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『人から向けられた願いを叶えます』蒼刻の魔術師ディランと一途な白猫のジゼル  作者: 雪月花


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49:蒼刻の花嫁 


 切なげにジゼルを見たディランが目を伏せると、詠唱を続けた。

 それに呼応して、足元の魔法陣も更に蒼く輝きを放つ。


「っやめて……魔法はかけないで下さい!」

 ジゼルはキッとディランを見た。

 そして意を決して叫ぶ。


「メアルフェザー様!!」


 ジゼルの声が、広い礼拝堂に響き渡った。




 メアルフェザー様と呼ばれた彼は、呪文を止めてニヤリと笑った。


「よく見破ったな」

 聞き慣れない低い声がしたかと思うと、目の前の彼の姿が、スラリとした男性へと変化した。

 店に来たあのお客様だ。

 

 けれどローブ姿ではなく、どこか異国めいた白い衣服を(まと)っていた。

 豊かな長髪は夜藍(やあい)に染まっており、彼が動くたびにサラサラと流れた。

 恐ろしいほど整った容姿は、作り物めいた冷たささえ感じる。


 けれど瞳は……その優しげな黒い瞳は、ディランによく似ていた。

 

 彼がその目を嬉しそうに細めると、ジゼルに話しかけた。

「偽物だと見抜かれるのは想定内だったが、どうして俺がメアルフェザーだと気付いたんだ?」

「1度だけ、脳裏にあなたの姿が浮かんだことがあります。それで……何となく?」

「……ふーん」

 

 話している内に魔法陣の光も徐々に弱まり、次第には消えていった。

 それをしばらく眺めていたメアルフェザー様が、仕切り直して質問する。


「なぜ、魔法をかけることを拒んだ?」

「……自分で叶えられそうな願いは、魔法に頼らず自分で叶えます。私が望めば、一緒にいることはできるでしょ?」

「ははっ。いい心掛けだな」

 メアルフェザー様がジゼルを見て、また寂しそうに笑うと、室内なのに穏やかな風が吹いた。

 その風と共に、甘い花の匂いも運ばれてくる。


「いつから俺の正体に気付いてたんだ?」

「部屋で会った時からです。でもちょっと違和感があるな? って感じでしたけど」

 ジゼルは首をかしげながら笑った。

 

 ……受け答えがディランっぽく無かったんだよね。

 なんて言うか、ディランは人が言ったことを受け止めてから、自分が言いたいことを話すから……


 ジゼルはいつものディランを思い浮かべて、つい、にへらっと笑う。

 そしてハッとすると、慌ててメアルフェザー様に聞いた。

 

「あの、ディランはここに来ていますか?」

「来てはいるが、外で待っているだろう。ジゼルとゆっくり話すのが目的だったから、この建物には入れなくしている」


「え? 私?」

 ジゼルが目を丸めて自分を指差した。

「そうだ。これはジゼルに対するテストだったんだ。人間たちは確か〝蒼刻の花嫁になるテスト〟だとか言っていたな」


「……??」

「メリナからジゼルが推薦された。このテストは、受けても受けなくてもいいのだが、蒼刻の花嫁の加護欲しさに希望する者が多い」


「……ディランのママが?」

 ジゼルは思わず口元を押さえて驚いた。

 メリナはディランの母親だ。


 ……ディランのママと別れる時に、両手でしっかりと手を握られて、こう言われた。

『ジゼルちゃん。頑張ってね』

 今思うとあの言葉は、この試験に向けてのエールも含んでいたのかもしれない……


 ジゼルは別れ際のママとパパの様子を思い出して、唖然としていた。

 そんな前から計画されていた驚きと、2人が自分をディランの花嫁にと望んでくれている嬉しさが入り混じる。


 喜ぶジゼルを優しく見守るメアルフェザー様が、静かに告げた。

「ジゼルは俺の正体をみごとに見破ったことだし、合格だ」

「……ありがとうございます」


「実はさっき魔法陣が光った時に、合格の証をジゼルに付与してある。他の蒼刻の魔術師にしか分からないが……それから、ジゼルが嫌だと思うディランからの蒼願の魔法は、効かない効果があるんだ」

