「そう言えば、今月のお茶会はいつにするの?」
「じゃあ、来週の週末にでも。シリルの予定を聞いてみるわ」
「来月は星祭でしょう? ようやくリリィもデビューを果たすわね。社交界への第一歩よ。シリルにエスコートしてもらって、シリルとファーストダンスを踊ってあなたがずっと好きだった彼とまた仲良く過ごすのよ。シリルは学園を卒業したら1年間は幹部研修をする事が決まっているから、後はあなたの卒業を待って結婚ね」
そう言ってダリアは手袋を外してリリィの頬に触れる。
「あなたはね。とっても可愛いのよ。自信を持って。領地で一番に綺麗だと言われていた姉にそっくりだもの。私、随分姉に嫉妬したわ。頭が良くて綺麗で。穏やかで優しくて。でものんびりで、どこか抜けているのよ。あなたって抜けている所も姉にそっくりだわ」
そう言って笑う。
「当日はうんと綺麗に着飾って、周りのみんなをあっと言わせるのよ。楽しみだわ。……あら、いやだ。リリィ。頬に泥が付いてしまったわ」
「もう!お義母さんの手が汚れていたのでしょう」
リリィはそう言って顔を拭った。
「あら、嫌だ。余計に広がったわ」
そう言ってダリアは笑った。
その時に馬車が庭に入って来た。