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『人から向けられた願いを叶えます』蒼刻の魔術師ディランと一途な白猫のジゼル  作者: 雪月花


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96:ジゼルの願い事


 僕は絶え間なく続く胸の痛みに、ただ身を丸めて耐えていた。

 意識の輪郭がぼやける中で、気が付けばジゼルが手を握ってくれている。

 

 彼女の手の温もりが、不思議と心を穏やかにし、小さく息をはく。

 けれど、誰かに喋り続けるジゼルの様子が気になって、僕はそっと目を開けた。


「ジゼル? ……何をしているの?」

 

 僕の問いかけに、ジゼルはただ幸せそうにほほ笑んだ。


 すると次の瞬間、蒼い光に僕らは包まれた。

 蒼い月の夜じゃないのに。


 僕は嫌な予感がしてたまらなかった。


 ……なんで?

 なんでメアルフェザー様の気配を感じるんだろう?

 これじゃあまるで……

 蒼願の魔法をかけている時みたいじゃないか。


 僕は、ジゼルがまたどこかに行ってしまうような不安にかられ、眩しさに目を閉じながらも、彼女の手をしっかりと握りしめた。




 ーーーーーー


 蒼い光が収まったころ、僕はゆっくりと瞼を持ち上げた。

 それと同時に、胸の痛みが綺麗さっぱり無くなっているのに気付く。


 嫌な予感が確信に変わり、僕は飛び起きた。


「ジゼル!?」


 彼女は僕のすぐ横で、手を繋いだまま倒れていた。


「…………っ」

 僕の目から勝手に涙があふれ出た。

 ジゼルの背中に手を差し入れて、上半身を抱き起こす。

 ぼやける視界の中、こみ上げる涙を飲み込んで、彼女の顔を覗き込んだ。


「ジゼル……ジゼルッ!」

「………………んっ」

 

 僕が必死に呼びかけると、ジゼルが微かに眉をひそめた。

 彼女は意識を失っていた。


 ……魔法を使い過ぎたんだ。

 操られて僕と戦っていた時や、そのあとの回復魔法。

 そして、さっきの蒼い光の魔法……


 僕は何かを探るように、ジゼルの顔を見つめ続けていた。

 すると突然、彼女が顔を歪めた。

「ぅ、あぁっ……!」

 無意識に僕に寄りかかって縮こまり、体を震わせる。


「ジゼル!?」

 さっきまでの僕と同じように、ジゼルが胸を押さえて痛がった。

 思った通り、ジゼルに僕の呪いの魔法がうつっていたのだ。


 ……さっきのジゼルの独り言。

 メアルフェザー様に、喋りかけているようだった。

 おそらく蒼願の魔法で、ジゼルの願いを……僕の呪いが彼女にうつるように、叶えてもらったのだろう。


 ジゼルがどうやってそんな魔法を使えたのかは分からない。

 でも今はそんなことより、ジゼルの体の方が心配だった。

 

「なんで、こんなことを……」

 僕はジゼルを抱きしめて涙をこぼした。

 

 嘆きながらも、本当は痛いほど分かっていた。

 ジゼルは、飼い主であるウィリアムの願いをその身で叶えたように、大切な人を思いやって自分を平気で犠牲にする。

 

 だから僕を救ってくれたんだ。

 ジゼルが身代わりになって……



 けど、僕はそんな君が大好きなんだ。

 僕の代わりに死なないで。

 

 本当はずっとずっとそばにいたいんだ。

 ジゼルを幸せにしてあげたいんだ。

 なのに、うまく出来なくてごめん……

 

 こんな僕だけど、ジゼルをどうしようもなく愛しているんだよ。


「…………」

 僕はジゼルを強く強く抱きしめた。




 **===========**


 レックスが率いる王宮の兵士たちは、ダレンを連れて撤収していった。


 僕たちもひとまず家に帰ることにし、ジゼルを心配したホリーとルークも付き添ってくれた。

 家に着くとホリーがジゼルを着替えさせてくれたので、そのまま僕の部屋のベッドに横たわらせた。

 その間もジゼルはずっと眠っており、時折り苦しげに顔をしかめ、弱々しくうめく声をもらすだけだった。


 翌日から僕は、いろいろな人に〝呪い〟を解く方法を聞いて回った。

 けれど、みんな首を横に振るばかり。

 ホリーやルークも手伝ってくれたけれど、いい知らせは無かった。


 


 少しでも時間があれば、僕はジゼルの眠るベッドの縁に腰を下ろし、苦しむジゼルの顔を見つめていた。

 彼女は魔力を使い過ぎたせいもあってか、あれから1度も目を覚まさなかった。

 ふとした時に苦しそうに身をよじり、唸るのは変わらない。

 ジゼルは目に見えて、日に日に弱っていった。


「はぁ……」

 僕はジゼルの頬にそっと手を当てた。

 ダークブラウンの髪が、じんわり浮かぶ汗で張り付いている。

 それを優しく手櫛を通すように取ってあげた。

 

 ……残るは、僕の蒼願の魔法が頼みの綱なんだけど。


 僕はチラリと窓の外を見た。

 夕暮れに差し掛かっている空が、夜の準備を始めている。

 蒼い月が出る予測は5日後。

 それまでジゼルがもつかどうか……


 僕は、ジゼルが死んでしまう未来を想像してしまい、じんわり涙を浮かべた。


 その時、部屋のドアが控えめにノックされた。

 僕が涙を拭いながら返事をすると、手伝いに来てくれていたホリーが顔をひょっこりと覗かせる。

「……そろそろ帰るね」

「うん。いつもありがとう」

 僕はベッドから立ち上がって、彼女を見送ろうと一緒に階段を降りた。


 1階につくと、同じく様子を見に来ていたルークと鉢合わせた。

 僕の顔を見ると「ちょうど良かった」と少し焦っている彼が続ける。


「ディランを訪ねて誰か来てるぜ。しかも〝リック〟って呼ぶもんだから、初めは誰か分からなかったし」

「ありがとう。ディランに似た名前の知り合いがいるからって、僕の苗字をもじって〝リック〟って呼ばれてるんだよね」

 ジゼルのことで気が滅入っていたけれど、その変わったあだ名を聞いて、ほんの少しだけ笑みがこぼれた。


 僕のことを〝リック〟と呼ぶ人は1人しかいない。


「ルークとホリーも来て。多分美味しいお菓子を振る舞ってくれるから」


 そう言って先に店へと向かう僕の背後で、ルークとホリーは見つめ合って首をかしげていた。

 




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