「…………私を守るためですか?」


「そうだ。昔、ある蒼刻の魔術師が『愛する人を不死にする』という蒼願の魔法を、相手が気付かないうちにかけたことがある。その悲劇を防ぐためにそうなった」

「その人はどうなったんですか?」


「……蒼刻の魔術師としては力が弱かったのが幸いしてか、不死の効力は永遠には続かなかった。普通の人の3倍は長く生きることになったがな」

「…………」

 蒼刻の花嫁制度が出来た経緯(いきさつ)を聞き終えたジゼルは、しばらく考え込むとゆっくりうつむいた。


「どうした? 浮かない顔をして。ディランの花嫁になりたく無くなったのか?」

 メアルフェザー様がイタズラっぽく笑いながら、首をかしげて聞いた。


「……私はお嫁さんになりたいんですけど、ディランから直接言われたわけじゃないんですよね。どう思います? メアルフェザー様」

 プクッと頬を膨らませたジゼルが、当て付けるように聞いた。

 彼女は怖気付いたのではなかった。

 蒼刻の花嫁の証を貰えて〝歴代の蒼刻の魔術師たちも、こうやって伴侶を得てきたんだ〟と浮かれていたものの、肝心のディランからは確約されていない事に気付いたのだ。


 


「あっはっはっはっは!」

 メアルフェザー様が肩を揺らして豪快に笑った。

「この俺に恋愛相談をした花嫁は、ジゼルが初めてだ。でもなぜ俺に聞くんだ?」


「フフッ。メアルフェザー様の瞳がディランにとても似てるので……何か気持ちが分かるかなって、思わず聞いてしまいました」

 ジゼルもクスクス笑いながら答えた。


「そんなに似ているか? それにしてもジゼルは俺を怖がらないな。他の花嫁候補たちは、得体の知れない俺を怖がっていたが……」

「メアルフェザー様は私と同じように、本来の姿は人では無いですよね? だから親しみが湧きます」

 ジゼルはニコニコと、さっきから感じていることを素直に伝えた。


 メアルフェザー様は少しだけ目を見張ると、ニッコリと優しく笑い返した。

「気に入った。ジゼルには特別に力を貸してやろう」

「ちから?」


「そうだ。俺は人々の願いを叶える存在だ。蒼刻の魔術師は、願いを俺に伝える役目を(にな)っている。言わば祈祷師だな。この人智を超えた力を扱う代償として、他者からの願いしか叶えられない」

 メアルフェザー様がフッと一息ついてから続けた。

「だが例外として、ジゼルからは直接の願いを、1つだけ叶えてやろう」


「……あ、ありがとうございます」

 ジゼルが喜んでいいものかと戸惑っていると、メアルフェザー様はふいに視線を逸らし、目を伏せたまま独り言のように呟いた。

「実は()()()()()()出来ることなんだがな……まぁ今はいいか」


「??」

 よく分からなくて、きょとんとしたままジゼルが待っていると、メアルフェザー様が向き直って口を開く。


「一生で1度だけぞ。心の中で俺に語りかけるように。では力を授けてやるから手を置け」

 彼はお店に来た時のように、右の手のひらを上に向けて差し出した。

 ジゼルはその手をまじまじと見つめてから、ゆっくりと手を置いた。

 ピッタリと重ね合わせると、その大きな手にジゼルの手がギュッと握られる。

 すると暖かい何かが、手を通して彼女の体を駆け巡った。

 



 ーーその時だった。

 2人の足元にある魔法陣が蒼く輝いた。


「ジゼル!!」

 呼ばれるがままにジゼルが天井を見上げると、突然宙に現れたディランが落ちてきた。

 彼はしゃがみ込みながらジゼルの隣に着地し、素早く立ち上がる。


 そしてジゼルを自分の方へと引っ張り込んで、メアルフェザー様と繋いでいた手を離させると、背後に隠すように自身が2人の間に割って入った。


「ーージゼルを返してもらうよ!!」



 

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