表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『人から向けられた願いを叶えます』蒼刻の魔術師ディランと一途な白猫のジゼル  作者: 雪月花


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

71/165

71:空飛ぶレース


 6人が同時に空へと舞い上がる中、ギュンとひときわ速く、ルークが飛び出していった。

「へへ! 飛ぶのは得意なんだよなっ」


 それを見た2番手のホリーが、ルークの背中に手を向ける。

「〝雨よ降り注げ(ボーラ)!〟」

 彼女が呪文を叫ぶと、ルークだけに雨が激しく降り注ぎ、彼はたまらず失速した。


「うわっ、びしょ濡れじゃん!」

「お先〜」

 ホリーがルークの横を優雅に通り抜けて行く。

 それに続いて僕とダレンもルークを追い越した。


「あ、ずっる!」

 後方になったルークから、慌てて魔法を解除する呪文が聞こえた。


 すると今度は、僕の背後からダレンから声がした。

「〝風よ吹け(アネモス)!〟」


「うわっ」

「キャッ!」

 僕とホリーに逆風が吹く。


「フフン」

 遅くなった僕たちを、ダレンが鼻で笑い追い越した。

 それをジゼルが追いかける形で、僕の横を通り抜けていった。


 前から吹き続ける風に、僕が思わず顔を背けると、1番後ろにいるレシアが目に映った。

 ホウキに横乗りし、ゆったりと風に乗って飛ぶその姿は、順位を競っているようには全く見えない。

 大人なレシアは、レースに付き合いながら、僕たちを見守ってくれているのかもしれない。


 そんな事を考えていると、風の魔法が収まった。

 僕はすぐさま前を向き、ホウキをギュッと握り直して、ジゼルの背中を追いかけた。




 ジゼルはダレンを追いかけながら、右手を前に掲げた。

「〝我の盾となれ(アスピダ)!〟」


 彼女は物理攻撃を防ぐ魔法を展開した。

 ダレンの進行方向に、大きな黒い魔法陣が道を塞ぐように現れ、彼はあわてて急ブレーキをかける。

 この宙に浮かぶ魔法陣は実体があるので、そのまま進むとぶつかってしまうからだ。


「チッ」

 思わず舌打ちをしたダレンが、その壁のような魔法陣を迂回して進んだ。

 そのすきにジゼルがトップに躍り出る。

 彼女の作戦勝ちだ。


 後を追う僕もダレンに追いつき並走した。

 ダレンが横目で僕を見ると、ジゼルに向かって叫ぶ。

「なぁ、そこの白い髪の女! 蒼刻の花嫁の証を貰っているのに、ディランに向けている強い思いは何だ!?」

 ジゼルと……ついでに僕もドキッとした。


 ジゼルが僕に向けた強い思い。

 それは昔と変わらず『ディランのお嫁さんになりたい!』だ。

 蒼刻の花嫁の証を貰ったのにも関わらず、その思いを抱くのは矛盾していると、ダレンが痛い所をついてきているのだ。


 ごめん、僕が叶えてあげられてないっ。

 肝心な所で、踏ん切りがつかないんだ。

 ジゼルの人生を貰い受けていいか迷うから!

 ……自分に自信がないからっ!!


 僕が必死に言い訳を並べていると、前を飛ぶジゼルが少しふらついた。

 彼女の様子に気をよくしたダレンが、ニヤリと笑って続ける。


「おかしくないか!? もしかしてディランに何も聞いてないのに、証だけ貰いにいったのか?? あ、そっか、俺が読み取った強い思いが間違えているんだな! ちなみに俺が読み取ったのはーー」

「こんな所で大声で言わないでっ!!」

 ジゼルが真っ赤になって大声で叫ぶ。

 魔法に集中出来ず、ついに失速した彼女に、ダレンと僕が追いついた。


 まさかの心理戦を繰り広げるダレン。

 

