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『人から向けられた願いを叶えます』蒼刻の魔術師ディランと一途な白猫のジゼル  作者: 雪月花


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61:ミルシュ姫の願い事 


 ひときわ華やかなオーラを放つタナエル王子たちは、僕とジゼルに気付いて立ち止まった。

 僕らは急いで立ち上がり、慌てて身なりを整える。

 そうしている内に、クシュ姫が元気に駆けつけてくれた。


「ディラーンッ! 起きた、良かった! 大丈夫?」

「うん。どこも怪我してないし、元気だよ」

「倒れたあと、大変だった。ジゼルが泣いて離れなかった。ジゼル、良かったね」

 

 ニコニコ顔のクシュ姫が、手を後ろで組んで「ねー?」とジゼルに首をかしげた。

 ジゼルが照れながら頷き返すと、僕の視線に気付き真っ赤になって顔を背けた。


 ちょうどその時、タナエル王子とミルシュ姫もそばまで歩み寄って来た。

 僕は改めて姿勢を正し、2人を見つめる。

 するとミルシュ姫がおもむろに口を開いた。


『ディラン。私を……この国の人々を守ってくれて本当にありがとう。ムカレの国の王女として、いたく感謝致します』

 

 ミルシュ姫の言葉を、クシュ姫がグランディ国の言葉で僕に伝えてくれた。

 妹の通訳が終わる頃合いを見て、ミルシュ姫が僕に深々と頭を下げる。

 クシュ姫もそれに(ともな)って頭を下げた。

 そして姉妹は揃って顔を上げると、ニコリと可憐に笑った。

 

「上手くいって良かったです……」

 国の代表者に、こんなに丁寧にお礼を言われるなんてと、僕の胸に嬉しさがじんわりと広がった。

 そんな慈愛に満ちたミルシュ姫に、お返しに伝えたいことがあったので、僕はクシュ姫に目配せしてから喋った。


「でも今回成功したのは、タナエル王子の采配が素晴らしかったからです。この国を……ミルシュ姫を守ったのは、王子の切実な思いですよ」


 クシュ姫がニヤッと笑いながら僕に頷くと、ミルシュ姫にコソコソ伝えた。

 聞き終わったミルシュ姫がみるみる頬を染めて、タナエル王子を見つめる。

 その途端にタナエル王子が僕を睨んできた。


 いいことを伝えただけなのに……怖い。

 でもおそらくあれは、照れ隠しだ。

 よーく見ると、頬がほんのちょっとだけ赤いから。

 ……多分。


 僕は王子の視線にぎこちない笑みで返した。

 せっかくお酒でいい気分だったのに、酔いが覚めてしまいそうだ。


 タナエル王子は僕の様子に呆れながら、大きく息をついた。

 けれどたまに見せる、穏やかな笑みを浮かべた。


「このたびの活躍、ご苦労であった。私の個人的な頼みを引き受けてくれて、誠に感謝している。ありがとう」

「勿体無いお言葉です」

 僕も笑いながら返した。


 本当によかったなと達成感を噛み締めていると、ジゼルと目が合った。

 僕らはますます頬を緩ませた。

 ミルシュ姫やクシュ姫も、幸せそうにほほ笑んでいる。


 そうやってみんなで喜び合い、和やかな空気に包まれていた時だった。

 タナエル王子の抑揚の無い声がやけに響いた。


「では、引き続きイグリスとの決戦も頑張ってくれたまえ」

「…………え?」

「……もしかして終わったと思っているのか? イグリスも消え去る間際に、言っていたではないか。〝待っててね〟と。奴はミルシュの元に必ず来るぞ」

 タナエル王子が、いつもの呆れかえった目をして続けた。

「それにあの時のイグリスは、ミルシュの血に泥酔していたお陰で、満足に戦えない状態だっただろ? 次はそうもいかないから、気を引き締めろ」


「…………国で引き受けるって言ってたのに……早速再戦なんですか!?」

「そうだ」

「…………」

 

 王子に力強く頷かれた僕は、意識が遠のいてまた倒れそうになった。




 **===========**


 今後について、しばらくタナエル王子と話し込んでいると、彼はセドリックに呼ばれてどこかへ行ってしまった。


 すると自然な流れで、ミルシュ姫とクシュ姫も僕らの絨毯に加わり、再びお祝いのひとときを楽しむことになった。

 気付けば、僕一人が可愛い女の子たちに囲まれている。

 滅多にない華やかな空気に心が躍った。


「ディラン、飲み物なくなってるよ」

 向かいに座るクシュ姫が、腕を伸ばしてお酒を注いでくれた。


『この果物も、ムカレ国の特産で甘くて美味しいんですよ。良かったらどうぞ』

 ミルシュ姫が、住民の差し入れである果物をナイフで切り分けてくれた。

 その果物が乗ったお皿を隣から差し出す様子に、言葉は分からないけれど〝召し上がれ〟と言っているのだろう。


 美しい姉妹にチヤホヤされて浮かれている僕に、ジゼルが冷めた目線を飛ばしてきた。

 ギクっとしながら目を泳がせていると、ミルシュ姫の首筋の傷が、長い髪の間から一瞬だけ見え隠れした。


「……申し訳ございません。回復魔法をかけたけれど、傷が残ってしまいましたね」

 わざわざ触れるべき話題じゃないのは分かっていたけれど、僕はどうしても謝っておきたかった。

 クシュ姫がムカレの言葉で伝えると、ミルシュ姫は慌てて首を横に振った。


『そんなことないです。実は見えない所にも、たくさん傷跡があるので……』

 そう言ってミルシュ姫がドレスの袖をめくると、腕にも複数の傷跡がついていた。

 夜な夜な魔物と戦っていたと聞く王女の、ヒエラの街を守った証なのだろう。

 僕はクシュ姫の通訳を聞きながら、つい痛ましそうな表情を浮かべてしまった。


『ただ……エルに見られるのは恥ずかしいな……』

 頬を染めて恥じらいながら、ミルシュ姫が僕を見て続けた。

『グランディ国ほどの大国でなら、この傷を治せますか?』


 クシュ姫の通訳を聞き終えた僕は「それなら……」と、隣のジゼルを見た。

 僕に釣られて、ミルシュ姫とクシュ姫もジゼルを見る。


「私が……何??」

 3人を順番に見回したジゼルが、最後にまた僕を見て首をかしげた。

「ジゼルの最上級の回復魔法なら、治せるかなって」


 それを聞いて興奮したクシュ姫が、ジゼルに両手を合わせて頼み込んだ。

「お願い! お姉ちゃんの傷、治してっ!!」

「うーん……分かったよ。やってみる!」

 

 ジゼルがスクッと立ち上がると、握り拳を空に突き上げた。

 よく見ると彼女の頬が上気しており、少しフラフラしている。


「フッフッフッ。私もタナエル王子に褒められるぞ〜!」

 酔っ払っていつもよりテンションの高いジゼルが、自信満々に笑っていた。


  

 

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