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『人から向けられた願いを叶えます』蒼刻の魔術師ディランと一途な白猫のジゼル  作者: 雪月花


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54:クシュ姫


 次の予定が迫っていたタナエル王子は、僕の(ひじり)の魔法の状況を確認すると、早々に部屋を去って行った。


 残された僕とジゼル、クシュ姫の3人でお茶会をする流れになり、使用人たちから紅茶とお茶菓子が振舞われる。

 

 王家御用達の最高級の紅茶!?

 と思いながら、恐る恐るカップとソーサーを手に取り口へ運んでいると、隣ではジゼルがクシュ姫に話しかけていた。


「……クシュ姫は……タナエル王子に助けてもらって……ここに?」

 ジゼルが詰まりながら喋る。

 彼女は伝わりやすいように、出来るだけ簡単な言葉を選んでいるようだった。

 紅茶を一口飲んだクシュ姫が、カップとソーサーを机に戻したまま動きを止める。


「……はい。ムカレの国で、タナエル王子にお姉ちゃん助けて、頼みました。イグリスに見つかって、王子、負けました。次、私の番……お姉ちゃんが国から私を追い出す、守ってくれました」

 また泣きそうになったクシュ姫が、瞳を潤ませる。

 けれど一生懸命、僕たちに向かって説明を続けた。


「タナエル王子、私に言う。〝絶対、ミルシュを助けるから、手伝って〟 私、大きく〝はい〟したよ!」

 クシュ姫が顔を縦に2、3度振る。

 そんな彼女にジゼルが相槌を打った。


「それで、グランディ国の言葉を、勉強しているんですか?」

 クシュ姫がパッと顔を輝かせた。

「はい。絶対、お姉ちゃん、助けるっ!」

 元気なクシュ姫に釣られて、ジゼルもニッコリと笑い返した。


 クシュ姫もますます嬉しそうに笑い「私に喋る、敬語無し、お願い。簡単に」と、気安く喋りかけてもらった方が、言葉を理解しやすいと伝えてくれた。

 僕とジゼルは、ゆっくり頷いた。


 安心した表情を浮かべたクシュ姫は、次に僕を見た。


「ディランは願い、叶える。私も願う。ムカレの国の人も、願う。私、伝える。沢山伝える。それで言葉、必要だから……」

「……伝える?」

 僕が思わず聞くと、クシュ姫がニコニコしながら頷いた。


「お姉ちゃんを……国を守りたい、みんな、願ってと」

「…………」


 もしかしたら魔法陣を(えが)いて回る時に、国民たちにも同じことを願ってもらうように、伝えるのかもしれない。

 タナエル王子も強い思いを集めるって言っていたし、国全体に魔法をかけるなんて、思いもそれだけ強くしなくちゃいけないから。


 ……出来るかな……


 僕は事の大きさに、一層不安になった。

 でもそれを払拭させるかのように、クシュ姫が満面の笑みを僕らに向けた。


「ディラン、ジゼル、手伝ってくれて、ありがとう!」

 姉想いのクシュ姫が、何度も何度もお礼を述べた。

 



 けれど突然あっと驚いた表情をした。

 僕らも何事かと思い身構える。


「……タナエル王子、私に言う。お姉ちゃんのこと、ディラン、ジゼルに伝えるように」

 彼女がバツの悪そうな顔をした。


 どうやら、ミルシュ姫について僕たちに伝えるように、王子から依頼されていたのを忘れていたらしい。

 僕とジゼルは体から力を抜くと、「んー」と宙を見て考え込む姫が喋り始めるのを待った。


「お姉ちゃん、目が赤い。ムカレの国、目が赤い王族、イグリスの生贄。さっきタナエル王子、言う」

 僕は思わずクシュ姫の瞳を見た。

 彼女の瞳は綺麗な琥珀色だけれど、それを赤くした感じがミルシュ姫なのかなと想像する。


「目が赤い、お姉ちゃんの血、特別。魔物たち、いい匂いの血、寄ってくる。お姉ちゃん、街を守るために戦う。強いよ!」

 クシュ姫がニッと笑った。

「魔物が寄ってくる血が流れてるの?」

 ジゼルが目を丸めて尋ねる。


「そう。とっても強い魔物、生贄の約束あるから来ない。弱い魔物、おバカだからお姉ちゃんに来る」

「…………」


「お姉ちゃん、いつも怪我する。自分が傷付くの当たり前、思ってる……タナエル王子、お姉ちゃん、守る。お姉ちゃん、王子が好き」

 

 それを聞いたジゼルがにんまりした。

「あ、その話よく聞きたい。2人の馴れ初め……好きになるきっかけが知りたいな!」

「フフフッ。気になる、分かる!」


 途端に2人がはしゃぎ始め、女子トークに花が咲いた。

 僕もあのタナエル王子の色恋沙汰なんて想像がつかないと、耳だけ傾けて紅茶をゆっくりと味わう。


 さすが王宮の紅茶。

 美味しい。



「それでお姉ちゃん、森で魔物と戦う時、迷った王子助けます。街で兵士の傷、治してもらう」

「あー、なるほど」


「タナエル王子、お姉ちゃん、私、お礼のお茶会する。王子、頑張って本見て、ムカレの国の言葉喋る。私たち、とても嬉しかったです。王子とお姉ちゃん、いい感じ!」

「わぁ、素敵! それで? それで?」


「毎晩2人会いました。一緒に戦う! お姉ちゃん、とってもとっても楽しそう!」

「ロマンチック……かな??」

 ジゼルが素直に首をかしげた。

 そんな彼女を気にせずクシュ姫が続ける。


「……タナエル王子帰る日、きた。お姉ちゃん、悲しそうでした。最後の見送り、しなかった……」

「…………」


「私、見つけます。お姉ちゃん、王子に借りたコート抱きしめて、1人、泣いてました……」

「…………」 

「お姉ちゃん、本当はつらい。悲しい……ぅぅ」

 

 クシュ姫がとうとう泣き出してしまった。

 ジゼルが姫の座るソファに移動し、横から抱きしめる。

 クシュ姫もジゼルを抱きしめ返すと、涙ながらに訴えた。


「お姉ちゃん、タナエル王子と幸せに……生きます!!」

「うん、うん。絶対ミルシュ姫を助けようね!」

 

 うるうるしているジゼルが、クシュ姫の頭を優しく撫でながら力強く答えた。

  



 ……まだ若いクシュ姫が、単身で他国に渡り、姉を助ける為にこんなに頑張っているんだ。

 これは、失敗するかもとかの話じゃないな。

 絶対に成功させなきゃ……!


 いろいろと不安な中、タナエル王子からの信頼や、クシュ姫の想いを受けて、僕は静かに覚悟を決めていた。




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