 焦った僕は彼に意識を集中した。

 ジゼルのために、彼に向けられている強い思いを読ませてもらう。 

 これ以上ジゼルを照れさせると、ホウキから落ちてしまいそうだから……


 すると突然、予想だにしなかったすごい思いを、読み取ってしまった。

「…………ダレン。おそらく男の人から、熱烈な思いを向けられてるよ」

 心配になった僕は、勝負とか関係なく真面目な表情でダレンに話しかけた。


「……そんな思い、俺には向けられてないぞ。嘘だな」

「本当だよ。魔法で具現化できるほど強くないけど……ダレンを『女の子にしたい』って強く思われてる……」


「…………あ」

 念入りに思いを探ったダレンが小さく驚くと、青ざめて視線を彷徨わせた。

 いつも強気なダレンが、泣きそうになっている。


 深刻な事態に、僕たちは2人して失速した。

 彼は綺麗な顔立ちをしているから、マニアックな人を引っ掛けたのかもしれない。


「気をつけて……」

「……貴様も、すごいのが向けられてるだろ」

「知ってる。最近目立ってしまったから、いろんな所からの反感がね……」

 僕は深くて重いため息をついた。

 特に第二王子派の人たちから向けられる敵意がすごい。


「「…………」」


 ダレンと僕は、揃って何も喋れなくなった。




 ふと前を見ると、先頭のジゼルが王宮内へと入っていく所だった。

「あ、ジゼル! 危ないよ!」

 慌てた僕は今までにないスピードを出して、夢中で追いかけた。


「っはや! あいつ……手加減してた?」

 ダレンは僕の背中を睨みつけると、再びスピードを上げて飛び始めた。




「ジゼル!」

 僕が追いついた時には、ジゼルはすでに王宮の上空に差しかかっていた。

 彼女の進む斜め下には、城が見え始めている。

 僕はジゼルと城の間に身を滑り込ませると、真横に向けて手を掲げた。


「〝我の盾となれっ(アスピダッ)!〟」

 僕の手の先に、無事に黒い魔法陣が展開された。

 城側の空中に防御壁を張ったから、これで攻撃されてもひとまずは大丈夫。

 僕はほっと一息つくと、これから進む城の周りを大きく迂回するコースを眺めた。


「ディラン、ありがとう」

「そろそろ矢が飛んでくるだろうから、気を付けて」

「はーい。でも、やけに詳しいね」

「蒼い月の夜に、王宮の空をホウキで散歩をしてると、矢が飛んできたことがあったんだ……」

 僕は当時を思い出して、ゾッとした。


 あの時はビックリした。

 だから王宮を回るコースも、危ないからって反対したのに……

 ちょっとスリルを感じるコースがいい!と、逆に採用される理由になってしまった。


 けれど僕が再三注意したからか、後方のルークから、矢に備えて魔法をかける声がした。

「……〝防ぎ守れ(アミナ)〟」

 そのあとに慌てたホリーの声がする。

「違うって! それは魔法を防御するやつ! しかも発動できてないし……〝我の盾となれ(アスピダ)!〟」

 しっかり者のホリーのお陰で、何とか2人は防御壁を張る。


 ダレンの方を見ると、彼の隣にも魔法陣が黒々と光り輝いていた。

 蒼刻の魔術師である彼が、僕みたいにズルのような強化もせず、あれだけ一般魔法を扱えるのはすごい。

 ダレンは実は人一倍努力家なのだ。

 僕に対抗心なんか燃やさなくていいのにな。


 僕がつい注意を怠っていると、見計らったように矢が飛んできた。

 防御の魔法陣に当たった矢が、カンッと音を立てて跳ね返り、下へと落ちて行く。

 ビクリと肩を跳ねさせながら城を見ると、細長くせり出したテラスに弓矢部隊が並んでいた。

 彼らが僕たちに向けて、一斉に矢を放っている。

 

「あぁぁ……ごめんなさい。不法侵入して……」

 僕だけが申し訳なくて身を縮こませる。


「よし、このまま一気に駆け抜けてやるっ!」

「わぁ! 離れすぎると防御壁から出ちゃうよ!」

 他の人たちは速く飛ぶことに夢中だ。


 その間も矢が降り注ぎ、魔法陣に当たって跳ね返る音が響いていた。

 けれど突然ピタリと止んだのでテラスに目を向けると、弓矢部隊がバタバタと倒れていた。


「え?」

 驚いた僕が目を凝らすと、倒れた兵はスヤスヤと気持ちよさそうに眠っている。


「〝いざないの眠り(ヒュプノス)〟」

 後ろにいるレシアの澄んだ声がした。

 振り向くと、彼女が兵士に向けて睡眠魔法を唱えていた。

 残っていた弓矢部隊も、みんな綺麗に倒れ眠りに落ちていく。


「フフフッ。おやすみ」

 レシアが無邪気に笑った。


 ……あとで怒られないかな?


 何故だかレシアではなく、僕が怒られている未来が頭をよぎった。


 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