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『人から向けられた願いを叶えます』蒼刻の魔術師ディランと一途な白猫のジゼル  作者: 雪月花


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92/165

92:ジゼルの行方 


「ディランの意気地なし!!」


 僕との話し合いでとうとう怒ったジゼルが、店を飛び出していってしまった。


「…………」

 あとに残された僕は、仕方がないとため息をつく。

 本心を告げてしまうと、こうなるだろうなとは予想していた。


 ジゼルが1人で外に出たことは、もちろん心配だった。

 でも……じきに魔法が切れて猫の姿に戻る。

 そのままひらりと塀を渡り、夜の闇へとすぐに溶け込んでしまうだろう。

 なにより、僕たちにしては珍しく感情がすれ違った直後だったから、追いかける気力がどうしても湧かなかった。


 ーーーーーー



 ……結局、次の日になっても、ジゼルは帰ってこなかった。

 だいぶ怒っていた彼女は、ホリーの所にでも上がり込んでいるのかもしれない。

 さすがに愛想を尽かされたのかもね、と自嘲(じちょう)していると、そのホリーが僕を訪ねてきた。


「ジゼル? 補助魔法をかけてから来てないけど?」

 お店の談話スペースのソファに座り、僕が振る舞った紅茶を飲みながらホリーが答えた。

 僕もその向かいに腰を下ろし、紅茶のカップを手に取る。

「そう……なんだ……」

 じゃあどこにいったんだろうと、動揺した僕の心臓が跳ねる。


 そんな僕の様子を見て、ホリーが(いぶか)しんだ眼差しを向ける。

「え? ジゼルがまた行方不明なの?」

「……そうと決まったわけじゃないけど。昨日、話し合いの途中でジゼルを怒らせちゃって……飛び出して行ったまま、帰ってきてないんだ」

 僕は視線を泳がせながら答えた。


 ますますホリーが眉をひそめる。

「え? 飛び出していったのに追いかけなかったの?? しかも、まだ人にしてないの??」

「…………」


「昨日ジゼルに事情を聞いて、心配になって来てみたらこれだよー」

「…………」


「はぁー。探しにいこっか。その前にさぁー」

 ホリーが大きなため息を、嫌味ったらしくはいた。

 そしてカップとソーサーをテーブルの上に戻すと、キッと睨むように僕を見る。


「ちゃんと人に戻してあげて、幸せにしてあげなよ。前に言ってたよね。ジゼルを人にしたのは自分だから、絶対に幸せにするって」

「……そうだけど、事情が変わったんだ。僕が目立ち過ぎたせいで敵も増えた。その悪意が、ジゼルにまで向いてしまうから……」


「だからって猫にしておくの?? うーん……ディランの気持ちも分からなくは無いけど……過保護だねー」

 ホリーが腕を組んで考え込んでから言った。

「どんな時でも守るしかないんじゃない?」


「…………守れるほど強くないから」

 僕は弱々しく答えた。


「え? 守りたいから、いつもあんなに、強くなろうとしてるんじゃないの?」

「え?」

「え??」


 話が噛み合わずに、僕とホリーがきょとんとしている時だった。

 目の前が突然光ったかと思うと、ゴールドに輝く文字が宙に現れた。

 まるで見えないペンで空中に書かれているかのように、黄金の文字がひとつずつ浮かんでくる。

 僕はそれを読みながら目で追った。


「……伝達魔法?」

 ホリーがそう呟くと、僕の隣に座り直した。

 こちら側に座らないと、文字が反転して読みにくいからだ。

「そのようだね……ダレンからだ。何だろう?」


 僕とホリーは静かに読み進めた。

 けれど途中で彼女が驚いたように声をあげる。


「ジゼルが!?」

「…………」

 僕も眉をひそませながら、続きを読んだ。


 ジゼルは昨日飛び出したあと、ダレンに捕まっていた。

