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『人から向けられた願いを叶えます』蒼刻の魔術師ディランと一途な白猫のジゼル  作者: 雪月花


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72:空飛ぶレース


 お(とが)めを受ける心配をしながらも、矢が飛んでこなくなり僕の気が緩んだ時だった。


 ガンッ!と、とびきり力強い矢が魔法陣に当たった。


「うわっ!」

 僕の顔を狙った軌道だったので、反射的に身を(かが)めてしまう。


 隣のジゼルが慌てて叫んだ。

「タナエル王子だよ! すっごく怒ってる……」


 矢が飛んできた方を見ると、庭園にタナエル王子が仁王立ちしていた。

 ものすごく僕を睨んでおり、矢を構えてこちらに狙いを定める。

 薄っすら黒いオーラが見えそうなほど、禍々(まがまが)しい……

 そばにはお茶会中だったのか、ティーセットを前に1人で席につくミルシュ姫がいた。

 彼女の隣には空の席があり、さっきまでそこに座っていたであろう王子を、姫が苦笑しながら見つめている。

 

 その時、2発目の矢が放たれた。

 またガンッ!と大きな音を立て一瞬宙で止まった矢が、下へと引っ張られていく。


 もしかして、ミルシュ姫との時間を邪魔されて怒ってる?

 

 僕は王子たちに向かって手を掲げ、呪文を唱えた。


「〝花びらの乱舞(ペタロフォロス)!〟」


 途端に色とりどりの花びらが空に出現し、タナエル王子とミルシュ姫に優しく降り注いだ。

 その花吹雪に歓喜したミルシュ姫が、手のひらで花びらをそっと受け止める。

 思わず顔を綻ばせると、目を輝かせて宙を見上げた。

 その可愛らしい様子を見たタナエル王子がふっと息を吐くと、仕方なさそうに矢を下ろした。


 僕はなんとか(しの)げたと肩の力を抜いた。

 感心したジゼルが、花吹雪を熱心に見つめて表情を華やげる。


「すごい! こんな魔法があるんだぁ」

「僕の母さんは緑の魔術師だから、子供の時によく見せてくれた魔法なんだ」

「そうなんだ。とっても綺麗!」

「今思うと、僕の元気が無かったり機嫌が悪い時に、披露してくれてた気がする」

「フフッ。タナエル王子のご機嫌取りも出来たし、素敵な魔法だね」


 僕とジゼルは顔を見合わせて笑い合った。

 いつものように、ほのぼのとした空気が流れる。

 けれど、瞬く間にビュンビュンとみんなに追い抜かれてしまった。


 呆れたルークが抜き去りながら、僕に捨て台詞を吐く。

「デートじゃないんだぞー」


「「…………」」


 僕とジゼルは、少し間を置いてから、慌ててスピードを上げた。




 王宮を無事に回り終えると、あとは僕の家に戻るだけのコースに入った。

 すると、ダレンがわざわざ僕の横に並んで言い放つ。


「貴様、手を抜いているだろ! 俺と真剣勝負しろ!!」

「……いいよっ!」

 快諾した僕は、前を見据えてスピードを速めた。

 ダレンも負けじと猛スピードを出す。


 けど僕は、蒼願の魔法で強化してるからーー

 

 僕はニッと笑って更にスピードを出した。

 風を切る音しかしなくなり、中庭にいるクシュ姫が手を振っているのが小さく見えた。

 その姿が、一気に目前へと迫ってくる。 


 本気を出すと、気持ちいいほど速く飛べた。

 前を飛ぶみんなをあっという間に追い抜いて、中庭に滑り込んだ。


「僕が1番だよね?」

 ニコニコしながらホウキから降ると、クシュ姫達の元に駆け寄った。


 けれど彼女は困り顔をしており、隣のセドリックも同じような顔をしていた。

 きょとんとする僕に、クシュ姫がゆっくりと口を開く。


「1番は…………レシア」

「え?」

 その時、すぐ隣でレシアの声がした。


「ごめんねディラン。王宮を出てダレンと競い出したあたりから、幻覚魔法をかけていたの」


 僕は反射的に声がした方を向いた。

 けれど、どこにもレシアはいなかった。


「あれ? レシア?」

「……〝元に戻せ(アキュロシ)〟」

 再びレシアの声がそばで聞こえると、僕の見ている風景がガラリと変わり、目の前にレシアとルークが現れた。

 同時に、頭の中がすっと晴れて、今まで何かに干渉されていたことにようやく気付く。

 ハッとして空を見上げると、ダレンとジゼル、それにホリーが同じ場所をグルグルと……()()()()()()()

 あんぐりと口を開けた僕は、レシアを穴が開くほど見つめた。

「……みんなに幻覚を見せて、その隙にレシアがゴールした?」


 レシアが嬉しそうに、はにかんで笑う。

「そうなの。エヘヘ」

「ルークは?」

「俺はたまたま、魔法用の防御魔法を自分にかけてたから効かなくて。おかげで2番だぜ」

 ルークがニヤリと笑った。


 …………

 最後はレシアに譲ってあげたんだな。

 カッコつけて。


 僕には彼の考えが手に取るように分かった。


 ルークのスピードならレシアに負けないはずだけど、彼が2位ということは……

 そう言うことなんだろう。


 空をグルグル飛ぶ3人も、幻覚魔法が解けて次々に降りてきた。

 ジゼルが僕の横に降り立ち、明るく笑う。

「あー負けちゃった! けど、楽しかったね」

「そうだね」

 僕も笑い返していたけれど、ふと見ると、ダレンが不機嫌そうに離れた場所で立っていた。




 僕は彼に近付きつつ声をかけた。

「僕たち揃って負けちゃったね」

「…………」

「引き分けかな?」

「……蒼の魔法以外も強くなったのは、本当だったんだな」

 彼が僕を恨めしげに睨む。

「…………ごめん。蒼願の魔法で強くしちゃったんだ」

「謝られても嬉しくない!! せっかく……蒼の魔法以外は俺の方が強かったのに!!」

「…………」


 ダレンの悲痛な叫び声が響き渡り、中庭が静まり返った時だった。


「失礼しますっ!!」

 突然、王宮の兵士が数名なだれ込んできた。

 そして唖然としている僕の両腕を、兵士がそれぞれ抱えて外へ連れ出そうとする。


「え? 連行!?」

 引きずられる僕が抗議の声を上げると、兵士の一人が申し訳なさそうに僕を見た。

「王太子様の命で、すぐに連れてくるようにと……」

「……僕だけ?」

「はい」


 僕は慌てて振り返りジゼルに伝えた。

「タナエル王子に怒られてくるだけだからっ!」

「……いってらっしゃい」

 ジゼルが眉を下げて笑いながら手を振った。


 


 ディランが見えなくなると、ジゼルは手をスッと下ろした。

 それからジトリとした目に変わる。


「…………また、取られちゃったなぁ」


 むくれたジゼルが、ポツリと呟いた。

 

 


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