表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『人から向けられた願いを叶えます』蒼刻の魔術師ディランと一途な白猫のジゼル  作者: 雪月花


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

74/165

74:ジェマとレイ


 決心を固めたジェマが、しっかりと僕を見て告げる。

「レイを人間にして下さい! 大変なことを理解しました。けど、レイとお喋りしたいし……寿命を私と同じにしたいんです!」


 ……愛するペットを人間にしたい。

 その気持ちの行き着く先はーー

〝自分と共に長く生きて欲しい〟


 そして愛されているペットは、大抵飼い主に対して『ずっと一緒にいたい』と思っている。

 だから成立してしまう。

 蒼願の魔法の条件が。


 慎重になるべき問題だけど、ジェマの思いは強く、レイにとってこの魔法が呪いになるかどうかの判断は、非常に難しい。


 ……でも、優しい飼い主なら、後でペットが元に戻りたいと考えるようになったら、気持ちが同調する。

 それが強い思いにまで育つと、また魔法で戻してあげるような事もあった。


「分かりました。ではこちらの契約書にサインをお願いします。その前に一通り契約内容を説明させていただきますね」

 僕は右手の上に魔法の契約書を出現させた。

 そしていつも通りに、契約内容を丁寧に説明していった。




 **===========**


 僕は店の扉を開けて、ジェマと青年の姿になったレイを外へ通した。

 そのあとに僕とジゼルも続き、彼女たちを見送りに出る。


 蒼い月明かりの元、幸せそうに笑うジェマとレイの姿があった。

 丸っこいもふもふだったレイは、ふわふわパーマの人懐っこい笑みを浮かべる男性になっていた。

 ジェマは自分より背丈が高くなったレイに、腕に抱きつかれたまま僕に頭を下げる。


「ありがとうございました」

「どういたしまして。何か困ったことが起きたら、いつでも相談しに来て下さいね」

「はいっ」

 ジェマがずっとニコニコしているものだから、レイも彼女の顔を覗き込んで笑っている。

 もし尻尾があれば、パタパタ振っていそうな様子だった。


 2人は僕たちにくるりと背を向けると、ゆっくり歩き始めた。


「レイ、もう少し自分で立って歩いてくれる?」

「……後ろ足だけで歩くの怖い」

「そっか」

「あと、眠くって」

「いつもは眠っている時間だもんね」

「……時間?」


 ジェマとレイは、楽しそうにずっとお喋りしながら去っていった。

 僕とジゼルは、その小さくなっていく背中を静かに見つめてから、店の中に入った。




 ジェマたちに出していたティーセットを片付けながら、僕はジゼルに声をかけた。

「今日はもうお客様が来ないだろうから、ちょっとリビングで話そうか」

「?? うん。分かったよ」

 ジゼルが不思議そうに(まばた)きしながらも、こくりと頷いた。


 片付けを終えた僕たちは、リビングのソファに隣り合って座った。

 心なしか緊張しているジゼルに向かって、僕は優しく問いかける。


「ジゼルにずっと聞きたかったんだ。本当にこのまま人間でいたい?」

「…………どういうこと?」

「ウィリアムさんの願いで人間になったでしょ? ジゼルの願いじゃないよね」

「…………」

 無言になったジゼルが、その穏やかな青い瞳を真っ直ぐ僕に向けた。


「ごめん。気になってたんだけど、ウィリアムさんを亡くしたばかりに聞くのは、可哀想だと思って……しばらく時間を置いてから、きちんと確認したかったんだ」

 僕がそう熱心に告げると、ジゼルは僕を見つめたまま、静かに涙を流した。

「確かにウィリアムの願いで人間になったけど……私、ディランのことが大好きだから、人間のままでずっと一緒にいたい。ディランは私が猫に戻っても平気なの?」


 僕は慈しむようにほほ笑むと、彼女の涙を人差し指で優しく拭って返事をした。

「だから……ジゼルが望むなら、僕が猫になってもいいんだよ?」

 メソメソ泣いていたジゼルがピタリと止まる。

「私が猫に戻りたいって言ったら、ディランも猫になるってこと?」

「うん。僕もジゼルと、これからもずっと一緒にいたいから。人間でも猫でも、僕のお嫁さんになって欲しい」

「!! ディランッ!」

 ジゼルが僕に飛び込むように抱きついてきた。


 しっかり抱き合うと、笑い泣きしている彼女の声が僕の耳をくすぐる。

「嬉しい! しかも私のために猫になってもいいだなんて、すごくディランらしくって優しい言葉だね! あははっ!」

「そこで笑っちゃう?」

「だって、ディランと2人で猫になるだなんて、思ってもみなかったから」


 ジゼルが本当に嬉しそうに笑い、体を揺らした。

 そんな彼女の顔を覗き込むと、ジゼルはニマニマと笑いながらこちらを見つめ返す。

「それでどうする? 猫と人間どっちがいい?」

「このままがいい。その方が長い時間(トキ)を、ディランと過ごせるでしょ?」

「そうだね。じゃあこのままで……」

 

 僕はジゼルに顔を近付けて目を閉じた。

 彼女の唇にキスを落とすと、ゆっくり顔を離してお互いをじっと見つめ合う。

「…………」

「…………」




「すみませ〜ん」


 その時、ドアノッカーを控えめに叩く音と、誰かが訪ねてきた声がした。

 僕とジゼルは揃ってビクッとした後に、いそいそと扉に向かった。


「はーい」と言いながら扉を開けると、さっき帰っていったはずのジェマとレイが立っていた。

 眉を下げたジェマが、窺うように上目遣いで僕を見る。


「早速でごめんなさい。レイがトイレの仕方が分からなくて困っていて……」

「あー……分かりました。僕が説明します。レイはこっちにおいで」

「うん」

 レイは素直に僕のあとをついてきた。

「すみません」

 ジェマが恐縮して身を縮こませている。

 僕は笑い返しながら、生活スペースの奥へと彼を案内した。


「ジェマさん、こちらで待っていましょう」

 ジゼルが談話スペースのソファに案内し、2人はそこに座ることにした。

「…………」

 ジェマが腰掛けながら、物言いたげにジゼルを見つめる。

 それに気付いたジゼルは思わず弁解した。

「猫の私は、蒼い月の日に魔術師となら喋ることが出来たんです。それで飼い主の元にいた女性の魔術師に、トイレの仕方を説明してもらいましたよっ!」


「そうなんですね……他の難関はなんでしょうか?」

 ジェマは予想していなかった出来事に、戸惑いの表情を浮かべていた。

 

「うーん…………」

 ジゼルはジゼル・フォグリアの記憶が宿ってからは、とくに困ったことはなかったけれど、それでも考えられることを挙げてみた。


「……お風呂とかでしょうか」

「すみません。また来るかもです」


 ジェマが両手で頭を抱え込んだ。

  

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