 ダレンの手紙には、白猫のジゼルを()()()()()()から、今夜、大聖堂の前にある広場まで受け取りに来いと書かれていた。

 自分に勝てたら返してやるとも……


 …………


 僕の瞳に、黄金の文字が映る。

 じっと見つめていると、やがて光が弱まり、文字は静かに消えていった。


 一緒にそれを見届けたホリーが、僕に振り向き聞いてくる。

「魔法勝負かな?」

「……おそらくね」


「だったら勝てるんじゃない? ディランの魔法の方が強いでしょ?」

「ホウキのスピード対決の時に、それはダレンも分かってる。だから、そう簡単にはいかないと思う……」


「うーん……でも勝つしかないよね? ジゼルがかかってるんだし」

「…………」


「え? そこ無言? やめてよー」

 ホリーが背もたれにのけ反るように、天井を仰いだ。

 僕は苦笑して答える。


「同じ蒼刻の魔術師だから、極力争いたくないんだけどね」

 するとホリーが「あっ」と何かに気付き、僕を見た。

「私、思ったんだけど……」

 眉をひそめた彼女は、言葉を選ぶように一拍置いた。


「ジゼルが猫の姿でも結局さらわれてるよね」

「…………」

「もう人でも猫でも一緒じゃ〜ん!」

 そう言い放ったホリーに、背中をバシバシ叩かれる。


「いたた……けど、ダレンのところにいてくれて良かった」

「まぁそうだねー」


 僕らの間に、ジゼルが見つかってほっとした空気が流れる。

 ダレンとは反発し合いながらも、この前の対決でわいわい騒いだ事もあって、ちょっとした友達感覚でいたからだ。


 けれど、もうあの頃のダレンじゃなくなっている事を、この時の僕らは知る(よし)もなかった。




 **===========**


 この街に古くからある大聖堂。

 その名の通り、見るものを圧倒させるほど大きくて美しく、(おごそ)かな聖堂だ。

 

 その聖堂の前は大きな広場になっていた。

 月明かりに照らされた広場は、白銀の光を受けて、美しい模様を描くタイルを一つ一つ浮き立たせている。


 ここなら魔法を放っても、人に迷惑をかけずに済むんじゃないかな?

 …………多分。

 だからダレンは、ここを選んだのかも?


 そんなことを考えながら、僕は広場の中央に立っていた。

 少し後方には、応援に来てくれたらしいホリーと……

「俺もホリーに呼ばれて来てやったぜ!」

 ルークがニッと笑って立っていた。


「……2人とも、ちょっと楽しんでるでしょ?」

 僕はジトッとふたりを交互に見た。


「だって〜、ジゼルをかけたディランとダレンの戦いなんて、熱いじゃん」

 ホリーがニヘラと笑う。

「ディランが負けたら、次は俺が戦ってジゼルちゃんを取り返すからな!」

 戦い好きな黒の魔術師らしい発言を、ルークがここぞとばかりに口を挟んできた。


「…………まったく」

 僕は苦笑にも似た、ため息をついた。


 


 僕らが適当に談笑していると、2人分の足音が近付いてきた。

 音がする方に振り向くと、月明かりの届かない路地裏からダレンが歩いてくるのが見えた。

 誰かの手を引きながら。


 彼らが広場まで出ると、月明かりに照らされて、ようやくその姿が(あら)わになった。


 ダレンの後ろの小柄な女性は、灰色のローブをまといフードを深く被っていた。

 ダークブラウンの髪の毛が、肩の前に垂れており、歩くリズムに合わせてフワフワ揺れる。


 …………

 何故だか胸騒ぎがする。


 僕はその女性から、目が離せなくなってしまった。


 ダレンが距離を取って僕の向かいに立つと、手を引いて女性を自分の隣に引き寄せた。

 彼女は覚束(おぼつか)ない足取りで彼に従う。

 そして位置につくと、ダレンは彼女から手を離した。


「待たせたな。さぁ、始めようか」

 

 彼が得意げにニヤリと笑った。

 

 


 

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