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『人から向けられた願いを叶えます』蒼刻の魔術師ディランと一途な白猫のジゼル  作者: 雪月花


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48/165

48:蒼刻の花嫁


 蒼い月が空に昇る夜。

 今日は見事な満月が空に浮かんでいた。

 そのせいか、月明かりが異様に蒼く感じる夜でもあった。


 店の外で用事をしていた僕は、思わず夜空を仰ぎ見た。

 こんな日は、何かが起きそうな胸騒ぎがした。

 魔力の高まりをひしひしと感じる。


 僕は急いで店の中に戻った。

 するとそこには、見覚えのない長身の男性が立っていた。

 ローブのフードを深く被っており、顔は影に隠れている。

 一応お客様のようで、彼の背中越しに対応しているジゼルが見えた。


 あれ?

 僕が外にいる間に、誰か店内に入ったっけ?

 気付かなかったんだけど……


「いらっしゃいませ」

 警戒心が芽生えた僕は、声をかけながら足早に2人に近付いた。

 

 その間に男性は、右の手のひらをジゼルに差し出した。

 ジゼルは強張(こわば)りながらも、その手に自分の手を乗せようとして、一瞬だけ僕を見る。

 彼女の困った表情に、さっきの胸騒ぎが蘇った僕は、慌てて駆け出した。


「ダメだ! ジゼル!!」

 

 けれどあと一歩の所で間に合わず、ジゼルは手を置いた。

 彼女のその手に、阻止しようとした僕の指が触れる。


 次の瞬間、辺りが蒼い光に包まれたかと思うと、店にいた3人は忽然(こつぜん)と姿を消した。




 **===========**


 気がつくと、僕は不思議な場所に1人で立っていた。


 空はどこまでも続く満点の星空。

 足元には草原が広がり、目の前には蒼く澄んだ湖。

 その湖畔には、見たこともないほどの大きな木が、空に向かって瑞々しく枝を広げていた。

 立派な大木は青い花を咲かせており、時折り吹く穏やかな風に、気持ちよさそうにそよいでいる。


 木のそばには大きな白い建物があった。

 けれど、その白い建物を除けば、あとはただ大自然が広がっているだけだ。

 何故かその建物と大地がほんのり光っており、神秘的とでもいうのか、異質さを静かに放っている。

 

「……ここは?」

 キョロキョロと辺りを見渡しても、ジゼルはおろか、人の気配すら感じられなかった。

 また柔らかい風が吹いて、僕の頬を撫でていく。

 それと一緒に、甘い花のような匂いがふわりと香った。


 ……ジゼルとあの男性は、どこにいったんだろう?

 あの白い建物の中?


 僕は丸いドーム型の大きな建物を、睨むように見つめた。




 **===========**


 その頃ジゼルは、見知らぬ部屋にいた。

 

 突然の出来事にまだ夢見心地の彼女が、ゆっくりと部屋の様子を窺うと、青いステンドグラスの窓が目についた。

 その美しさに魅せられて、一歩足を踏み出したものの、思いのほかフカフカな感触に驚いて足を引っ込めてしまう。

 ジゼルは絨毯とにらめっこをしたまま、ムギュムギュと踏み心地を確認すると、改めて窓に近付いた。

 

 ……不思議。

 窓自体が光ってる。


 ジゼルはそっとガラスを撫でた。

 優しい光を発するステンドグラスは、部屋を蒼く幻想的に照らしている。

 その青いガラス越しに外を見ると、やたら広い草原が広がっていた。

 

 ここは……

 …………

 

「これからどうすればいいんだろう……」

 難しい顔をしたジゼルが静かに嘆く。


 その時、背後でガチャリと扉が開く音がした。

 ジゼルはすぐさま振り返った。

「ディラン!」

「ジゼル、大丈夫?」

 部屋に入ってきたディランが、安堵の表情を浮かべてジゼルに近づいた。


「うん、大丈夫。ディランは?」

「僕も大丈夫……けど、何でこんな所に?」

 ディランがキョロキョロと部屋を見渡す。

 彼もこの不思議な空間が気になるようだ。


「……ごめんねディラン。店に来たお客様に『ディランについて話があるからおいで』って言われたの」

 ジゼルがおずおずと告白した。

 彼女の言葉を聞いて驚いたディランが、次には険しい表情で思案する。

「…………とりあえず、そのお客様を探そうか。この建物にいると思うから」

 ディランがそう言ってジゼルの手を握った。


「うん」

 ジゼルが頷くと、彼はさっき入って来た扉を開けて部屋を出た。

 手を繋いでいるジゼルは、大人しくついていった。




 部屋の外は長い廊下が続いていた。

 右側には、外とつながるステンドグラスの窓が等間隔に並んでいる。

 どれも優しい光を発しており、廊下を蒼く染め上げていた。


 2人の足音だけが反響する沈黙の中、前を歩くディランが不意に口を開いた。

「ジゼルは、僕の蒼の魔法をどう思ってるの?」

「え? ……どうって?」

 戸惑うジゼルの様子に、彼は足を止めて振り向いた。


「……怖くない? 大きな喜びを与えるけど、大きな不幸を与えることもある。……そんな力を持っている僕が……」

「怖くなんてないよ! だって知ってるから。ディランが誰よりも優しくて、誰よりも悩んでて、誰よりも自分の魔法と向き合っていることを!」

 

 ジゼルは一生懸命想いをぶつけた。

 自分だけは、いつまでもディランの味方だと伝えたくて。

 すると彼は柔らかく笑った。


「そっか。そう思ってくれてるんだ。嬉しいな」

 そう言ってまた、ジゼルに背中を向けて歩き出した。

 ジゼルは不思議そうに小首をかしげながらも、彼に手を引かれるままついていった。




 廊下の突き当たりにある部屋は、とても広い空間になっていた。

 ジゼルの何倍もの高さの天井は、丸いドーム状に弧を描いている。

 そこには色とりどりのタイルで織りなされた美しい模様が、無数に広がっていた。

 壁には青くて大きなステンドグラスが並び、降り注ぐ蒼い光が優しく部屋を染め上げる。

 祈りを捧げる礼拝堂のようなこの場所は、より一層神秘的で厳かな空気に満ちていた。


「わぁ…………!」

 ジゼルは思わず感嘆の声をあげた。

 ディランの手から離れて、天井を見上げながら部屋の中央へと、思わず足を進める。

 壮麗な光景に目を奪われながら、足元へとゆっくり視線を滑らせていくと、見覚えのある模様が視界に映った。

 彼女の足元には、蒼願の魔法の魔法陣があった。


「すごく大きな魔法陣だね……」

 ジゼルが呟くと、眺めている魔法陣が突然蒼く輝き始めた。

 湧き上がるような光が、足元から彼女を照らし出す。

「!?」

 ジゼルはすぐさまディランを見た。

 いつの間にか魔法陣の外側まで移動した彼が、静かに呪文を唱えている。


「な、何するの!?」

「僕からジゼルに向けての強い願い『いつまでも一緒にいたい』を叶えようと思って。そうしたら、僕たちはいつまでも永遠に…………」


 あくまでも優しく語るディランは、ひどく悲しそうに笑って続けた。


「一緒にいれるよ」

 



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