表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『人から向けられた願いを叶えます』蒼刻の魔術師ディランと一途な白猫のジゼル  作者: 雪月花


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

68/165

68:限定カフェ 


 店の扉がゆっくり外から開かれると、紫の魔術師のレシアが入ってきた。


「こんにちは。ディランに伝えたいことがあったんだけど、このところ留守だったから」

「ムカレの国に行ってたんだ。伝えたいことって?」

 出迎えに行った僕は、彼女の前で首をかしげた。


 すると、ジゼルたちがいる背後のソファから「ディランッ!」と叫んだルークが駆け寄ってきた。

 彼は僕の隣に立つと、レシアをポーッと眺めながら真剣な声で聞く。


「……どういう知り合い? こんな美人なお姉さん」

「店のお客様だったんだよ」

 僕が答えている間も、ルークは失礼なほど、レシアを上から下までまじまじと眺めていた。

 レシアはその視線を受け止めて、ニッコリと笑う。

「初めまして。レシアっていうの、よろしくね。みんなで喋ってるところを邪魔しちゃったかな?」

「そんなことないですっ! 立ち話もなんなので、ささっ、こちらへどうぞ!!」

 ルークがまるで下っ端みたいに腰を低くして、レシアを勝手に談話スペースのソファに通した。


 2人の後ろ姿を見送る僕は、呆れ果てて開いた口が塞がらなかった。

 それでも何とか手足を動かすと、レシア用の紅茶を淹れにまたキッチンへと戻った。 




 談話スペースではレシアが席につくと、初対面のルークとホリーが軽く自己紹介をした。

 それが終わると、レシアが隣のジゼルの腕にそっと触れて告げる。


「あの時は本当にありがとう」

「え?」

「私の夢の中で、ジゼルが必死に引き留めてくれて、実はとっても嬉しかったんだ」

「……私もレシアさんが思い直してくれて、良かったです」


 ジゼルがふにゃりと柔らかく笑う。

 レシアもフフッと優しく目を細めた。

「私のことはレシアって呼んで。友達になりたいから」

「…………うんっ!」


 2人がすっかり打ち解けて、楽しげに笑い合う様子を、ルークがデレデレしながら眺めていた。

 そんな彼を見たホリーが、半笑いを浮かべて口を開く。

 

「……相変わらず、学生の頃と変わってないねー。〝黙っていればカッコいい〟ところとか」

「え? 俺がカッコいいって?」

「違う違う。どっちかって言うと反対のことを……」

 ホリーがブンブンと顔の前で手を振る。


 するとレシアが会話に入った。

「喋っていてもカッコいいと思うよ。モテるんじゃない?」

 ルークが頬を赤くしながら、慌てて首を横に振った。

「いや、俺、全然モテないんでっ」

 

 ちょうどその時、僕は紅茶を乗せたトレイを手に、生活スペースから店に出たところで固まっていた。

 

 レシアの職業は簡単に言えば占い師。

 自分の得意な魔法を活かして店を開き、お客様の相談を聞くという点では僕の同業者だ。

 だからこそ僕には分かる。

 レシアのあれは……

 一種の営業トーク!


 けどそれを、ルークは勘違いして間に受けてしまっている。

 

 人知れず憐れみの気持ちを抱く僕をよそに、レシアが話を続けた。

「モテないとか本当? ……私、紫の魔術師なんだ。占いみたいなことが出来るから、恋愛について見てあげよっか?」


 そこにホリーとジゼルが食いついた。

「え? 私も見て欲しいなー!」

「私もー!」

 談話スペースがキャアキャア盛り上がる。


 そんな中、僕がレシアに紅茶を振る舞うと、彼女がニコリと笑った。

「ディランありがとう。いただきます」

「どういたしまして」

「カフェの店員さんみたいだね」

 クスクス笑うレシアが、テーブルに置かれたカップに手を伸ばした。

「そうなんだよ。今日は何故か人がたくさん来るから……」




 言ってるそばから、またドアノッカーを叩く音がした。

 「はーい」と返事をしながら目を向けると、クシュ姫とセドリックが入って来た。


「わぁ、人がいっぱい。ディランの店は魔法のお店、聞いてたけど……」

 クシュ姫が目を丸めて、ぐるりと店内を見渡した。

 その視線がソファに座る人たちを巡ってから、僕に戻る。

 目が合ったクシュ姫に苦笑を返すと、僕は2人を出迎えようと近付いた。

「今日だけカフェになっているんだ」


 また、背後のソファから「ディランッ!」と駆け寄ってくるルークの声がした。

 彼は僕の隣に立つと、クシュ姫を熱心に眺めながら真剣な表情で聞く。


「どういう知り合い? こんな可憐なお嬢さん」

「ムカレの国のお姫様だよ」

「……なんでディランの所に、可愛い女の子たちが集まるんだ?」

 ルークが僕をキッと睨んできた。

「…………さあ?」

 僕は肩をすくめて、彼の必死さを受け流した。

 



 談話スペースの椅子が足りないから、リビングから3人がけのソファを運ぶことにした。

 ルークとセドリックが手伝ってくれて何とか運び終わると、僕は一息ついているセドリックに喋りかけた。


「ありがとう。せっかく運んでもらったし、今日は座っててくれる?」

「フフッ。そうさせてもらおうかな」

 セドリックが優しく笑う。

 彼とクシュ姫は、さっき運んだソファに並んで座った。


 2人がくつろぐ様子を見届けた僕は、追加の紅茶を用意しにキッチンへと引っ込んだ。

 ジゼルも僕のあとを追いかけて、手伝いに来てくれた。


「ごめんね、ディランばっかりに任せちゃって。ありがとう」

「そんなことないよ。座ってて」

「私も、カフェの店員さんがしたいの」

 ジゼルが白い歯を見せてニッコリ笑う。

 彼女らしい優しい心遣いに、こういうところがたまらなく好きだなと感じた。


 僕は思わず、横に並んだジゼルの頬にキスをした。

「ふえっ!?」

 目を見開いて赤くなった彼女が、手で頬を押さえると、慌てて店内の様子をうかがった。

 誰にも目撃されていないことに安堵すると、僕を見てその頬を膨らます。


「あはは。クッキーたくさん作ってて良かったね」

 僕は笑い声をあげて、幸せな笑みを浮かべた。

 



 そうして、クシュ姫とセドリックには紅茶とクッキーを、他のみんなにはクッキーのおかわりを振る舞った。

 店内がますますカフェらしくなった頃、ようやく僕もソファに座ることが出来たのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