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『人から向けられた願いを叶えます』蒼刻の魔術師ディランと一途な白猫のジゼル  作者: 雪月花


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93/165

93:蒼刻の魔術師ダレン 


 ダレンは隣の女性をチラリと見ると、また僕たちに目線を戻した。


 僕は思わず辺りを見渡した。

「……ジゼルはどこ?」

 どこにも白猫の姿なんてなかったからだ。


 ダレンがそんな僕を嘲笑(あざわら)う。

「ハハッ。どこって目の前にいるじゃないか」

「え?」

 僕だけじゃなく、後ろで見守るホリーとルークもハッとした。

 僕らの視線が自然と女性に集まるなか、ダレンが楽しそうに笑いながら彼女のフードを脱がした。


「…………」

 中からは可愛らしい女性が出てきた。

 淡い灰色の神秘的な瞳は常に(うつ)ろで、顔を伏せてぼんやりとする様子は、自分の足先を熱心に眺めているようにも見えた。


 彼女を一目見たルークが声を上げる。

「変なこと言うなよ。ジゼルちゃんとは全然違うじゃないか」

 ダレンが余裕の笑みを浮かべて返事をした。

「……変なことって失礼だよなぁ、ディラン? 俺は貴様の真似をして、この魔力が異常に高い白猫に、偉大な魔術師の人格を入れ込んだだけなのに」


「!!」

 僕は目を見張ってその女性を見た。

 彼女は相変わらず、さっきから同じ場所をぼんやりと眺めている。


 言葉が出ない僕に代わって、ホリーが叫ぶ。

「なんてことを!? 人格を入れ込んだ?? ジゼルの意識はどうなっているの!?」


「さあね。ただ言えることは、今のこいつは〝無彩の魔術師クロエ〟だ。俺の願いを蒼願の魔法で叶えたんだよ」


 名前を呼ばれたからか、ぼんやりと立っていただけの女性が、ゆっくりと顔を上げてはるか彼方(かなた)を眺めた。

 けれどその瞳には何も映そうとはせず、ただただ遠くを眺めている。


 ……無彩の魔術師。

 歴史上、1人しか存在しない。

 別名『呪いの魔女』


 魔術師なら戒めも込めて1度は習う、遠い昔の伝説の人物だ。

 当時の国王に加担した魔術師クロエは、戦争で勝ち進めるために、多くの罪のない人を呪い殺した。

 そして最後は、国王を始め味方をしていた国民たちをも呪い殺し、大国を一夜にして滅ぼした逸話が残る。


 魔法の威力も恐ろしく高く、呪いの魔法を専門とする魔術師。

 それがーー無彩の魔術師クロエ。


 けれど目の前の可憐な女性は、そんな怖い存在には見えなかった。


 ジゼルは、本当に()()()()()()の姿に変わっているのだろうか?

 ダレンが〝人格を入れ込んだ〟と言ってたけど……

 ジゼル・フォグリアの時は記憶を授かっただけで、あくまで猫のジゼルがベースだった。

 今回は……?


 動揺と、そんな非人道的なことをしたダレンへの怒りがふつふつと湧き上がる。


「ジゼル……」

 気付けば僕は、彼女の名を呼んでいた。

 そこにいるのが、本当にジゼルなのか確かめたくて。


「…………」

 けれどジゼル(クロエ)は遠くを見つめたまま、瞬きをしただけだった。




「ハハハッ! 無駄だよ。無彩の魔術師は呪いの魔法以外は使えないそうだから、ジゼル・フォグリアの人格も残してある。それがどういうことか分かるか?」

 ダレンがニタニタ笑った。

 やっぱり彼は、ジゼル・フォグリアの時に人格を入れ込んだと勘違いしていた。

 無言のままの僕に、ダレンが続けて喋る。


「こいつの中には、自分も入れて三つの人格が詰まってるんだ。まともな意識でいられるわけがない。だから俺の言いなりにもなる……こんな風にな!!」

 ダレンがジゼル(クロエ)の肩に手を置き、耳元に顔を近付けた。


「あそこにいる魔術師は敵だ……燃やし尽くせ!」

「…………〝炎よ燃えろ(フローガ)〟」

 透き通った高い声が、広場に響いた。

 ジゼル(クロエ)の目の前に炎が現れて、意思を持った生き物かのように僕たちに向かってくる。


「〝防ぎ守れ(アミナ)〟!!」

 僕は防御魔法を展開した。

 たちまちそれごと、炎の渦に飲み込まれる。


「くぅっ!!」

 透明な防御壁に守られてはいるけど、熱くてたまらない。


 火力がすごいっ!

 後ろの2人は!?


 炎が消え始めてから後ろを振り向くと、防御壁を張ったホリーの背後に、ちゃっかり隠れたルークが見えた。

 どうやら防御魔法が苦手なルークの分まで、ホリーがカバーしたらしい。


「2人とも、もっと離れて!!」

 僕が叫んだのと同時に、また透き通った声が聞こえた。


「〝雷よ降り注げ(ケラヴィノス)〟」


「っ!!〝防ぎ守れ(アミナ)〟!!」

 僕の防御魔法が展開された直後に、雷が轟音(ごうおん)を立てて降り注いだ。

 雷鳴がやんだあとに、ダレンの楽しそうな笑い声が響く。

 

 彼がからかうように言った。

「守ってるだけじゃ、どうにもならないぞ」

「卑怯よ! 何で恋人同士を戦わせるのよ!? 自分が戦いなさいよ!!」

 遠くに避難したホリーが声を荒げて言い返す。


「俺じゃディランを倒せないからな。けれど気付いたんだよ。貴様さえ居なくなれば、蒼刻の魔術師の中で俺が1番になるからな!!」

 ダレンが僕を鋭く睨んだ。 

 殺意のこもった視線に、思わず恐怖を抱く。

 けれど同時に、わずかな違和感を感じ取っていた。

 

 ……何かが、今までのダレンと違うように感じる。

 いつも僕の上に立っていたいって気持ちに、狂気が加わったような……


「ディラン! 危ないぞ!!」

「!! 〝防ぎ守れ(アミナ)〟!!」

 

 ルークに言われて、僕は慌てて防御魔法を展開した。

 次の瞬間、吹雪が襲いかかる。

 ぎりぎりで防御壁が張られ、僕は冷や汗をかいた。




「……ハァ……ハァ……」

 どうにか塞ぎ切ると、大きく肩で息をつき、ジゼル(クロエ)の様子を窺った。

 彼女の重い一撃を何度も防いだ僕は、すでにかなり消耗していた。


 対するジゼル(クロエ)は、高威力の魔法を連発したというのに、平然としていた。

 相変わらず焦点の定まらない(うつ)ろな瞳で、遠くを見ている。

 その隣に立つダレンが、退屈そうに僕を見て言った。


「……このままジリジリと追い詰めるだけじゃ、面白くないな」

 ダレンがジゼル(クロエ)の肩をグイッと引き寄せて、耳元で告げる。

「さぁ、あの魔術師……ディランを呪い殺せ」

 

 命令を受けたジゼル(クロエ)がゆっくりと口を開いた。



 


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